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~4~

 

 騎士学校に入学したサイモンは、日々の生活に慣れるのがやっとだった。

 それでも日ごと思い出すのはフローラのこと。

 東の辺境の地にあるこの学校は、王都やフローラの領地からはかなり距離がある。

 書いた手紙も時差がある。それでも少しずつ思いを綴り、二人の気持ちが遠ざからないよう彼なりに気を遣っていた。


 日々の訓練の他に騎士道としての座学も加わり、それなりに充実した日々を送っていた。

 それでも野戦の実地練習に入れば、食うや食わずの生活を余儀なくされる。

 少年の風貌であったその容姿も、次第に背も伸び、逞しい騎士としての骨格や体格になり始める。


 年齢はバラバラであるがそれでも近い年齢の者が多く、皆好きな子をおいてきたり、婚約者がいる者もいた。皆立場は同じような者ばかり。貴族と言っても爵位を継げない次男や、三男が多い。

 ここでサイモンは騎士としてだけではなく、生きる為の術も多いに学んだ。

 将来フローラを娶り不自由ない生活を与えるために、今自分が出来ることを貪欲に吸収していた。


 夜、眠れずに宿舎を抜け出し月を眺めることもある。

 そんな時はフローラを思い浮かべ、彼女もまた自分と同じように思っていてくれることを願った。






 サイモンが騎士学校に入学してから、フローラは毎日手紙をしたためた。

 それは日記のようでもあり、恋文でもあり、その日の出来事や思いのたけを書き記した物。

 全部を送れば邪魔になるだけ、その中から1通を選び折に触れサイモンへと送っていた。


 幾度となくサイモンに宛てた手紙に返事が届いた。

 いつもは薄い封筒であるのに、今回の手紙は少し厚みがある。

 何が入っているのかと封を切ると、幾重にも重ねられた紙の中から押し花にされたであろう『花』が一輪入っていた。


 ただやみくもに押しをしたのであろうその花は、花汁が染み出し元の色の原色をほとんど残してはいなかった。黒っぽく変色したその花汁を紙が吸い上げ、お世辞にも綺麗とは言えない代物。

 名も知れぬ小さな花。それでもわずかに残る元色は薄紫。サイモンの瞳の色。

 フローラはサイモンが自分を想いながら花を摘み、何の知識もないままに押し花を作ってくれたのかと思うと、嬉しくて愛しさが募り会いたくて仕方なかった。

 その押し花を何度も眺め、何度も手で触れ、サイモンの存在を確かめるのだった。


 フローラはその押し花を綺麗な紙に貼りつけ、栞にした。

 暇に任せて何枚も刺繍をしたサイモンのイニシャル入りのハンカチで包み、大事に、大事に机の引き出しにしまった。そして、今度は自分の瞳の色で押し花を作ることにした。

 フローラの瞳の色、琥珀色をした薔薇を自邸の庭から一輪用意すると押し花を作る。

 今度帰ってきたら渡せるように、心を込めて自分の瞳を思い出してもらえるように。

 そして、何枚も何色も刺繍をしたハンカチとともに渡す日を心待ちにするのだった。




 サイモンのいない寂しさを埋めるように過ごすフローラを気遣ってか、エイデン家での茶会によく誘われるようになる。

 エイデン家へはフローラの母も同席をする。仲の良い従兄弟同志である母たちは、話に花が咲くとフローラのことなどお構いなしである。

 そんな時、ファウエルが優しく声をかけフローラを連れ出してくれる。

 庭の散歩へ連れだしてくれたり、時には図書室で装飾の綺麗な本を見せてくれたり、温室で花を摘み花束を作ったりもした。

 年上のファウエルらしい穏やかな時間は、フローラの心を温かくしてくれるようだった。

 サイモンに会えないもどかしい時間を、そんな時間が少しだけ溶かしてくれるような気がしていた。サイモンの兄、それだけでフローラにとっては身近で頼りがいのある存在だったのだ。




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