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《日曜日・④》

「――え、なに? どうしたの??」


思わず両腕の力を緩めながら、高崎さんとスカイツリーを交互に見つめる。


「高崎さん……?」


息を荒げながらスカイツリーと私を交互に見つめる彼女と目が合う。


「あなた、もしかして……」



何かに気付いたかのように、高崎さんは再び両手を前方にかざす。


「そのまま、私にしがみついていて」


言われるままに高崎さんにしがみついていると、彼女の掛け声とともに心柱が再び大きく激しく軋む。

同時に彼女に力を吸い取られるような、彼女とひとつになるような……

そんな心地良い感覚が私の身体を包んでいく。



「やっぱり……あなたも私と同じ、磁力を操る事ができるみたい」

「え、そうなの……? でも私、今までそんな事できた事ないよ……?」

「正確には私のような人の能力を高める事ができる……増幅器みたいな能力ね。

 組織のサポートメンバーにもそう言う子はたくさんいるけど……」


「あなたの力は、今まで私が見た誰よりも遥かに図抜けている」



「え、それじゃあ……」


視界がぱあっと明るくなり、大気の淀みが晴れ渡る錯覚を覚える。


「わたし、高崎さんの役に立てるの!?」


私の言葉に微笑みながら頷くと、高崎さんは再び前を見据える。


「――私に掴まって、精一杯応援してちょうだい?」

「うんっ!!」


高崎さんに再びしがみつき、心の中で何度も応援の言葉を繰り返す。

がんばれ、がんばれと叫ぶたびに、凄まじい轟音や心地良い感触と共に心柱の周辺の大地が陥没していく。



隕石は既に肉眼でも小さく見える位置まで迫っていて、

キラキラと輝きながら世界に確実な死をもたらそうとしている。


だけど大丈夫、もうすぐ心柱は引き抜く事ができる。


後は狙いを定めて、高崎さんの力で心柱を――




「ぁ――」




急に、身体の力が抜ける。

そしてそのまま、驚く高崎さんの身体にもたれかかるように倒れ込んでしまう。



「――どうしたの!? まさか、慣れない力を使い過ぎて――」

「……うぅ……高崎さん……」




「……おなかすいた……」


「えぇぇぇ――――!?」



良く考えたら今朝は朝食も食べずに家を飛び出してしまった。

もっと良く考えたら昨日は大好物の……なんだっけ、とにかく夕食も食べなかった。


その状態で朝から自転車を漕いで、さっきは高崎さんも乗せて自転車を漕いで。

高崎さんにパンツも見られて……私はもはや体力の限界に来ていた。


「下着は関係ないでしょう!? 昨日のお昼にあれだけ食べたんだから、あともう少しだけ頑張って――」

「無理~……このままだと地球より先に私のお腹が凹んで死んじゃう……

 高崎さん、近くのコンビニでおにぎり買って来て……」

「そんな時間もうないわよ!? ほらもう小惑星が見えてるでしょ!?」


高崎さんは私の身体をぶんぶんと揺らすけど、私はもはや指一本すら動かせない。

ごめん高崎さん、世界の危機より食欲を優先しちゃう私でほんとごめん……



「――~~~もうっ――!!!」


今まで聞いた事のないような叫び声を挙げて。

高崎さんは吹っ切れたように駆け出し、少し離れた位置に置いてた鞄を拾い上げる。


そして倒れている私の側で鞄を逆さまにして何度も強く振ると、

スマホや財布などの小物に紛れて、見慣れた黄色い箱が何箱も地面に落ちた。



「あぁぁ~~っ!! これは……カロリーメイトのフルーツ味!!」



鞄の中はほとんどそれしか入っていなかったんじゃないか、

と思うほどの量のカロリーメイトが山のように重なっていく。


「え、でもどうしたのこれ!?……まさか私の為にこれを!?」

「違うわよ! ……あなたと一緒で私も燃費はあまり良くはないのよ。

 それで作戦前にたくさん食べようと持ってきていて……あぁもう!」


ダイエット中なの、と澄ました顔で語っていた時とは別人のように、

高崎さんは顔を真っ赤にして鞄を放り投げる。


「え、じゃあ高崎さんも食べた方がいいんじゃない?

