9.5、自覚(諏訪野視点)
「あのさ、俺今度のテストで1位取るから。もし1位だったら、また一緒にどこかに行かない?俺、この前のテストは少し成績落ちたけど、俺が自己管理出来なかったのが悪いんだ。でも俺森尾さんとまだまだ一緒に行きたいところも、食べたいものもあるし、確かに今の時期は遊べないなら、俺にチャンスをちょうだい」
俺は必死だった。
頭を下げたのも無意識だった。
森尾さんとの縁を切らしたくなくて、とにかく仲良くなりたくて。
「駄目じゃないよ」
と森尾さんに言われたときは、本当に嬉しくて嬉しくてたまらなくなった。
叫ばないけど、叫びたくなるような感じ。
なんだろうこれ。
俺は絶対に1位をとってやると心に誓った。
*******
森尾さんに会いたい気持ちもあったけど、テストが終わるまでは森尾さんのクラスに行く回数を減らした。
森尾さんと出かけるのを目標に、今までも勉強している方だと思ったけど、更に勉強時間を増やした。
そうじゃないと1位なんて取れない。
やるなら全力だ。
「何必死に勉強している訳?休み時間ぐらい休めばいいのに」
休み時間に教科書を見ていると、細貝に話しかけられた。
「今度のテストで1位をとらなくちゃいけないんだ」
「何?訳あり?そんなに必死になるほど?」
「森尾さんと出掛けられるかがかかってる」
「・・・」
「・・・」
細貝は暫く沈黙した後、
「・・・それって森尾のこと好きすぎじゃねえ?」
「そうじゃなきゃ2人でなんて出かけられないし」
森尾さんのことは好きか嫌いか言われたら、好きだ。
考えるまでもない。
即答で答えた。
「その・・・恋愛的な意味で」
細貝がおそるおそるゆっくりそんなことを言ってきた。
そんなこと、考えたことなかったけど、細貝の言葉は胸にストンと響いた。
「・・・俺って、森尾さんが好きなの?」
「なんで疑問系?俺が聞いてるんだけど___って、鈍すぎだろ。森尾になんでそんなに必死なのか理由考えたら普通にわかるだろ。今だってテストで1位取るって必死になったり、森尾の言葉に一喜一憂したり、もう友達の範囲とっくに超えてるんだよ。いい加減自覚しろ」
俺は林川さんが好きで、森尾さんは友達だと思っていたけど、確かに違うのかもしれない。
林川さんの好きと、森尾さんの好きって気持ちは明らかに違う。
林川さんは見ているだけでいい。片思いでもよかった。
細貝と一緒なのを見ても、胸が痛むことはなかった。
でも、森尾さんは見ているだけなんて嫌だ。
1分1秒でも一緒にいたいし、俺以外の男と一緒なのは嫌だ。
きっと、そういうことなんだ。
俺、森尾さんが好きなんだ。
自覚したら、急に恥ずかしくなってきて、顔が赤くなるのがわかる。
慌てて顔を隠したけど、細貝には見られていて、軽く笑われたのだった。
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テストの結果が貼り出されたと聞いて、廊下を歩いていると
「1位だったよ」
「凄いね~」
「やったじゃん」
と他のクラスの女子や男子、次々に声が掛かった。
見に行く前に結果はわかったのは少し楽しみが減った気がしたけど、1位を取れたことに安堵した。
これでまた森尾さんと出かけられる。
そう思ったら嬉しくて、順位表を見に行く足どりも軽くなった。
改めて自分の目で確認する。
成績表の前の人に沢山おめでとうとか凄いねとか言われたけど、俺は森尾さんに言われたい。
催促するみたいなことはカッコ悪いかななんて少し思ったけど、言われたい気持ちが大きくて、お昼休みに森尾さんのクラスに向かったのだった。
「森尾さん、林川さん、見て見て。俺頑張ったよ」
「見たよ~。諏訪野くん頑張ったね。おめでとう。1位なんて凄いね。偉い偉い」
と林川さんに頭を撫でられた。
もちろん少し前まで恋愛の好きじゃなかったかもしれないけど、林川さんのことは好きだし憧れにも似た気持ちがあったから、素直に嬉しいけど。
やっぱり森尾さんからの言葉が欲しくて、森尾さんの方を見た。
必死に言葉を考えてる森尾さん。
かわいいな。
「・・・。・・・。・・・おめでとう」
はにかんだ笑顔が可愛くて、俺も自然に笑顔になった。
色んな人に言われたけど、やっぱり森尾さんに言われるのが一番嬉しい。
沢山言われるおめでとうより、森尾さん一人のおめでとうがこんなにも嬉しいなんて、やっぱり俺は森尾さんが好きなんだななんて再確認したのだった。
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「その・・・約束のお出かけなんだけどさ、よかったら、学校祭一緒にまわらない?・・・細貝と林川さんももちろん一緒で」
本当はふたりでまわりたかったけど、断られたら怖くて細貝と林川さんの名前も出してしまった。
細貝にも林川さんにも一緒にまわる約束なんてしてないし、細貝に言っても林川さんとふたりでまわりたいとか断られるかもしれないけど、今約束すれば、当日はなんとかなると思っていた。
「うん。いいよ」
森尾さんと約束出来たことが本当に嬉しかった。
学校祭で沢山思い出作りたいなと思った。
あと2週間先だけど、今から楽しみで仕方なかった。




