17 2人の過去
「私たちは邪魔なようなので、どこかへ行きますね。」
お母さんらしき人が歩きながら言った。
「あっ!待ってください!……えーっと……。」
まずい……。引き止めたのはいいけど、次に言う言葉が思い浮かばない……。
「あの……ここは寒いですし、私たちが泊まっている宿であったまりませんか?お菓子も用意しますよ?……いい?和馬さん……。」
ルル、ナイス!俺の言いたい事を全部言ってくれた!
「もちろんいいよ。俺も同じ事を言おうと思ってたし。」
「えっ、でも……。」
お母さんらしき人は、どうやら乗り気じゃないらしい。
「お姉ちゃん、お菓子あるの?」
「うん、あるよ。」
「やったー!お母さん、行っていい?」
あっ、やっぱりお母さんだった。
「うーん……。じゃあ、すみません、お邪魔させていただきます。」
「はい!では、早速行来ましょうか。」
「そう言えば、お二人ってなんで路上で生活しているんですか?」
……あっ!これは聞いちゃダメだったかも……。
「やっぱり、なんでもな——。」
「いいですよ。あと、敬語じゃなくてもいいですか?和馬さん?も、敬語じゃなくても。」
「じゃあ、タメ口で。」
実は俺も敬語って話しにくいなって思ってたんだよなー。こっちに来てからは、ずっとタメ口だったし……。
「それで、なぜ私たちが路上で生活しているかと言うと……。」
今更だけど、本当に聞いていいんだろうか……。
「私たちは、元々は、ちゃんと家で暮らしていた。そのときは、幸せだった。でも、ある日、夫が多額の借金を抱えて帰ってきた。しかも、仕事をやめて……。」
酷い人だな……。多額の借金を抱えて帰って来るだけではなく、仕事をやめて帰ってくるなんて……。
「それから夫は、家で私に暴力を振るってきた。」
え?
「そのときは、まだ良かった。でも、それはだんだんエスカレートしていって、ついには娘にまて暴力を振るうようになった。」
そこまで聞いた時、猛烈な怒りが込み上げてきた。
「それが耐えられなくなった私たちは、家をでた。どこか暮らせそうな所を探していたら、ここに着いた。」
「ありがとう、話してくれて……。辛かったのに……。」
「いいんですよ。もう昔の事ですし……。」
本人はそう言ってはいるけど、俺には、まだ引きずっているような気がした。気のせいかなぁ。気のせいだったら良いんだけど……。
俺はその事がずっと気になった。
◆ ◆ ◆
ふふって、なんだか笑みがこぼれちゃいそう……。
私は、それをずっと我慢していた。
だって、好きな人が、「自分といる時間は少しだったけど、楽しかった」ってだけで私を連れ戻そうとするなんて……。
「お姉ちゃん、あの男の人、好きなの?」
女の子がコソッと聞いてきた。
え?そうな風に見えるのかなぁ。
「うん、そうだよ。」
「やっぱり!ノアもお母さんも、そう思ってたんだ!」
そうなんだ……。っていうか、この子ってノアっていうんだ。
「あっ、ちなみに、私はルルだよ。ノアって呼んでいいかな?私の事もルルって呼んで。」
「うん!ルルお姉ちゃん!」
ノアは笑顔で言った。
可愛い!守ってあげたい!
私はつい、抱きしめそうになった。
あっ!ダメダメ。急に抱きしめたら。……そういえば、前一緒に暮らしてた子たちは、よく抱きしめてたなぁ。……あの子たち、今はどうしているんだろう……。また、会いたいな。