1、死
朝普通に起き、普通に飯を食べ、普通に学校に行き、普通に授業を受け、普通に帰る。
そんな普通の高2生活。
友達はそこそこいる。
先生との仲も悪くない。
成績は良くも悪くもない。
適当に生きてきた結果、こんな普通の人生を歩むことになった。
だが、別に不満があるわけではなかった。
ーーー
今日もいつも通り普通に帰っていた。
そういえば、明日の体育は持久走だったか...
なんでこの寒い時期に持久走なんてやるんだか。
いや、夏の持久走の方がきついかな。
そんなことを考えながら、家につき、玄関の扉を開ける。
「ただいまー」
....返事はない。
俺には兄弟がいない。
父親は子供のころから、あまり俺にかまってくれなかった。
子供の頃は少し寂しかったが、今は別にどうでもいい。
いつも疲れた顔をしているし、仕事が忙しいんだろう。
それか、単に興味がないか...
母は、俺が小1の頃に他界した。
「あ」
自分の部屋に鞄を置いたところで思い出した。
「プリント忘れた...」
あまりよく聞いていなかったが、絶対に親に渡しとけよー的なことを言っていた気がする。内容は知らん。
明日取りに行けばいいかもしれないが、父は仕事が忙しく、いつ帰ってくるかわからない。
一週間も帰ってこなかったこともある。
だが、今日は帰るというメールが送られてきている。
普段はメールなんてよこさないのに、珍しいこともあるものだ。
今日は火曜日、プリントの提出期限は俺が聞き間違えていなければ今週の金曜日。
父にプリントを渡すなら、今日だ。
ーーー
「あったあった」
こちらスネ〇ク、無事にプリントを回収...
段ボールに隠れる風に机の下に隠れ
バッ!っと机の下から出て、手で銃の形を作り構える。
もちろん、俺の銃の先には誰もいない。
...っと誰もいない教室で変にテンションが上がってしまった。
はー恥ずかし恥ずかし、まぁ誰にも見られてないけど。
靴を履き替え、帰路につこうとする。
「...お」
体育館はまだ明かりがついている。
「ちょっと覗いてくか...」
勘違いしないでくれ、決して女バスの着替えを覗く、とかそういうのではない。
だがまぁ、目的は結局のところ女バス、異性だ。
学校のマドンナ、鈴奈香さん、マジでかわいいんだよなぁ...
3000人以上から告白されたとか、千年に一度の美少女とかいろいろ言われてる。
一目拝んでからか~えろ。
ここで豆知識だが、俺の学校は中庭を通ると体育館に早く行けるのだ。
ちなみにここ、テストに出ます。
「...ん?」
中庭にある自販機のそばに、誰かがいる。
えーっと...あれは、同じクラスの徳丸か。
後二人、誰かいるな。
(うわっ...!)
やばい、あいつら二組の遠藤と中西だ...
ヤクザとつるんでるとか、八千人の部下がいるとか悪いうわさが絶えない、ここらじゃ有名なヤンキーだ。
なんでこんなところに、と疑問が湧いたがどうでもいい。早く逃げよう。
「おいおいなんだよこれ、すくねぇなぁ!」
中西が徳丸を殴り倒した。
中西が財布を手に持っている。
徳丸の奴、金を巻き上げられてんのか...
「うらぁっ!」
「ぅぐっ...」
遠藤が腹に蹴りを入れる。
さらに胸ぐらをつかまれる。
「金がねぇなら親の財布から盗んでこいや!」
「いっ...」
徳丸が地面に投げ捨てられた。
「あ、あの~」
「あ?誰、お前」
やっべぇぇ何やってんだ俺。
「なんだよ、ヒーロー気取りかぁ!」
中西が自販機を蹴る。怖い。
「い、いやこういうのはよくないかな~っと思いまして...」
「じゃあなに?君が金くれんの?」
「あ、あげます。あげますからここは穏便に...」
急いで財布を渡す。
遠藤が財布の中身を確認する。
「へ~結構あるじゃねぇか。.....ま、これで勘弁してやるよ」
「あ、ありがとうございます...」
遠藤と中西が見えなくなるまで俺は頭を下げた。
ーーー
「はぁ~~~」
こわかったぁ...
地面にへたり込んだ。
「徳丸君、大丈......」
振り返ったところ、徳丸は既にいなかった。
...まあ、いいんだ。
感謝なんて求めてない。俺がやったことは、何の解決にもならない。
あの二人はまたやるだろう。
にしても、なんで俺はこんなこと...
俺に利益はないうえに、遠藤と中西に目を付けられるかもしれないのに。
「はぁ...」
立ち上がり、体育館の方を見る。
...............帰ろ。
ーーー
「ただいまー」
返事はない。
だがリビングから父が来た。
「話がある。ちょっと来なさい」
「?...うん」
話の内容、再婚の話かな...
父は、母を愛していた。
だが、その母が死んでもう4年となる。
前々から覚悟はしていた。
ーーー
リビングには、女の人がいた。
話の内容はあまり覚えていない。
予想通り、再婚の話だった。
問題は、話の内容じゃない。
その女性がお手洗いで席を外そうとしている時。
椅子から立ち、父の後ろを通りトイレに向かおうとした時。
その時の目と表情。
あれは、明らかな敵意だった。
邪魔者を見る目だった。
どんなに鈍感なでもわかるほどの敵意。
俺の新しい母にとって、俺は邪魔者だったのだ。
ーーー
一週間後
......この一週間は、地獄だった。
それはなぜか。
遠藤と中西に、目をつけられた。
正確には、その二人を含むヤンキー集団に目をつけられた。
水曜日。
学校では散々いじめられた。
授業を受けてるとき、急に教室に入ってきたヤンキーの一人に連れ去られ、屋上で複数のヤンキーに殴られた。ストレス発散で。
教室に帰ったら、徳丸がこっちを見てにやついていた。
トイレをしていたら、バケツで水をかけられた。
友達は、慰めてくれた。
放課後は、何もなかった。
木曜日。
上靴が、なくなっていた。
引き出しの中の物が、ズタズタにされていた。
ヤンキー達が金を要求してきた。
友達は、話してくれなくなった。
放課後、家に中西が来た。
金を奪われた。
水曜日の放課後、尾行されていたらしい。
金曜日。
朝、先生に相談した。
まともに聞いてくれなかった。
その日はそのまま学校を休んだ。
外で適当に時間をつぶした。
家に、帰りたくなかった。
あいつがいるから。
毎日俺に嫌味を言ってくる、あの女が。
土曜日。
父が帰った。
相談した。
自分で何とかしろと、言われた。
本当に、俺に興味がないらしい。
日曜日。
ほとんどの時間寝ていた。
カッターで腕に傷をつけたら、少し気持ちが楽になることがわかった。
月曜日。
外で時間をつぶした。
火曜日。
この日も外で適当に時間をつぶした。
家に帰ったら、遠藤が待ち伏せしていた。
一発殴られた後、金を要求された。
また、金を渡した。
そして、水曜日。
早朝、カッターで気持ちを落ち着かせようとした。
何度やっても、気持ちが落ち着かない。
カッターを見る。
手が、震える。
震えた手で、カッターを首に近づける。
俺は、自殺した。




