ほつれて剥がれる化けの皮
茨ちゃんの視点です
目の前の少年、木戸くんにいきなり突き飛ばされた。確かに煽るような言葉選びをしたが暴力をふるうほどか、とも考えた。でもそんな思考は彼が目の前から吹っ飛んで消えたときに引っ込んで、次に見えた彼を吹っ飛ばした原因たるそれを見て術師としてのそれに切り替わった。
「怪異⁉何で⁉}
思わずといった感じで自分の口から今思ったことを垂れ流す。曲がりなりにもプロである自分に全く気取られることのなかった目の前の怪異はどうやら構えているこちらよりも自分の仕留めた獲物のことを気にしているようで、こちらに見向きもしなかった。ここからわかる情報は普通の術師にとって吉報そのもので、私にとっては詰みに近いというものだった。
「この距離に来るまで気付けなかったことはまあ、私のミスだししょうがないわ。それで出てきたのがなんっでよりにもよって低級の近接型で、それも鬼種なのよ……」
相性が悪い、それも最悪と言っていいクラスの相手だった。怪異を分類する区分の内、低級に分類される怪異は一部を除いたそのほとんどが会話はできるが駆け引き等は行えない程度の知能しかない。その為普通なら術師としても与し易い相手でしかない。しかしその前提はこの私、神薙茨にとっては絶望と同義と言ってもよい。なぜならわたしは遠距離と回復の二点に特化した術しか習得できていないために近接戦がすこぶる苦手なのだ。なので事わたしにとっては中級のような会話の成立するだけの知能がある怪異よりも何も考えずに突っ込んでくるだけの低級の近接型の方が恐ろしい敵になると言っていい。更にその特徴的な風貌と同じ階級の比べても桁違いの妖気の反応からして怪異の中でもより近接に特化し尋常ではない耐久と回復力を持つ怪異、鬼であるという事は間違いないだろう。まさに天敵としか言えない相手だった。
「幸いなことにすぐこっちにくる様子はないみたいだけど、それもいつまでかはわからない。どうにもならなそうな状況過ぎて笑えてくるわね」
そうは言いながらも手を動かして陣を組む。体内にある、契約した怪異である鳳凰から貸与された妖力を練り上げる。諦めたくなる心を前に向けるためになりふり構わずできることをやっていく。ほんとに一人だけならきっと諦めていただろうこの状況で、諦めない理由は一つだけだった。
「さすがに一般人に庇われたのに諦めるのはカッコ悪すぎるでしょ!」
「ンオ?マダイタ?」
好都合なことに私の声に反応して棒立ちのままだった鬼の怪異がこちらに振り向いた。そいつが腕を振り上げるのに合わせて術のための詠唱を始めて指を目標に向ける。
「我より孵って我より巣立て、我より散って燃え盛れ、飛び立て飛燕よ我が子達、お前の餌は我が指の先!」
詠唱が終わると同時に人差し指の先から飛び立ち宙を翔けて鬼まで向かった火の燕たちは全弾命中した。しかし当たった時にできた煙が晴れて出てきた鬼は傷一つない様子だった。
「やっぱりこれじゃダメージはあんまりないか。一応結構な力を込めて撃ったんだけどなぁ」
「ナンダァオマエ」
当たったのは確かなので恐らくはダメージに対して回復力が上回っていたのだろう。こうなってしまえばこちらにできることがほとんど無い。苦肉の策として、鳳凰の羽を剣に変えて戦うも攻めるどころか守りすらおぼつかない。今度こそ本当に万事休すといったところだった。
「オマエ、ヨワイ。ジャマスルナ」
だからだろうか、鬼の言葉の違和感に気付くことができたのは。わたしが抵抗出来なければ自身に勝てる存在はないはずなのに鬼は最初に吹き飛ばした木戸くんの方に目を向けて警戒している、それは木戸くんが普通の人であるなら明らかにおかしい状況だった。わたしが考えを巡らせ始めたその時、木戸くんが吹き飛ばされた先からガラッとものが崩れる音がした。私と鬼がその先に視線を向ける。
「あー……、体中痛いんだけど。骨折してねえかなこれ」
そして崩れた石塀の中から出てきたのは今までのわたしが出会った怪異のどれよりも大きな妖気を纏う木戸くんだった。そしてその額には天へと真っ直ぐに伸びた日本の角が生えていた。
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