ヴァイオレットエバーガーデン劇場版【ネタバレ有り】
CH郵便社が届ける、手紙の魔法。
あらすじ:離れ離れになった姉妹の想いを届けます。
テレビでヴァイオレットエバーガーデンを観ていた頃、毎回のように泣かされていて、こんなに毎回泣くアニメに出会ったのは初めてだと思った。
なぜか、泣かされてしまう。これはヴァイオレットエバーガーデンの魔法だと思っていて、今回の映画でも自然と涙があふれてきた。この涙の正体を知りたいと思った。
色んな方のレビューを読んでいたら、「毎回、誰かの『あいしてる』が手紙になったとたん、泣かせにくる」と書いていて、これだと思った。
要は、あれだ。結婚式に花嫁が読む手紙。当たり前に胸の中にあるんだけど、普段口には出さない、大切な人への想い。文字にして読むと、なぜか予想以上に泣けてしまう。聞いてる方もなぜか感情移入して泣けてしまう。全員大号泣。きっとあれをアニメでやられてた。
映画の話に戻すと、多分、一年くらい前から楽しみにしてた。結構前から手帳に上映開始日を書き込んでいた。万が一にも見忘れるなんてことがないように、できれば初日に観に行く予定で。あんな事件がなくても。
実際は忙しくて、公開から一週間が経ったレイトショーだったんだけれども、たくさんの人が観に来ていた。男性客の団体さんも多かった。私は知っている。彼らの目当ては百合だ。
なんというか、ヴァイオレットエバーガーデンの世界って、とても日本的だ。雰囲気はフランスっぽいのに、『就職して3年目の壁』とか、『寿退社』と『結婚しても働く女』とか。電波塔なんて、昭和の匂いがプンプンするじゃないか。ベネディクトが乗るオンボロバイクはより三丁目の夕日を思い起こさせる。
時は遡ること4年前。貴族の女の子達が集う寄宿学校。エイミーは自分を道具としか思っていなさそうな父親に本当の名前まで取り上げられ、女の園で淑女になることを強制されている。卒業したら、どこかの金持ちの妻にさせられることは目に見えていて、エイミーは自由な世界に憧れている。
そこへ、家庭教師として派遣されたヴァイオレット。え、自動手記人形サービスって、そんなことまでするの?
侍女として一緒に登校するうち、地味なエイミーより目立って、『騎士姫様』なんて呼ばれる始末。果ては金髪縦ロールの女の子が、取巻きと共にやって来て……なんて、学園生活が続くのかと思っていたら、そこはあっさりハッピーエンド。エイミーと金髪縦ロールの女の子は、どうやら友達になったようでした。
ただ、それが(学園生活がうまくいったこと)が良かったのかどうか、結婚後のエイミーを見て疑問に思ってしまった。
彼女は、結局牢獄にいる事に甘んじてしまったのではないか。妹のためにすべてを捨てて、自分の将来にも目を瞑って、不自由だけど何不自由のない世界に囚われ続けることになってしまった。
一方、妹のテイラーは、姉と引き離された後、孤児院で暮らしている。姉から届いた謎めいた手紙を何度も人に読んでもらい、姉が自分のためにすべてを捨ててくれたことを理解している。手紙は幸せを運ぶもの。姉から届いた手紙は、自分を幸せにしたから。だから将来は郵便配達夫になるんだ。今はまだ字が読めないけれど。
そこでまた手を差しのべるのがヴァイオレットである。所在のわからない姉に手紙を書きましょうと提案する。
ヴァイオレットはどうも、まだ人との係り方がよくわからないようだ。なぜなら年下で、自分が世話をしているテイラーにさえいちいち「様」づけをする。
郵便配達夫のベネディクトは頑張って、現在のエイミーの住所を探り出す。「届かなくていい手紙なんて、ないんだ」。
ところで、彼の背中が開いた服はとても涼しそうである。
妹は姉に手紙を届ける。ベネディクトを通して。思いがけず妹からの手紙を受け取った姉は、手紙から伝わる妹の想いに喜びの涙を流す。
妹は幸せになり、世間への復讐は果たされたんだ。
エイミーが最後に白い服を着たことが、「卒業」を意味するなら、これからの彼女が自由を手にすることを願ってやまない。
作中では、懐かしい顔ぶれや、懐かしい品も登場する。ファンサービスは命一杯ある。ヴァイオレットの入浴シーンが二度もあるなんて、女の私でも胸がときめいた。なんといっても、テイラー役の悠木碧さんの存在感よ。もしかして、日本の声優さんのレベルって世界でもトップクラスなんじゃあるまいか。といっても、海外の声優さんなんて知らないし、知ってても比較できないんだけど。
ヴァイオレットについて、もう少し語りたい。
彼女の部屋には本棚ができ、質素な机の横にはスーツケース。こんな書斎に憧れる。
寄宿学校で、話術巧みにエイミーを助けるあたり、語彙力等の勉強にも励んでいるようだ。
その裏で、自分の気持ちを表現することには未熟で、宛先もわからないのに手紙を書かせるなど、相変わらず突拍子もない事を平気でやってしまう。
他のメンバーが4年の間に多少なりとも変わっているのに、ヴァイオレットは変わらない。少し心配だ。
間に合うなら、ぜひ劇場に足を運んでいただきたい。京アニならではの美しい風景を十二分に味わえるのは、劇場に来た人の特権だと思うから。