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キミじゃないと言われても  作者: 明瀬 うらび
3/13

3、100人中の1人

後日。


「美玖こっちこっち」


待ち合わせ5分前に着いたのに、待ち合わせ場所にすでにみんな来ていた。


テンションが高い令華。


「今日楽しみすぎて眠れなかったんだ」


今日の服装は動きやすいものに重視した私と違って、令華はふわふわの丈の長いスカートをはいていた。


「まず遊園地に来たらジェットコースターだよね」


「だね」


「うん。並ぼう。美玖もいいよね?」


「うん」と返事をしたものの、実は遊園地は生まれて初めてだった。


まずジェットコースターの意味もよくわかっていなかった。

30分ぐらい並んでいよいよ人生初のジェットコースターに乗る。


走り出したジェットコースターに驚きと興奮を感じたけど、走り終わる頃には気持ち悪くて、まともに歩けなくなった。


「ごめんね、美玖が乗り物弱いなんて知らなくて」


「いや、それは私も今日初めて知ったから。ごめんね。せっかく来たのに楽しまないの勿体ないよ。私のことは気にしないで行ってきていいよ。私はずっとここにいるから」


ベンチに横になりながら話す私に、令華は涙目になっていた。


「俺が付いているから。細貝、林川さん大丈夫だよ。せっかくだから楽しんできて。何かあったら電話するから」


諏訪野くんがそう言っているのが聞こえて、令華と一緒に出かけるのをあんなに楽しみにしていたのに申し訳なくて私は大丈夫だからと言ったのに却下された。


「女の子を一人になんてさせられないから」


諏訪野くんの一言に心がきゅんとなった。

全然諏訪野くんのことなんか好きじゃないのに、令華のこと好きだから好きになっても無駄なのに。


諏訪野くんがモテるのわかった気がする。

顔だけじゃない、こういう行動を自然に出来る優しさ。


確かに顔がいいだけじゃ、伝説みたいな噂は出ない。


「うん、じゃあ。乗り物1つだけのってくるね」

と細貝くんと令華は去った。


「ごめんね。自分でもこんなに乗りもの弱いなんて思ってなくて。令華と二人になれるようなんとかしたかったのに、役立たずでごめんね」


遊園地って楽しいイメージなのに、諏訪野くんが全然楽しめていない。

ただ横になっているだけの私のために時間を無駄にさせて本当に申し訳ない。


「俺こそ、最初行きたくないって言っていた森尾さんに無理に頼んで来て貰ったのに、もしかして行きたくない理由って乗り物に弱いからだった?俺そういうの平気だから、みんなも好きで平気だと思ってて。自分のことしか考えてなかった。ごめんね」


申し訳なさそうに謝る諏訪野くん。

本当にいい人だよなと素直に思う。


起きあがって椅子に座って、今頃飲んでも遅いかもしれない酔い止めの薬を飲んだ。

酔い止めはお母さんに持たされたものだった。


ふと思いだす。


そういえば、昔遊園地に行きたいと行っても連れて行ってはくれなかった。

今思えば、お母さんは乗り物弱くて一緒に楽しめないからって言っていた気がする。


もしかして、この乗り物酔いは遺伝かな?


「・・・・・・」


「・・・・・・」


特に何も話すことはない私は黙って横になっていたけど、沈黙するこの空気に耐えられくて、無理矢理立ち上がった。


「少し休んで具合よくなったから、令華達と合流しよう。今度は令華と2人きりになるように協力するからね」


でもまたふらついて、結局諏訪野くんに支えられた。


「無理しないで。俺は平気だから。協力とか考えないでいいから。まずは自分のことを大切にして」


自分を大切にしてなんて初めて言われた。


私の事を支えてくれる意外に逞しい腕。

かけてくれる言葉のあたたかさに、なぜだか泣きそうになった。


でもこれは私が弱っているからだ。


弱っているときにこんなこと言われたら、惚れてしまいそうだけど、2年前の過ちを繰り返してはいけない。


諏訪野くんはいい人なんだ。そして誰にでも優しい。


私だけじゃない、うぬぼれるな。


好きになったら、ショックもでかい。

あのときはまだ好きになる前だったからよかったけど、きっと好きになったら今度は立ち直れない。


人を好きになるのが怖い。


それにこの人は私の友達の令華が好きなんだ。


忘れるな。

忘れるな。


自分に必死に言い聞かせたのだった。



1時間後。


薬も効いたのか、体調は大分良くなった。


令華と合流して、静かな乗り物は一緒に乗るようにして、絶叫系の乗り物は無理に乗らず見学することにした。


湖の上でどっちのスワンが早く着くかの競争はかなり白熱したし、ゴーカートはマイペースにゆっくり走った。


もちろん諏訪野くんのために、「たまには違う組み合わせで乗り物乗ろうよ」と令華と2人にするようにした。


これで少しは思い出になって諏訪野くんが楽しめたらいいなと思った。


私にとっても夢のような1日だった。


諏訪野くんのようなイケメンに優しくされて、気づかって貰って、ちょっとだけお姫様のような気分になれた。


自分を大切にしてって言葉が本当に嬉しかった。


今日が終わればもう諏訪野くんと関わることはない。


そう、夢だと思えばいいんだ。


「ねえ、最後に観覧車に乗らない?」


「うん。いいね」


「最後だから4人で乗らない?」


4人で最後みんな観覧車に乗ろうと話していたのに、


「うーん、こういうのはカップルで乗った方がいいんじゃない?細貝と林川さんで乗りなよ。俺は森尾さんと乗るから」


意外にも諏訪野くんは反対だったようだ。


なぜだろう?