 このままだと多分わたし全部食べちゃうと思うけど……」

「いいから早く食べなさい! ……あ、でも一箱だけいただくわ」

「うん!」



空にはキラキラと輝く太陽と隕石。

周りには誰もいない穏やかな昼下がりに始まった、5分間だけのピクニック。


私達は無言で、だけど昨日の続きを楽しむように食べて、食べて食べて……

そして気付けば、黄色い空き箱が山のように積み重なった。



「よぉ~~っっし!! お腹いっぱい! 頑張ろう高崎さん!!」


唖然とした顔で空き箱の山と私を交互に見つめる高崎さんは、

それでもすぐにいつもの澄ました表情に戻って立ち上がった。


「――えぇ、頑張りましょう。また私に掴まってくれるかしら」

「うん……!」



高崎さんの後ろに取り付き、そのまま両腕をお腹に回してぴったりと抱きつく。


彼女の身体の熱を、頬についた食べかすのフルーツ味の匂いを感じながら、

目を瞑って高崎さんとひとつになるイメージを念じる。



そのまま高崎さんが両手を前にかざし、お腹に力を入れるのを感じた次の瞬間。


それまでとは比較にならない、耳をつんざくような轟音と共に、

巨大な心柱が基礎の鉄柱ごと全て、一気に、引き抜かれた。



「――――。」


再び唖然とした表情に戻りつつも、高崎さんは両手をしっかりとかざし続ける。


「やったぁ! すごい、すごいよ高崎さん!!」

「――いいえ、凄いのはあなたよ。 まったく、なんて燃費なのかしら……」


呟きながら高崎さんは上空を見上げる。

炎に包まれた隕石がぐんぐんと迫ってくるのが見える。



「あれ、でも……高崎さん、このままだとここの真上に落ちて来ないんじゃ……」


隕石はスカイツリーの真上からではなく、少し角度をつけて落ちてきている。


このまま真上に心柱を射出しても、多分隕石には当たらず外してしまう。

今から引力を飛ばしても落下角度は大きく変わらないし、

スカイツリーの真上に来るまで待ってたら隕石に潰されちゃう――


そんな予定外のピンチなのに、高崎さんは嘘のように落ち着いている。



「大丈夫」


一言だけ言うと、彼女は念じる力を更に強める。

彼女の身体が熱くなって、それに吸い込まれるように私の身体も熱くなって……



辺り一帯に響く激しい金属音と共に。


――スカイツリー全体が、隕石の方向に向けて少しだけ捻じ曲がった。



「……高崎さん、すごい……」

「何度も言わせないで。凄いのはあなたよ」



「今の私なら、あなたと一緒なら――何だってできる」



そう言って高崎さんはスカイツリーの根元から頂上まで、

そしてその先にある真っ赤な隕石をまっすぐに見据える。


基礎ごと引き抜かれた心柱はスカイツリーの外殻を覆う磁力にはさまれ、

不自然なほどふわふわと揺れながら自らの出番を窺っている。



「いち、にの、さんで私が合図したら全力で力を送って。

 心柱を射出した後も、小惑星を破壊した後も――最後まで、私に力を貸して」

「――うん。頑張るよ、高崎さん」



緊張で鼓動が速くなるのをぐっと押さえつけるように、

高崎さんのお腹に回した腕をぎゅっと抱き締める。


肩に乗せた私の顔の方を少しだけ向き、静かに微笑んだあと。

高崎さんは正面を向いて深くゆっくりと息を吐く。

そして両手を強く握り、心柱の挙動を安定させながら、三たび上空を見据える。



狙うは、ただ一点。



「行くわよ……いち、にの――さんっ!!!」



合図に合わせて私は息を止めながら高崎さんを強く抱き締め、

高崎さんは握った両手を勢い良く天へと振り上げる。


――刹那、大気を全て巻き込むような稲光と轟音を発しながら、

数百メートルもの心柱が飛び出し、スカイツリーの外殻を残して上空に放たれる。



「――高崎さんっ!!」


信じられない光景に見惚れる暇もなく、高崎さんを強く抱き締め続ける。

彼女は上空に向けて磁力を放出し続け、心柱の加速と隕石の減速を同時に試みる。



外殻の放電が止まり、あたりを静寂がつつむ中。

紅く輝く隕石に向けて心柱が飛んでいく光景が、

まるでスローモーションのように私の目に映し出される。



"世界が滅びる理由は愛だと思うし"



あの言葉が再び頭をよぎる。


そんな事はない。

もし愛を理由にして世界が滅んじゃうなら。

愛がその程度のものだと神様が言うのなら。



"私はそれを、愛とは呼ばない。"



「――呼びたく……ない!!」



強く、強く――壊してしまいそうなくらい彼女を抱き締める。

静寂の中に大気が弾ける音が差し込み、心柱の速度が更に上がっていく。




「「いっけええぇぇぇ――――!!!!」」




晴れ渡る青空の中。

心柱は隕石に吸い込まれるように飛んでいき――。



――次の瞬間、地表まで届く衝突音と共に。


隕石が真っ赤な軌跡を残しながら、キラキラと弾けるのが確かに見えた。





【世界滅亡まであと254160872日】

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