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エピソードⅠ

『予測されたパラドクス』アツシとケイタとその友人、大学で出会う。

予想できないできごとではなかった。

自分の高校時代を思い出すだけで、現状は理解できる。

学年が違うとは、つまりこういうこと。



『予測されたパラドクス』



大学構内で声をかけるなと、僕は繰り返しケイタに言った。ケイタにはその意味がわからなかったらしく、どう言っても承諾しなかった。

ケイタは、僕に優しくない。



「アツシ!」

学食でカレーライスを頬張る僕にかけられた声はケイタのものだ。

「誰?」

向かいに座るトオヤが聞いた。

トオヤは、たまたま新入生ガイダンスで隣に座った一コ下の現役生。

「……知り合い」

飲み込んで、不快気な顔で僕は答えた。

「ふぅん」

トオヤは言って、僕の背後を見上げた。

「アツシっ」

うるさい。僕はご飯を食べているのに。

「なに?」

振り返らずに僕は言う。

「冷たいなぁ」

「誰?」

僕の知らない声がした。

「ああ、アツシ。

小中高、全部一緒だったんだ」

「……どうも」

しぶしぶ、僕は振り返り挨拶する。

「こいつはタケオ」

タケオくんは、それはそれは今ドキな、ヴィヴィアンのマーク(それくらい僕だって知っている)の入ったシャツにスリムパンツをかっこよく着こなすモデル体型の、僕とは縁遠そうなお兄さんだった。

「よろしく。学部は?」

ああ、僕は答えたくない。

「文学部、史学科」

でも答えた。

タケオくんは、まじまじと僕の顔を眺めて、自信なさげにこう言った。

「……一年?」

「そうですよ」

僕は眉をしかめた。

史学科が創設されたのは、去年。

ケイタは一期生。

おそらくタケオくんも。

「ケイタさんて、先輩?」

トオヤが、ちょっと小声で僕に尋ねた。

僕とトオヤは二期生なのだ。

「二年生だよ、タケオくんは知らないけどね」

あー、もー、いやだ。

「こいつは、トオヤ。18歳で学科が一緒なんだ」

僕はケイタとタケオくんに、トオヤを紹介した。

「どうもっす」

軽くトオヤは頭を下げた。

「で、アツシ何の用?」

「ん? 一緒に飯食おうかと思って」

「僕はトオヤと食べるから、遠慮して」

「えっ」

「遠慮して、ケイタ」

僕は思い切りケイタを睨んでやった。

「ケイタ、またね」

言って、僕はケイタとタケオくんに背を向けて、再び冷めかけたカレーライスを頬張った。

もごもごと何か言って、ケイタは去っていったようだった。

「ケイタさんて、先輩だったの」

「違うよ」

僕はまずくなったカレーに向かって溜め息をついた。

「あいつは知り合いさ。

僕と同い年のね」

「あ、そっか」

納得したトオヤは、しばらく考えてから僕に言った。

「タケオさんとは何語で話すの?」

「日本語」

「じゃなくて、敬語?タメ語?」

「タケオくんが僕の一コ上という可能性もあるんだよ」

「確かに」

トオヤは面倒くさいね、と笑った。

トオヤのほうが、ケイタよりもよっぽど僕のことを考えている。

「トオヤ大好き」

「そこまでオレらまだ親しくないでしょ」

トオヤの言葉は最もだけど、僕の胸はちくりと痛んだ。

「ケイタは僕のこと考えているのかな」

「ケイタさんはもっと知らないからわかんないよ」

まったくもって、その通りだった。




『予測されたパラドクス』end

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