《月曜日~木曜日》
"世界が滅びる理由は愛だと思うし、"
"私はそれを愛とは呼ばない。"
・
気だるい月曜日の午後。
青空に響くチャイムが、私を睡魔と退屈から解放してくれる。
「結乃ー! はやく帰ろー!」
友達に連れられて教室を出る時、いつものようにドア側の席にちらりと目をやる。
誰からも呼ばれず、誰とも話さず隅っこでじっと座っている女の子。
先月転校してきたその子のことが、私は気になって仕方がなかった。
『じゃあこの問題をー……高崎、答えられるか。 ……おーい、高崎!』
『……磁石が動いて無いのでコイル内に電力は発生しません』
『お、おう。正解だ。流石だな、高崎』
高崎さんは授業も聞かずにじっと座っているように見えて、
先生に当てられてもいつも完璧に答えられるすごい子だ。
なのに友達も作ろうとせず、転校して以来ずっと一人で過ごしている。
いつか話そう話そうと思いながら友達に連れられて教室を出てしまうが、
その度に身体が引き寄せられるように彼女の事を見てしまうのだ。
「どうしたの結乃?」
「ううん、何でもない。いこっか」
「何か最近変だよ結乃ー?LINEのプロフには変なポエム貼ってるし。
世界が滅びる理由が……なんだっけ?」
「愛だよ愛!いやぁ、何か最近ポエムに目覚めちゃって~。
って痛い?あんなの貼っちゃうのやっぱヤバい?」
自分でプロフ画面を確認しながら、急に自分のセンスに自信が無くなっていく。
「LINEプロフなんてそんなに見ないし大丈夫じゃない?
それにしても愛が世界を滅ぼすか~、こないだの彗星も愛が原因なのかな?」
「んー、よくわかんない!」
そこまで言って二人で笑いながら、いつものクレープ屋を目指して駆け出す。
去年の彗星が逸れずに地球に落ちてたらそれこそ世界が滅んでたかもしれない。
いつ世界が滅んでもいいように美味しいものはたくさん食べておかなきゃ。
・
「そういや高崎さんはお昼にカロリーメイトばかり食べてたなぁ……」
上野で途中下車して首尾よく買えたいつものクレープを頬張りながら、
ふとそんな事をつぶやく。
「高崎……あぁ、転校生の高崎さんね。そうなの?」
「うん、いつもカロリーメイト1箱食べておしまい。ダイエット中なのかな?」
「結乃とは大違いだね」
「なにを~~!! 私だってその気になればいつでも絶食できるもん!」
「じゃあその2つ目のクレープちょーだい」
「それは駄目~~!!」
クレープを取られないよう慌ててたいらげて。
その日の夕食は大好物のカレーライスを2皿食べて。
「今日も多分食べ過ぎたよなぁ……明日こそ、明日こそは我慢しなきゃ……」
お腹の肉をつまみながら、私はぐっすりと眠りについた。
【世界滅亡まであと6日】
・
「ねぇ、高崎さん」
月曜ほどじゃないものの相変わらず眠い火曜日の午後。
いつものように連れ出す友達が休んでいた事を契機に、私は彼女に話しかけてみた。
「…………なに?」
いつものように教室の隅っこでじっと座っていた彼女は、
まるで今日の空模様のように重々しく、けれどはっきりとこちらを向いてくれる。
「帰りにクレープ屋に寄ろうと思ってるんだけど、高崎さんも行かない?」
「…………ダイエット中だから遠慮しておくわ」
「あっやっぱりダイエット中なんだ、いつもカロリーメイト食べてるもんね!
私あれのフルーツ味が大好きでさ~」
(……ん、何でクレープからカロリーメイトの話になってるんだろう?)
「……別にあなたとカロリーメイト談義をする気はないわ。
いつも行ってる友達が休みなら独りでクレープ屋に行けばいいじゃない」
「一人で食べると美味しくないんだもん~!
ね、お願い!高崎さんの分も私のおごりで私が食べるからさ!」
「それは奢りとは言わない……って、ちょ、ちょっと!」
何か言いかけた高崎さんに構わず、私は彼女の手を引っ張り教室の外へと駆け出す。
困惑と冷やかしの混じったざわめきが教室の中に広がっていたが、
私はそれを特に気にも留めなかった。
「……あれ」
そうして辿り着いたいつものクレープ屋には、
そこそこの確率でいつも見掛けるシャッターが閉まっている。
「……休日、みたいね」
「だねぇ……ここのクレープ屋、ちょくちょく臨時休業する事があってさ。
うぁ~残念だなぁ、今日はイチゴショコラパイクレープの気分だったのに……」
「…………残念だったわね。それじゃ、私はこれで」
(……あぁ、せっかく高崎さんと仲良くなれそうだったのに……!)
