巡って流れて沸き立つ血
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吹き飛ばされて気絶した後、目が覚めてから暫くはその場でじっとしていた。その次に身体が何ともないか確かめて、全身が痛みを訴えるが特に動くのに支障はないとわかったので周りの瓦礫をどかして外へ出た。
「あー……、体中痛いんだけど。骨折してねえかなこれ」
口にした言葉とは反対に急速に身体が治っていくのがわかる。自分の身体が明らかにおかしいのだがそれを止めようとするよりも前にやらなきゃいけない事がある。
「オマエ、コロス!コロシテクッテ、ツヨクナル!」
俺を吹っ飛ばしたのだろう化け物が俺に拳を向けて飛びかかってくる。本来ならよけなければ掠っただけで死んでしまうのだろうその一撃をあろうことか俺は片手のみで受け止めた。全身の力を使って拳の拘束を解こうと化け物は暴れだすが、俺の手は固定でもされたように動かない。そしてその化け物を見たときから体を渦巻いて暴れだしそうなほどに湧き出る感情を口に出す。
「イラつくぜ。お前のこと見てるだけでスッゲーイラついてくる」
「ハナセ!、ハナセ!」
「だからちょっと悪いと思うけどお前のこと死ぬまで殴る。俺のこと殺そうとしてたし許せよな」
「ハナセ⁉ハナシテ⁉」
ついに懇願までしてきた化け物のことを無視してあらん限りの力で拳を握って振りかぶる。最初に殴ったのは角だった。角がへし折れたらつぎは顔を殴って、殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って、動かなくなっても殴り続けた。その拳を振りつづける反復運動がようやく止まったのは、化け物が目の前から薄れて消えていった時だった。
「ああん?もう終わり……ッ⁉」
その瞬間自分の身体を突き動かしていた怒りが消える。それだけじゃなく体に満ちていた力も何もなかったかのようにさっぱりと消え去った。そして残ったのはさっきまで自分がやっていたことに対する恐怖だった、そんな俺に先ほど助けるためとはいえ突き飛ばしてしまった神薙が声を掛ける。
「もう正気に戻った?……見る限りダイジョブそうね。あなたのおかげで何とか助かったわ、ありがとう」
「な、なぁ、今のは?何で俺、あんな、殴って、イラついてたんだ……?」
混乱と共にさっきまでの自分の異常に対するわけのわからなさが溢れ出す。それを聞いた神薙はこちらが落ち着くまで待ってから話し出した。
「あなたのその状態は多分、怪異の一部を体内に持ったことで起きたもの。さっきあなたに説明した条件の中にあったのは覚えてる?」
「あ、あぁ、覚えてる」
「怪異の一部を体に持つってことは、自分の身体を怪異に侵食させるってことなの。それによって強力な力を手に入れることができるんだけどその代わり大きなデメリットもあって、取り入れた怪異の意識に同調してしまうのよ。さっきのあなたの状態は典型的なソレだった」
「それじゃあ、急にそれが解けたのはなんでなんだ?」
「これも大分専門的な話になるんだけど、怪異って一部の例外を除いて「異界」っていう結界を展開するの。この中では妖気がかなり循環しやすくなる、さっき急にあなたの中の怪異の力が目覚めたのもそれが原因ね。この異界がなくなったことで妖気の循環が元に戻った、だからあなたの身体も元に戻ったの」
神薙の説明のおかげで俺の不安はなんとか収まった。聞いたことがほんとなら俺が敢えて怪異とやらに近づかなければさっきの状態になることは無いと考えていいだろう。
「安心してるとこ悪いんだけどこっちにも用件があるの、聞いてもらえる?」
その次に神薙が口から発したのは、先程の俺の考えを真っ向から否定するものだった。
「木戸くんさぁ、ほんっと悪いんだけど君を登録外怪異能力保持の罪で逮捕します」
「はえっ?」
「申し訳ないんだけどうちの組織、国営なのよね」
今日二度目の間抜けな声は、神薙に女子とは思えない怪力で連行される俺を残して夜の割合が増えてきた空に吸い込まれていった。