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隣にいるのは、君がいい。  作者: ゆめおい しん
第1章 日常から
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喪失

(俺のせいだ…。俺のせいで…空は………)

自分を卑下し続けること丸一日。


未だ空の目は覚めずにいる。


出血の量は多く、酷い打撲と捻挫が目立つ。骨は折れていないとのこと。しかし頭を強く打っているため、意識が戻るのに時間がかかりそうだと医師は言う。

ベッドに眠る空の手を握り、体温を確認すれば生きているとわかるのだが。


心持ちは何処までも暗い。


「晴くん…。学校は…?」

目を真っ赤に腫らして訊くのは空の母、幸子ゆきこであった。

「………空の目が覚めるまで…行きたくない…。」

「でも…」

「俺のせいだから…。俺が空を傷つけて…飛び出した空を止められなくて………。」

空を切った空へと伸ばした手、厚い扉に遮られた空との間を思い出す。

一睡も出来ず、何も食べず、空の側を離れずにいた。

脈拍は正常、骨折はしていないという喜ばしい情報よりも、助けられなかった自分に対する怒りや嘆き、苦しさから放たれることなく、鉛のように身体中重たい。

「………ゆきちゃん…。俺……」

「晴くん顔色悪いわね…。休んだら…?」

償いの術を探すばかりの1日。数年ぶりの大泣きに疲労が溜まってきた夕方。

「……空の側を離れたくなくて…」

「……でも…お母さんが心配してたよ…? そろそろ帰ってご飯食べて来なさい」

晴にとって第二の母親である幸子にそう言われると逆らえなくて、無言のままゆっくりな足取りで病室を後にした。



(このまま目が覚めなかったら…寝たきりだったらどうしよう…。)

嫌な方向へと想像は膨らみ続け、後悔ばかりが取り巻く。久々に摂る食は呑気に味わえるものではなくて、ただ身体を構成する栄養となって取り込まれた。

(………空に八つ当たりした…。片想いだって…わかってたのにさ…。)


空の嫌いなところなんて無いのに。


強引でマイペースで他人想いで可愛くて。欠点を含めた全てが愛おしいのに。

先走って言った言葉は思ってもない言葉だった。空の胸に深く刃物を突き立てる、そんな鋭利な言葉。

「………晴…大丈夫…?」

「………」

父母の心配など気にせず、ご飯を如何いかに早く食べ終えて空の病室へと向かうか。そればかりを考えた。



そしてご飯を食べ終えた頃、晴の携帯に電話が入る。相手は幸子であった。

「っ…! ゆきちゃん…どうかした…?」

『空の目が覚めた…』

「…!今すぐ行く!」

求めていた朗報。嬉しさと安堵に包まれた晴は、急いでバッグを手に取り、空の入院している病院へと自転車で向かい始める。

(そら……空…)

顔を見たらまずは謝りたい。悲しい顔をさせてごめん。嫌いじゃないよ。


昔からずっと大好きだよ。


身勝手な想いを伝えたくて、ひたすら自転車を漕ぎ続けた。



上がる息や心拍数など、どうでも良くて。

《ガラッ》

白を基調とした病室に足を踏み入れた。

「空…」

泣いている幸子や空の父の雅彦まさひこに一礼して、ベッドへと近寄った。それから頭に包帯を巻き、大切な幼馴染と視線を交える。

最初に伝えたい一言『ごめん』よりも先に…。

「良かった……」

じんわりと熱くなった目頭に涙を溜めて、晴は安堵の声を漏らした。

「…………空…俺…」

今度こそ、謝罪と自分の気持ちを伝えようと試みる晴。これで幼馴染に戻れる。多少は告白のせいで関係が拗れるかもしれない。でも今のままよりは、よっぽどいい。

「空に伝えたいことがある…。」

その『伝えたいこと』を伝え終われば全てが終わる。長年続いた片想いも、今までの友達のような幼馴染の関係も終わる。


だがしかし、次の空の言葉を聞いて思い知る。


「あの……あなたは……誰…?」



この騒動は序章に過ぎない。



「え……?」

頭の中が真っ白になった。空の嫌がらせかとも考えたが、彼女の性格から鑑みてそんなことをするわけがない。

「………空…記憶がないの…。私たちのことも…覚えてなくて…」

母親の幸子がそう言う。


目の前にいるのは確かに島崎空そのもので間違い無いのに、浮かべる表情やまとう雰囲気は全くの別人だった。


朝倉晴、16歳。


高校2年生の春、大切な幼馴染を失う。


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