不明な転校生
今の熱が冷めないうちに投稿します
なんだか懐かしい夢を見ていたように思う。
それが目を覚ました時に感じたことだった。朝のホームルーム終わりのざわめきと窓の外から大合唱を響かせる蝉たちの鳴き声を聞きながら寝起き特有のけだるさを振り払ってあたりを見回す。すると普段は授業のために準備をしている真面目な奴から授業が始まるまでひたすら集まって駄弁っている奴を含めてクラスメートのほぼ全員が一堂に会して一つの机を囲んで何やら盛り上がっていた。
「なんだ、あれ?」
「お、ようやく起きたかよ秀児、お前何言っても起きないから熊ちゃん先生すっげー怒ってたぜ」
「うげぇ、それマジ?勘弁してくれよ、あの人説教マジで長いんだよな」
声を出したのに反応して新学期の頃から前の席に居座り続ける悪友の神田浩二が、担任教師が不機嫌である事を嬉々として伝えてくる。
「まぁいいじゃん、女教師と放課後の教室で二人きりかもなんだぜ?」
「そう言うんならわが親愛なる友人の神田君に是非とも変わってほしいね、俺には放課後やらなきゃいけない事があるからな」
「前に言ってた子供のころに酷いことした女の子を探すってヤツだっけ、今更見つけてどーすんだよ、謝ったりすんの?向こうもとっくに忘れてるかもしんないのに」
「うるせーよ、俺はどうしてもあの娘に会って言いたいことがあるんだ」
痛いところを疲れてどうしてもとげとげしい言い方をしてしまう。話の流れを変える為に教室にできた謎の人だかりについて話題を向けた。
「俺のことは良いからあの集まりはどうしたんだよ?普段一緒にいないような奴らまで集まってるし」
「木戸がいいならオレは構わないけどね……、あれは転校生に対する質問大会さ」
「転校生?この寂れた町と山しかない隠山市にある我らが市立隠山高校に?そりゃまた珍しいこともあるもんだ」
俺たちの住む隠山市は都会に近しい場所にあるものの新しい建物があるわけでもない。何か欲しいものがあるなら都会に出たほうが色々とモノがあるという寂れ具合で、唯一誇れるものがあるとするなら学校とは真反対の場所に位置する今時では珍しいぐらいに木々の生い茂る山。
それぐらいしか良くも悪くもこの街には特筆すべきことはないのだ。
「それは確かにオレもそう思うけど、その寂れた街に住んでる奴に言われたくはないだろうさ」
「そりゃ言えてる、そんでその転校生ってどんな感じの顔?イケメン?それとも美人?」
「神薙茨って名前のメチャクチャ美人な黒髪黒目の女の子さ、きっとこれからはうちの学校のマドンナだね」
「可愛いっていう割にいかつい名前してるね、っていうかマドンナっていつの時代の言い方だよ」
そうやって神田と駄弁ってるうちに授業の初めを知らせるチャイムが鳴った。転校生を覆っていた人だかりも徐々に自分の机に戻っていく、そんな中1限担当の教師が来る前にちらりと見えた神薙茨は、言われた通りとんでもなく綺麗な顔をしていて、髪は宝石のような赤みがかった黒髪で、極め付きに見たこともないくらいに透き通った真っ赤な目でこちらを見ていた気がした。