エピローグ『逮捕用の令嬢はもう捕まらない』
裁判から数か月が経った。
今まで冤罪を押し付けていた貴族は、すべてが明らかになり処罰された。
元の罪より大きな罪となったのだ。
神聖侵犯に関わった人間や、隠ぺいを手伝った人間は処刑された。
また過去の小さな罪を押し付けた貴族令嬢は逮捕され、その名前は汚名として知れ渡った。
彼女たちの罪を隠すために私に冤罪を押し付けた貴族も、強い処罰を受けたと聞く。
ある日、わたしはヴァレリオと、美しい花の庭園で手をつなぎながら歩いていた。
暖かな日差しがわたしたちを優しく照らす。
辺りは花弁の絨毯のようになっている。
わたしは幸せを感じていた。
「お嬢さん。君といることが、私は本当に幸せだ。君の勇気と純粋な心に魅了されてしまったんだ」
ヴァレリオが優しくわたしに語り掛ける。
わたしは恥ずかしくなって、ごまかすように尋ねた。
「どうして、ヴァレリオ様はわたしを信じてくださったのですか?」
「実は以前、私は街の人間に変装してお忍びで出かけたことがあるんだ」
「……そうなんですか?」
「ああ。それで盗みを働いたと冤罪をかけられてしまってね。服は平民のものだし、護衛もいなかったから困ってしまったんだ。そこを、君が助けてくれた」
「……わたしが?」
「ああ。『わたしにはこの人が罪を犯す人間には見えません』ってね。そうやって、見知らぬ人間である私を冤罪から救ってくれた君が気になってしまったんだ」
だが、とヴァレリオがいう。
「君のことを調べたら、あの『逮捕令嬢』だというじゃないか。私には到底信じられなかった。勇気と純粋さを持つ君があんな犯罪を犯すだなんて。何かある、そう思って、いろんなパーティで君を探したんだ」
「そんなことまで……。……ありがとう、ございます」
「君の勇気ある行動があったからだよ」
そういってヴァレリオは優し気な瞳でわたしを見つめる。
またしてもわたしは照れてしまって、尋ねた。
「ヴァレリオ様は、なぜわたしのことをずっとお嬢さんと呼ぶのですか?」
「だって、君から聞いていないから。私を冤罪から救ってくれた時も、君は名前を言わずに去っていったし」
「でも、今は名前をご存じでしょう?」
「だけど、私たちがパーティ会場で、私は君から名前を聞いていないだろう?」
そういえば彼に名前を告げる前に、他の貴族たちが嘲笑するようにわたしの名前を言っていたことを思い出す。
その貴族たちも今は逮捕されたり、ひどい罰金刑を受けたりしている。わたしに罪を押し付けた令嬢たちも悪い意味で有名になり、もう貴族の間では晒し物のようになっているという。
「たしかに、あのときは満足に自己紹介もできませんでしたね」
いうとヴァレリオは、花びらの絨毯に膝をつき、わたしの手をとる。
「お嬢さん、貴女のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
わたしは恥ずかしくなってしまう。
「名前を教えてはもらえないのかな? レディ」
「り、リズメアです。リズメア・アシュウッドです……」
「素敵な名前だね。リズメア」
初めて名前を呼ばれて、顔が熱くなる。
「は、はい……」
「どうか私と婚約してくれないか? リズメア」
「…………喜んで」
少しだけ強い風が吹いた。
花弁が舞う。
花の絨毯に落ちたわたしとヴァレリオの影が、重なった。
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