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非日常の兆し

解説多めです

 いつもは一人で歩いて帰る道が今日に限っては途轍もなく遠い道に感じる。理由はもちろん判っている。俺の隣を歩く、学校にいたときからは考えられないような楽しいとはまた違った理由で浮かべられているのだろう笑みを浮かべて妙な動きを繰り返す女のせいだろう。


「なあ、それでお前の眼の秘密ってなんだよ、何か「あの娘」について知ってんのかよ、いい加減答えてくれ」


「まあまあ、慌てなくても説明するわ。ちょっとぐらい待ちなさいな」


 何度聞いても動きだけはやめずに同じ返答をする。いい加減自分がからかわれているだけなのではないかと思ってきたころ、神薙はようやく動きをやめこちらに視線を向ける。


「よっし、準備終わり!それじゃあ、あなたの知りたいことを答えてあげる。先ずはこの眼のことのことにする?それともあなたの言う「あの娘」についてにする?どれがいいかしら」


 聞きたいことはこの帰り道で山ほど増えたが、それでも聞きたいことは最初から決まっていた。


「お前が「あの娘」、俺の探してる娘のことだっていうなら、俺はまずそれから聞きたい」


「へぇ、意外。最初から眼のこと聞くと思ってた。事前の説明から入るからちょっと長くなるけどそれでもいいかしら?」


「あぁ、構わない」


 俺がそう答えた後に神薙の口から紡がれた言葉は、常識から考えてみたら荒唐無稽でしかないものだった。


「まず大前提として、この世界には普通の人には見えない人喰いの化け物たちが沢山いるの。古文書なんかに乗ってる怪物の姿や現代の都市伝説の怪人なんかの姿をとるそいつらのことを私たちは「怪異」って呼んでる。それだけじゃないわ、こいつらは人の住む場所ならどこにだってナワバリを作る。だからそれを討伐したりする為に私たちみたいなエージェントがいるの。ここまでは理解できた?」


 中二病かなんかかとかそんなのいるわけないとか、聞きたいことだけなら無限にあって言いたいことが洪水みたい口からにあふれそうになって言葉がうまく出てこなくなりそうになる。それでも聞かなきゃいけない事だけはどうにか言葉にする。


「その怪異ってのが、「あの娘」に何の関係があるってんだ。もしかして……」


「えぇ、あなたが言う昔遊んでた女の子っていうのは怪異だっていいたいの。」


「ふざけんな!」


 動揺してしまい、神薙に詰め寄って声を荒げてしまう。


「ふざけてないわよ。あなたが周りに言っていた当時の状況から考えるならその女の子は十中八九、童女の姿をとった怪異で間違いないわ」


「何で断言できる、怪異ってのは常人には見えないんだろ。だったら俺に見えてるのはおかしいだろ」


「さっきの説明の続きになるんだけどね、人間にも見えるようになる条件みたいなものがあるの。三つあるんだけどなんだかわかる?」


「わかるわけないだろ」


「一つ目は怪異と契約して力を借り受けること。私はこれね。そして二つ目は怪異の血肉を体に取り込むこと。そして三つ目なんだけどね、幼少期に怪異と長くいること、だそうよ。」


 目の前で神薙が話す言葉が、どうしようもなく過去に符号していく。それでも何とか反論しようと言葉を探してひねり出す。


「そ、それでもだ。お前の話にはおかしいところがある!」


「あら、どこのことかしら」


「お前の話が本当だとするなら、俺には怪異が見えるはずだ。お前の言う話には、証拠が無いじゃないか!」


「あるわよ、証拠。私の眼、後髪も。これ、私が怪異と契約した証だからもしあなたが怪異と会ったことないなら普通に黒に見えるはずなのよ。」


 これ以上ないくらいに知りたかったはずの秘密をこれ以上ないくらい明確な証拠として出され、反論のしようもなくてだんまりになってしまう。何年もかけて探していた大切な人が人を食う怪物だったという事実がどうしようもなく自分をその場に縛り付ける。


「そしたら、なんだよ、お前は「あの娘」を退治しに来たってことかよ」


 今自分の考えられる限り一番最悪の想像を問いかけた。しかしそれに帰ってきた言葉はその想像からは真反対のものだった。


「いいえ、別に?私がこの地域に来たの怪異の分布調査とかだもの。」


「はえっ?」

 

 気の抜けた声が口から思わず漏れ出し、体の緊張がほぐれていく。神薙はあっけらかんとした様子でそのまま言葉を続けた。


「元々あなたに声かけたのは、別に討伐対象の情報を集める為ってわけじゃなくてこの辺りを知ってて怪異を見れるやつをスカウトするためだし」


「ス、スカウト?」


「そう、スカウト。うちの組織ってば慢性的に人員不足でさ、ほんとなら私のやってる調査だって複数人でやる物なのに単独でやらせるんだよ。ひどいったらないよ、まったく」


 空気が弛緩して、話に雑談が混じってくる。そうしていたからだろうか、酷い違和感に襲われた。いつもなら既に家につくはずの時間なのだがまだ家についていない、それどころか家路の半分程も進んでいないのだ。


「どうしたの?」


 こうゆう事態に詳しいのだろう神薙はどうやら気づいておらず、立ち止まったまま交差路から動かない俺に訝しげな表情を向けている。自分で考えていても仕方ないため神薙に伝えようとしたとき、こちらに向かってくる何かを見て俺は咄嗟に目の前の彼女を突き飛ばす。


「ちょっと⁉何すん……」


 突き飛ばされて怒る神薙の顔が目に映ったのと同時に俺の意識が消えて、身体は何かすごい勢いの物にぶつかって石の塀に向かって吹っ飛んでいた。

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