第8話 ガビルの告白
遅くなりましたが、宜しくお願いします。
一夜明け出発の朝になったのだが、昨夜より降り出した雨は次第に雷を伴って強くなり、今は滝のような雷雨となっている。こんな日に出発するのもどうしたものかと思案する。やはり、出発は晴れた日が良いのではないかと思いつつ、食堂へと向かう。
食堂には、アリスとエルサが二人で楽しそうに話していた。するとエルサがこちらに気付き、
「あら、魔王が起きて来たわ! 」
それを聞いたアリスも振り向き、
「何時だと思っているのかしら? 出発する気が無さそうね! 」
確かに雨ではあるし、出発するのは延期しようかと思っている。しかし、昨日とは異なり二人が仲良く話している。
「どうしたんだ? 二人とも仲が良くなっているじゃないか? 何か有ったのか? 」
その問い掛けにエルサが、
「魔王が部屋に戻られた後、ゴブリン達からアリスさんが助けてくれたのですよ。魔王と違ってアリスさんは、心の優しい方です。夜も楽しく過ごせましたし。ねぇ! アリスさん! 」
するとアリスが、得意気な顔をして、
「魔王様は、女性の扱い方が最悪ですからね。ゴブリン達と女性を一緒にするとか有り得ません。エルサさんは体調が優れないのですよ。全く! ま、私は心が広いので、エルサさんを助けてあげたのですけど・・・ 」
「なにー! 」
お前ら二人ともどうしたんだ? 何がお前達に有ったのだ。昨日は、「殺す。殺す。」と連呼してたではないか? 判らん。だが、二人が顔を見合せ笑っている。
「何にしても、仲良く出来ていれば旅も楽しいだろう」
「しかし、残念ながら嵐のような雨ですが、出発致しますか? 出来れば、明日の方が良いと思いますが? 」
アリスが外に目をやり、やる気無さそうに言う。俺様もアリスと同意見だ。しかし、何故か行きたくないと言われると、
「そんな事は無いぞ! 雨だが、出発しようと思う。ロバと食料の準備は出来ているだろうな! 」
アリスがさらに、面倒臭そうに、
「もちろん、準備は出来ています。しかし、この嵐のような雨の中では、道が泥るんでいて大変ですよ。歩みも遅く成りますし、出発は明日でも宜しいのではないでしょうか? 」
エルサもアリスに同調する。
「私もアリスさんの言う通り、明日でも良いんじゃないかと思います。こんな雨の日に何か急ぐ理由でもおありになりますか? 」
成る程。こいつら二人は今日の出発を、どうあっても延期したいらしい。確かにその気持ちも判らない訳では無いが・・・ すると、
「魔王様は、本当に女性の事を理解していませんよね。髪も濡れたら乾かないし化粧は雨で崩れるでしょうし、何も良いこと有りませんよね。さらに、服も濡れるでしょうし、それを洗濯するのは私達ですよね。ましてや、エルサさんの体調の事も考えて下さい」
そんなに俺は悪者か?
「解かった! とりあえず出発するかどうかは後で決めるとして、【国境の町パルム】を徒歩で目指すとなると、最低でも一週間の道のりに成るだろう。長い工程になりそうなので途中どこかの町に立ち寄らなければならないと思う。そこでだが、最短コースを選択するとして、先ずはダリの町を目指すのが良いと思うのだか、どうだろう? 」
「ダリ? その町は、ここからどれくらい掛かりますか?」
エルサは、魔界の土地勘が無いらしい。ま、無理もない事だが。
「今から出発して、2日ぐらいじゃないか? ただ、天気がなぁ? 」
「魔王様! ダリではなく迂回して、サンドから【国境の町パルム】を目指してはいかがでしょう? 」
「それは、何故だ? 遠回りをした方が良い理由とは何だ? 」
「そ、それは。現在ダリは、新興勢力のマリエルによって治められておりますが、余り良い噂を聞きません。急ぐ旅でも無いですし、ゆっくり安全に行くのがよろしいかと思いますが 」
何だ? この違和感は?
