6、慣れって怖い
次の日の休み時間。
「森尾さん、今度の日曜日また出かけない?」
「・・・えっ?」
社交辞令でまた出かけようって言ったのだとばかり思っていたのに、また誘われて驚いた。
「昨日は俺の行きたいところばかりだったから、今度は、森尾さんが行きたいところにしよう」
笑顔で出かけること前提で話してくる。
「えっと、来週はちょっと」
何も予定はなかったけど、2週連続ってなんかつきあっているみたいで嫌だなと断った。
昨日は楽しかったし、一緒に出かけるのも嫌じゃないんだけど、また手を繋いだり、褒められたりするのは、心臓に悪い。
「じゃあ、その次の日曜日は?」
「・・・」
逃げられないとわかってしまった。
これって断ったら、またじゃあ次の日曜日は?って言われるパターン???
ただ出かけるだけだし。
別につきあいたいって訳じゃないのに、なんでこんなに会いたがるんだろう?
仲良くなりたいっていうけど、男友達が少ない私の中では、結構仲がいい方なんだけどな。
「・・・じゃあ再来週の日曜日で」
色々な考えが頭の中を巡るけど、また出かけることになった。
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「森尾さんと諏訪野くんて、付き合っているの?」
「あっ、私もそれ聞きたかった。最近も教科書借りに来たり、何回も2人が一緒に出かけているのを見たって噂になっているし」
今日はクラスメイトの女子に朝一番に囲まれて、質問攻めにあっていた。
「付き合ってないよ。それに出かけているけど、行動範囲が一緒なのか、たまたま会っただけだよ」
確かに、諏訪野くんが友達と出かけるだけだし、悪いことはしていないから堂々としていればいいっていうから、変装もせずに、周りも気にしていないけど。
ここははっきり否定しないと、私が相手だと噂だろうと諏訪野くんに迷惑がかかる。
それに諏訪野くんが好きなのは令華だし。
諏訪野くんのこと好きな子も沢山いるし。
「そっか~。ならよかった。諏訪野くんに近々告ろうと思ってたんだよね。学祭も近いしさ、一緒に周りたいし。伝説も実行したいし」
「伝説?」
「あれ?森尾さん知らないの?学校祭のフォークダンス始まる前に告白して結ばれた2人はずっとうまくいくって伝説があるんだよ。素敵だと思わない?」
確かにロマンチックだなと思う。
私は無縁だなとしか思えないなかった。
諏訪野くんとは始めの方は私が誘われても2回に1回は断っていたから、月に隔週で2回出かけていた。
でも最近の日曜日は毎週のように会っている。
断るのも面倒くさくなっていたのもあったけど、諏訪野くんと出かけるのは楽しかった。
毎回誘ってくる諏訪野くんも凄いなと思うのだ。
1年の頃、大した返事も出来なかったのに、粘り強く話しかけてくれていた細貝くんを思い出す。
前からいい人なのは前からわかっていたけど、諏訪野くんは私のペースに合わせていてくれるから、一緒に居て楽なのだ。
話も諏訪野くんが沢山話しかけてくれるから、会話に困ることはない。
考えがまとまらなくて、言葉に詰まるとゆっくりでいいよって言ってくれて。
いつの間にか、友達になれて嬉しいって思えて、最近は一緒に出かけると安心できる。
相変わらず手は繋いでくるし、会うたびに今日もかわいいって言ってくるけど。
そこはもう気にするのは止めた。
そして気付いたら、毎週日曜日出かけるのが、いつのまにか習慣化していて、買い物や、映画、ゲームセンターに、図書館と色々な所へ行っている。
引きこもり気味で今まで日曜日は家でだらだらしていた私にとって、出かける度にいろいろな発見があって、楽しい。
学校で会えるけど、でも2人で出かけるのとは違う。
学校で話すと、周りの目が気になったりするけど、2人で出かけるときはなにも気にしなくていい。
今週は諏訪野くんとどこに行こうかななんて考えている自分がいて。
こんなことを考えられるようになるなんて、少し前の自分では想像できなかった。
慣れって怖いなとしみじみと思った。
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いつも貼り出されている模試の成績上位者に諏訪野くんの名前はなくて、私は唖然とした。
諏訪野くんはいつも学年10位以内に入っているぐらい優秀なのに。
最近一緒に勉強していて、わからないところあったら、聞けるし私の勉強ははかどって、この前より、少し順位が上がったのだ。
諏訪野くんとの友達づきあいは、いい方向に私が変わっていると思う。
でも諏訪野くんはどうなんだろう?
毎週日曜日を楽しみにしているのに、諏訪野くんにとってはマイナスになっているかもしれないなんて思いたくなかったけど、これは現実だ。
特に今の時期は大切な時期で、お互い勉強を頑張らなきゃいけない。
昼休みにいつものように私のクラスに来た諏訪野くんに
「今度の日曜日どうする?」と聞かれたけど、
「もうしばらく出かけるのはやめよう。この前の模試のテストの成績落ちたの私のせいだよね?ごめんね」と言った。
これからは出かけるのもう止めようなんて諏訪野くんに言われたら悲しくて寂しくて、私はきっと落ち込んでしまう。
自分で自分の臆病さが嫌になる。
つきあってはいないけど、私の中で諏訪野くんの存在はかなり大きくなっていた。
言われるよりは、私から言った方がマシだと思って言ったけど、心が痛かった。
呆然とした顔で何も言葉が出ない諏訪野くん。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、無言で去っていく諏訪野くんの背中を見ながら、もっといい言い方はなかったのかと反省した。
令華なら、もっと優しく言えるんだろうなと思った。