今日は令華との思い出を作りたくて来たはずなのに。


正直私はどっちでもよかったから、特に何も言わなかった。


「そう?じゃあそうするか」


と細貝くんの一言で最後の観覧者は令華と細貝くん、私と諏訪野くん、それぞれ2人ずつで乗ることになった。


観覧車はそんなに列ばずに乗れた。


順番が来て観覧者に乗ったら、早速諏訪野くんに疑問をぶつけた。


「なんで最後4人で乗らなかったの?令華と思い出作るんじゃなかったの???」


「でも、今日はなんか疲れちゃったから」


「???好きな人といたら楽しいものじゃないの?疲れたって何?!」


「・・・これは森尾さんだから言うんだけど、林川さんといると緊張するんだ。好きな人には良く思われたいし、下手なこと言って嫌われたりしたらと思うと笑顔でそうだねしか言えなくて」


「でも、さっき観覧者4人で乗る提案断ったよね???」


「・・・その、・・・限界だったんだ」


「限界って、何が?」

限界というワードって、あんまりいい感じがしないんだけど。


「・・・緊張がピークに達していて、もし4人で乗ったら俺吐いていたかも」


緊張で吐く?

私だって緊張はするけど、吐いたことはない。


「・・・もしかして、諏訪野くんってメンタル弱いの?」


「もしかしなくても、弱いよ!!」


言っていて恥ずかしくなったんだろうか、少し涙目になっていて、可愛いと思った。

今まで、爽やかなイケメンぐらいなイメージだったのに、イメージが180°変わった。


「___で、私は平気なの?まあ、吐いてもエコバッグあるから、言ってくれればあげるよ」


「うん。なんだか森尾さんは安心するんだ」


「・・・」

安心って。


気を使わないってことかな?

いい意味でだよね?


でも、それって異性として見られていないって事かな?

まあ、どうでもいいけど。


「森尾さんって、最初遊園地行く話をしたとき、俺のこと冷めた目で見ていたよね。普通人に嫌われないようにそんなことしないと思うんだけど、正直な人だなとは思ったよ。で、そんな顔見たし、さっきも具合悪そうな顔見たし、お互い様みたいな???なんか気を使う必要性感じなくて。もし嫌われてもこれ以上嫌われることないなって思ったら、森尾さんの前では素出してもいいかなって。そう思ったら森尾さんは楽で安心安全だなと」


確かにそんな目で見たかも。

少し前の自分を思いだす。


『俺、林川さんが好きなんだ。細貝と付き合っているのはわかるけど、好きなんだ。一緒に出かけるチャンスを逃したくないんだ』


と聞いてくだらないと思って、冷めた目で諏訪野くんを見たかもしれない。


「俺、昔から王子様みたいに思われていて、全然そんなことないのに。でも周りの期待に応えたくて必死だった。でも、たまに人といるとき疲れるときがあるんだ」


「無理しなきゃいいのに。変なの」


「森尾さんは自分を持って生きてるって感じがするよね。羨ましいよ」


「じゃあ、今からでも少しずつ素出していけばいいじゃん」


「うん。そうしたら楽になれるかもって思うけど、俺には無理なんだ」


外の景色を見ながら、言う諏訪野くん。

ガラスに映る顔は悲しそうだった。


私には理解できなかった。


なぜ自分を隠して無理をして生きているのか。



メンタル弱いのに。

・・・謎すぎる。


王子様のイメージってそんなに大事?


「あのね、100人いたとして、100人全員に好かれようとしても絶対無理だからって昔小学校の頃の先生が言っていたんだ。その言葉を聞いたときは、子どもだったし、みんな仲良く出来ないのかな?なんで絶対無理なの?と思ったけど、年を重ねてあの言葉の意味がわかるようになった。合う人もいれば、合わない人も居ること。ある程度割り切ったほうが、うまくやっていけないような気がするよ。100人に好かれなくてもいいじゃん」


「・・・じゃあ、もし素を出して100人に嫌われたら?」


「いや、それはないでしょ。諏訪野くん人気あるし。告白だって数え切れないほどされてるんでしょう?」


「それって、ただ女子に人気あるってだけじゃん。男の嫉妬とかやっかみも結構大変なんだ。うまくやらないと友達もいなくなるだろうし」


「細貝くんはそんな人じゃないよ。ずっと友達ならわかっているでしょう?細貝くんのこと信用してないの?」


「信用はしているけど、怖いんだ」


諏訪野くんのメンタルがこんなに弱いとは思わなかった。

なんと言っても、もう駄目な気がするけど、でも、なんかほっとけない。


「100人に嫌われなかったらいいの?1人でも何があっても嫌わない存在がいれば違うんじゃない?」


「1人は寂しいけど、確かにそんな人いたら心強いかも」


「わかった。じゃあ、私がそれになるよ。何があっても嫌わないし、いつも諏訪野くんの味方でいてあげる。私は保険でいいよ。でもね、きっと素を出しても、諏訪野くんのことみんな嫌いにならないよ。そんな予感するよ。でもその予感が当たらなかったらごめんなさいだけど」


結局イケメンだし、優しいところはあるのだ。

キャラクターを作っているっていうけど、私は本質はそんなに変わらないと思っている。


まあ、でもメンタルの弱さは驚くとは思うけど。


「本当に?」


「うん。保険があれば心強いでしょ」

安心させたくて、笑顔で諏訪野くんを見た。


「ありがとう。嬉しいよ」

ほっとしたような顔をした諏訪野くん。


イケメンの笑顔は破壊力が凄い。


好きでもないのにドキッとして見惚れてしまった。

今この瞬間、私にメンタルが弱い男の友達が1人増えたのだった

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