みんなちがって
小学校の教室、6年1組の授業は今は国語の時間、クラス全員で金子みすずという人の「わたしと小鳥とすずと」という作品を読んでいる。
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「わたしと小鳥とすずと」 金子みすず
わたしが両手をひろげても
お空はちっともとべないが、
とべる小鳥はわたしのように、
地べたをはやくは走れない。
わたしがからだをゆすっても、
きれいな音はでないけど、
あの鳴るすずはわたしのように
たくさんなうたは知らないよ。
すずと、小鳥と、それからわたし、
みんなちがって、みんないい。
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「はい、みんなこの歌を聴いて思った事言ってみてー」
「はいっ!」
「おっ、はやかったねー、西田君。はい、どうぞ」
「すっごいよかった! そうだよね、みんなちがっててみんないいんだよね、みんなそれぞれ違うから面白いんだもん。世界が全て僕だったら、そんな面白くない世界は無いよね! グッチやヨッシーや、いろいろな人がいるから面白いんだよ!」
そういえば、『世界にひとつだけの花』も、そんな歌だったよね、1人1人、違う種を持つって。そうなんだよね、みんな違ってみんないいんだよ。
「そうだね。いろんな人がいるから面白いんだよね。たとえば、お父さんお母さんの職業だっていろいろだよね。サラリーマンの人もいれば、市役所に勤めている人もいて、警察官の人もいれば、消防員だっている。他にもラーメン屋を経営してたり、教員の人もいるよね」
「僕のお父さんは銀行員!」
「へえ、西田君のお父さんは銀行員なんだね、お金のプロか、かっこいいねー……そこで、こんな感じでいろいろな違った人が集まって、いい社会ができているわけですが……今日の宿題。明日までに1人1人が将来の夢を書いてきて欲しいと思います。みなさん、それぞれが好きなことややりたいことがあると思います。それをよおく考えて、明日の国語の時間に発表しましょう」
「えぇ!? めんどくさいなあ……」
「思いつかない、という人は周りの人にいろいろ話を聞くと、将来自分がやりたいことが見えてくるかもしれません」
ここで、キンコンカンコンとチャイムが鳴り、学校の終わりの時間になった。
「それじゃ、今日の授業はここまで。また明日」
「きりーつ、れーい! さよーなら!」
「ねえねえ、グッチは将来何になりたい?」
「俺? 俺は野球選手! 父ちゃんが果たせなかった甲子園の夢、俺が絶対果たしてやるんだ! そしてそのままドラフト1位でベイスターズに入るんだ!」
「へえ!? そうだったんだあ!?」
野球選手かあ、将来はイチローみたいな選手になるんだあ、かっこいいなあ。
「おお! 6年後は豪腕投手、グッチと呼ばれるようになってやる!」
「ふんふん、すごいんだねえ……それじゃ、ヨッシーって何になりたい?」
「僕? 僕は俳優になりたいんだ……テレビや舞台の上で最高の演技をして、盛大な拍手とスポットライトを浴びたい……」
「ほええ……す、すごいんだねえ……」
ヨッシーにそんな夢があったなんてびっくり。そういえば、ドラマや時代劇、いつも熱心に見てるけど、そんな理由だったのかなあ。
「そう言うニッシーは何になりたいんだよ?」
「え? 僕? 僕は今まで特に考えたこと無かったんだよねえ……」
そういえば僕って一体何になりたいんだろう?
「ま、明日まではまだ時間あるし、適当に考えとけよ。それじゃな、ニッシー!」
「うん、それじゃねー!」
はぁあ……でも僕、なりたいものなんて何も無いんだよねー。夜遅くまで働いて、休日はパチンコばっかりのお父さんとか、毎日パートして家帰ってきてはグチグチ言ってるお母さんとか、居酒屋やってるけどいっつも『お金が無いんだよー』ってせびりにくるおじちゃんおばちゃんとか、いっつも女の人のおっぱいとお尻ばっかり見てニヤニヤしてる警備員の従兄弟とか……どれもこれもなりたくない職業ばっかりだもんねー。でも、じゃあ僕って何やりたいんだろって言われても……何にも思いつかないやあ。何か無いかな……?
そして、翌日。僕は昨日一生懸命考えて、1つの答えを出した。それを一生懸命自分の言葉で書いた。満足な出来栄えだ。
「はい、みんな、宿題やってきたかなー」
『はーい!』
「おお、みんな元気な返事だねー。それじゃ、昨日一番に発言してた西田君から今日もいってみよっかー」
「はい!」
僕は席を立って、原稿用紙に書いてきた作文を読み始める。
「僕のなりたい職業! 僕は将来ニートになりたいです! 働かなくても生きていけるなんて幸せです!」
「ちょっと待てえ!!」
……なぜか、僕は職員室に呼ばれ、コンコンと説教された。
『でも昨日、みんなちがってみんないいって言ったよね』って返事したら、もっと怒られた。
……ちがってたら駄目なんじゃん、大人はみんなうそつきだ。
こんばんは、ルーバランです。
ひねくれててすみません。
けど、『みんなちがってみんないい』ってちょっとだけごまかしが入っているよねとか思ってしまう私です。
そう言えば、
「やなせたかし」の「手のひらを太陽に」の歌詞、最初は
「ミミズだって オケラだって アメンボだって」
「ミミズだって オケラだって イモムシだって」
だったそうです。
その歌を歌う人がイモムシは嫌といって急遽アメンボに変わったのだとか。
「みんなみんな」じゃないじゃん。
それでは。