キングゴブリンを呼ぶ。
「今、アリスからダリに向かうのではなく、サンドから【国境の町パルム】を目指すのが安全だという意見が出たのだか、お前はどう思う? 」
キングゴブリンは、驚いた表情をしたが、アリスの顔を確認するなり、
「アリス様のおっしゃる通り、ダリは危険です。出来る限り避けて通るのが最善であると考えます」
「なぜ危険なのだ? 」
「新興勢力が治める領地ですので、何があるか判りません」
成る程、カエルに変人しないところを見ると、ウソでは無いようだ。
「ただ、サンドから行くとなるとサンドに着くまでに4日は掛かる。多少、危険はあるにせよ、最短を行きたいのだかなぁ? ところでエルサの体力は回復したのか? 」
エルサが困惑の表情を浮かべ、
「少しは回復したとは思いますが、長い距離が歩けるかは不安です。魔力は今のところ、回復する気配すらありません 」
悩みどころでは有るなぁ?
「明日には回復すると、思うか? 」
「何とも言えません。魔力は、しばらく難しいと思います。何かしらの力で、押さえ付けられているような感覚です」
成る程。
「ま、致し方あるまい。訳の判らん魔術を使った代償は大きいと言うことか? なるべく早いうちに、魔術書の手掛かりを手に入れたいところだな。そうなると、出来る限り最短で【国境の町パルム】まで行きたいと思うのだが、アリス! まずはダリを目指すというのでは駄目か? 」
「絶対に駄目と言うわけではないので、魔王様がどうしてもとおっしゃられるのであれば、ダリ経由で構いませんが・・・ 」
「では、取り敢えずダリに向かう事にする。後は、今日の出発をどうすかだが・・・ 」
すかさずアリスが、
「エルサの事も考え、明日が良いと思います」
どちらにしても、エルサの体力の件もある。引退後の時間はたっぷりある事だし、急ぐ事もなかろう。
すると、外で稲妻が走り程なくして、轟音が響いた。こりゃー。明日で決定だなと思っていると、
「アリス様ー! 大変です。」
びしょ濡れになった、ゴブリンが慌てて食堂に入って来た。
「アリス様、ガビルが来ています! 」
「何もこんな時に来なくても」
アリスが困った顔をしている。すると、廊下から、
「アリス! アリスは居るかー! 」
男が叫びながらこちらへ近づいて来る。その男は、背が高く筋肉質で体格が良く、短髪で茶色の髪は重力に逆らって立っている。いかにも、がさつな男と言った感じである。
明日には出発するという時に、なぜガビルは来るのだ? 相変わらず空気の読めん奴だ。なんにしても追い払わなければならない。アリスが思案していると、
「ここに居たか、アリス。今日こそは、返事を貰いに来たぞ! 」
ガビルは、この嵐の中を来たらしくびしょ濡れになっている。廊下にも、彼が歩いた後を示す水跡が残されている。俺様の城が汚くなるではないか。只でさえボロボロになっているのに・・・
「その前に、そのびしょびしょの成りをどうにかしてくれ! ゴブリン! タオルをガビル貸してやれ! 」
こんな嵐の日に来るとか、普通、無いだろう・・・ それも、濡れたまま、入って来るとか、どういう神経をしているのだ!
「ところでアリス! この雨の中、びしょ濡れに成ってやって来たアホは誰だ? 」
アリスに質問すると、それを聞いたガビルが、顔を拭いていたタオルを引き千切り、
「アリス! その身の程知らずな男は誰だ? 俺はマリエル軍、前線攻撃隊、隊長ガビルと知っての無礼であろううな? 」
あーあ! 力馬鹿だ。それに、アリスに聞いたのだがなぁ?