「――ちょ、ちょっと高崎さん!」
「……なに?」
「や、えっと、えーっと、その――LINE交換しよ!」
「――…………はぁ?」
今にも雨が降りそうな表情の高崎さんに構わず、私はあたふたとまくし立てる。
「あ、いや、私、高崎さんとお話したくて、クレープも食べたくて、
だけどクレープ売ってないから高崎さんとお話できなくて、
でもお話したくて、LINEだったらクレープ食べなくてもお話できるから――」
「……別にクレープは食べなくてもお話はできると思うけど」
「あっ、そうだよね!えへへ……。
でも、LINEでも高崎さんとお話したくて……駄目かな?」
「…………。」
ぽつり、ぽつりと雨粒が落ちる。
周りの人並みがにわかに慌ただしくなっていく。
「…………はぁ、いいわよ。クレープに免じて交換してあげるわ」
「――ほんと!? やった、やったぁ!! ありがとー!!」
「でも私からは多分話さないと思うし、返事もしないかもしれないわよ?」
「いいよいいよ!高崎さんの分も私がお話するからさ!
ほら、雨に濡れちゃうから早く帰ろ!」
「ちょ、ちょっと! ……もう、なんなの……?」
その日の夕食は大好物のハンバーグを2個半食べて。
私はベッドに潜りながら、スマホと私の充電が切れるまで高崎さんに話し続けた。
【世界滅亡まであと5日】
・
[見て見て、今日はロイヤルチョコレートキャラメルクレープにしちゃった!]
[5時限目が体育だったからお腹ぺこぺこだよ~、もう1枚食べられそう!]
[おいしそうね]
[美味しいよ~!!高崎さんも今度食べようよ~!]
「結乃、何か今日はやたら機嫌がいいね。何かあったの?」
昨日とはうって変わってからっと晴れた水曜日。
スマホを弄りながらクレープを頬張る私の顔を友達が覗き込む。
「え、いや普通だよ!全然いつも通り普通ー!」
「……何か怪しいなぁ。さては昨日私が休んでる間に何かあったな~?」
「何でもないよ! あっほら、次はタコ焼き食べよ~!」
「こら、待ちなさーい!抜け駆けして彼氏作ってたら許さないわよ~!!」
友達とはしゃぎながら、タコ焼きを食べながら帰って。
夕食は大好物のスパゲティミートソースを2皿食べて。
[私、高崎さんとお話したかったから今すごく楽しいよ!]
[私ばっかり話しちゃってごめんね!うるさかったら言ってね!]
[構わないわよ]
溢れるほどの既読マークと、僅かに混ざる小さな返事を見返しながら。
私は何度も、高崎さんに話し続けた。
【世界滅亡まであと4日】
・
[あなたのプロフィール画面、少しおかしいわね]
[そうでしょ~、最近ポエムにハマってるんだ!]
[っておかしいかな!?]
[あなたならクレープの写真にした方がいいんじゃないかしら]
[クレープの写真撮ってたら出来立てを食べられないよ!]
[この間みたいに食べかけの写真でもいいじゃない]
[そんな写真プロフに乗せられないよ~!!]
薄雲から太陽の光がのぞいていた木曜日。
私は夕食に大好物の唐揚げを20個食べて、
火曜や水曜のようにパジャマ姿でスマホを弄り続けている。
あれから高崎さんとの会話は途切れる事なく続いていた。
そればかりか、小さな返事が少しずつ長く、頻繁になってきた気もする。
[でも詩の内容は悪くないと思うわ。他にどんなのがあるのかしら]
[ありがとー!!]
[うーん、これとかどうかな?]
ベッドの上で足をばたばたさせながらプロフの画面を変える。
"ほうき星、煌めきは聖夜に消えて。"
"私の心のともしびには届かなかった。"
[ほうき星?]
[うん、去年の彗星を見て思い付いたやつ!]
あの時は年の瀬なのに街も世界も彗星の話題で持ちきりだった。
『確率は低いですが、このまま地球に落下すると甚大な被害が予想されます』
そんなニュースの声にみんな驚いて、色んなものが売り切れた覚えがある。
結局イヴの日の夕刻に最接近した彗星は、そのまま逸れてどこかに行ったんだけど。
[あなたは彗星に落ちて来て欲しかったの?]
[うーん]
[もう少し近くで見たかったかも?]
[彗星が落ちたらみんな死んでしまうのに?]
少し間を置いて届いた彼女の言葉に対して、私は少しだけ返答を考える。
あの日も今日と同じで唐揚げが夕食だったんだっけ、とまず思い出したあと、
当時の自分の心境を思い出してみた。
[上手く言えないけど……]
[その時は、死ぬ事より彗星をもっと見たい事を考えちゃってたかな?]
[でも、他のみんなも死んじゃうのはやっぱり困るかなぁ]
[そう]
短い返事を最後に。
その日は高崎さんの返事も、既読マークも着く事はなかった。
【世界滅亡まであと3日】




