10、キミじゃないじゃなくて、キミがと言われる日
学校祭当日。
「じゃあ、早速1年のクラスからまわろうか」
細貝くんと令華と諏訪野くんと4人で歩いた。
このメンバーで歩くとやっぱり目立つ。
周りからの視線も凄い。
目立つのはわかっていたけど、予想以上だった。
まだ歩いて10分しかたっていないのに、逃げたくなった。
あれほど周りの目なんか気にしないと思ったはずなのに、やっぱり気になってしまう。
駄目だ、駄目だと首を振ると、
「具合悪いの?大丈夫?」と諏訪野くんに声をかけられた。
「大丈夫」と答えながら、いけないこのままじゃと思っていたら、諏訪野くんに手を握られた。
ひゃあとか、いやだ〜とか、きゃあとか上がる歓声。
・・・余計悪化した。
「倒れたら心配だから」
笑顔で言う諏訪野くん。
心配してくれて嬉しいけど、空気読んでほしい。
超恥ずかしいんだけど。
見せつけてるみたいに思われたら嫌だな。
そんなつもりはないんです。
でも実際睨みつけてる女子いるし。
そう思われてるのかな。
超怖い。
泣きそうになっているファンらしきの女子もいて、ごめんなさいと心の中で謝った。
でも手を離したくなくて、私は諏訪野くんの手を握り返した。
繋がれた温かい手にドキドキして、周りなんか気にする余裕なんてなくなった。
諏訪野くんと細貝くんと令華の影響か、どこに行ってもオマケしてくれたり、安くしてくれたりした。
美男美女って得なんだなと思った。
私は一緒にいるだけなのに全然お金使ってない。
こんな学校祭初めてかも。
去年までは友達と一緒に学校祭をまわって楽しかったけど、好きな人とまわる学校祭はまた格別だ。
一生の思い出になるなと思った。
私は今日というこの日を絶対忘れない。
「森尾さん、次はあそこいかない?」
と諏訪野くんが指を指したのは体育館の方向で。
体育館では個人やグループで発表したい人が自由にステージを繰り広げている。
4人で体育館に向かった。
体育館は今までの雰囲気とは全然違って、盛り上がりが最高潮だった。
隣のクラスの男子があるバンドの盛り上がる歌を歌っていて、ジャンプしたりタオルを振り回したりしている。
意外に歌が上手かった。
ボーカルの男子は普段は真面目で物静かなのに、全然キャラが違う。
でも学校祭ってそういう魔法のようなものがあるのかもしれない。
学校祭マジック的な?
だから私も告白しようなんて思えたのかも。
私は密かにある計画を立てていた。
今日諏訪野くんに告白しようと。
前にクラスメイトが言っていた
『学校祭のフォークダンス始まる前に告白して結ばれた2人はずっとうまくいくって伝説があるんだよ。素敵だと思わない?』てやつだ。
フォークダンスが始まるのは夕方。
その時は何とか二人になって告白するんだ。
きっとこんなチャンスは二度とないし、伝説に縁起を担ぎたかった。
やっぱり自分に自信がない私は、少しでもいろいろなものに縋りたい。
今まで諏訪野くんに私はしてもらってばかりで、私は何もしていなかった。
嫌われるのが怖くて何と言っていいかわからないし、口数も多いほうではないし、人との関係を築くのに必死になったことはなかった。
だから友達も多いほうではない。
でもそれで今までなんとかなっていたし、それでいいと思っていたけど、諏訪野くんには今度は私が一生懸命頑張りたいと思った。
でもフォークダンスの時間が近づいてくるたびに緊張で変な汗が出てきた。
こんなことを考えているけど、周りはどんどん前へ前へ進んでいく。
ライブさながらの盛り上がりだ。
諏訪野くん、細貝くん、令華と4人で見ていたはずなのに、いつの間にか細貝くんと令華がいない。
「あれ?令華達は?はぐれたのかな?」
「沢山人いたし、ぎゅうぎゅうだし、とりあえず一旦出ようか」
2人で体育館を出た。
外の空気が美味しく感じた。
「まだ近くにいると思うけど、メールしてみようか?」
と諏訪野くんが携帯を取り出した。
「うん」
と言いながらも、これって告白するチャンスなのではと思い始めた。
フォークダンスの時間にしたいと思ったけど、その時に告白出来る保証なんかない。
私でもフォークダンスの前なら告白出来ると思ったのだ。
私以外にも諏訪野くんに告白しようと思う人がいるだろう。
そう思ったら。私は諏訪野くんのメールしている手を掴んだ。
「・・・ごめん。そのメールもう少し後にして。諏訪野くんに言いたいことあるから」
「うん。どうしたの?」
諏訪野くんは優しく聞いてくれたけど、さすがに人目が気になる。
私はちょっと場所移動したいと言ったら、わかったとついてきてくれた。
バクバク高鳴る鼓動。
周りの音より自分の心臓の音が大きくか聞こえる。
「私、諏訪野くんが好き。令華が好きなのはわかってるけど、諏訪野くんの彼女になりたい。もし付き合ってくれたら、令華みたいになれるように努力するから」
告白のセリフとしては、微妙なのかもしれない。
でも、令華みたいになれるように努力するって言えば、彼女にしてくれるんじゃないかと考えた。
少しでも可能性を上げたくて、必死だっだ。
「それは、しなくていいよ」
振られたんだ。
私じゃ、やっぱり駄目だよね。
「・・・そっか。ごめんね。今まで通りこれからも友達でいよう。じゃあ令華と細貝くん探そうか」
泣いちゃ駄目だ。
ここで泣いたら、諏訪野くんを困らせる。
涙を堪えて、必死で笑って踵を返したけど、諏訪野くんに手を捕まれた。
「違う。そうじゃなくて。その林川さんみたいになるからってやつを言ったの。林川さんみたいになるとか、そんなことしなくていいよ。俺はそのままの森尾さんが好き」
「・・・えっ?私令華じゃないよ?」
「うん。だから俺は森尾さんが好き。何回でも森尾さんがわかるまで言おうか?俺は森尾さんが好き。大好き」
「・・・私でいいの?」
「いや、森尾さんがいいし、森尾さんじゃないと駄目だから」
私がいい。
嬉しくて、心が震えた。
君じゃないじゃない。
君じゃないと言われるたびに、私じゃだめなんだと。
私の価値がないように思えて悲しくなっていた。
私じゃないじゃなくて、私がいいって言ってくれた。
誰かに言って欲しかった台詞を大好きな諏訪野くんが言ってくれた。
涙が次から次へと溢れて止まらなかった。
次回最終回予定です。近々あげます。