「そうですか? 昨日こちらに来た者で、知りませんでしたよ。マニマニ軍のカビさんでしたっけ? 」
「違う。よく聞け! 俺様はマリエル軍、前線攻撃隊、隊長ガビルだ! 」
「あー。マニマニ軍のガルさんですね! 」
「違う! マリエル軍のガビルだ! 」
「ビルさん? 」
「貴様、わざと言っているな! これ以上の侮辱は許さんぞ! 」
「まぁ。500年を超えると物覚えが悪くなりましてねぇ。そんな事より、この嵐にも関わらず、何しに来られたのですか? こちらとしても急ぎの用事が有りますので、手短にお願いしたいのですが? 」
すると、要件を思い出したガビルが、アリスの方を向き真剣な眼差しで、
「そうだ! こんな奴に付き合っている場合では無かった。アリス! 先日の答えの返事を聞こうではないか? 」
するとアリスも真剣な面持ちで、
「大変申し上げ難いのですが、この度の申し出はお断りさせて頂きます。何せ、待ちに待った方と結婚することになりまして・・・ 」
それと言うと、アリスが抱き着いて来た。アリスの巨乳が当たる。顔はニヤケ出し、非常に悪くはない。
しかし、この状況は問題を解決するというよりかは、
「アリス!!! 」
ガビルが叫び出した。
「貴様! 俺のアリスを横取りするなど、許されると思っているのか? 」
「あら! やだ! 横取りも何も、最初から興味は有りませんの。私が好きなのは、この・・・ 」
アリスの口を塞ぐ。アリスがモゴモゴしているが、今ここで元魔王と言うことがバレると面倒になる。
「と言うことなので、嵐の雨の中来て頂いたのに大変申し上げにくいのですが、お引き取り願えませんでしょうか? 」
「何だと! 」
ガビルが、拳を振り上げる。
「アリス。お前からも何か言ってやれ! 」
「ガビル、残念だが無理なのです。判ってくれますね。私の幸せの為に・・・ 」
その言葉を聞いたガビルが、振り上げた拳を降ろし一瞬ショボンとしたが、すぐ立ち直り、
「今日は、雨にも関わらず来たのが悪かったようだ。また出直すとしたい所だが、それも難しい。取り敢えず、そこの人間の小娘を人質として預かる。ダリに来い。そうすれば、解放してやる」
「いやいや、ダリに行く予定だし。人質を取らなくてもなぁ? 」
「そうですね。今となっては、最短経路で進んでも、もう、問題は起きてますし。それより、人質を取ろうとする辺り、隊長がやることとは思えません 」
アリスが、ガビルを軽蔑した目で見る。
「確かに、酷いなぁ? あれで良く部下が付いて来るものだ」
そのやり取りを聞いていたガビルが焦って、
「人質の件は、冗談に決まっているではないか? 俺様はマリエル軍の・・・ 」
「判ったから。じゃ、お引き取りを」
すると、場の空気を察したのか、
「では、ダリで待っている。あと、人の話は最後まで聞くように! 」
な! 貴様にだけは、言われたくない。
それだけ言うと、今度は逃げるように嵐の中を飛竜に股がり、帰って行った。やはり、空から旅をしたいものだと、再度思いを馳せるが、現実はロバだ。取り敢えず、何だったのか判らないが、出発は明日にするとして・・・・
「では、出発は明日。取り敢えずはダリを目指すと言うことで良いな! 」
ところが、アリスが何を思ったのか、
「サンドで良いのではないでしょうか? 確実にダリを目指せば問題が起きますし! 」
言っている意味は良く判る。ガビルはダリで待っていると言ってはいたが、そこはアリスに何とかしてもらおう。
「確かに、問題は起きるだろうが、大した事には成らないだろう! エルサはどう思う? 」
「どちらでも良いです。それより下僕だったり人質といい、人を何だと思っているですかね? 」
二人が目を合わせ、
「貧乳! 」
アリスと魔王が呼応する。
それを聞いたエルサは、
「みんな、死ねー! 」
と叫び、食堂から出ていってしまった。
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