第1話 魔王の引退
初めて小説を、書いてみました。読みにくいところも多いかと思いますが、楽しく読んで頂けたら幸いです。
敵の鋭い剣が彼女の身体を貫いた。彼女が一瞬だけ苦痛に満ちた顔をしたが、すぐに俺様の呼び掛けに気付き、俺様に向かって軽く笑みを浮かべた。そして、小さく口元が動く。だが、その声が聞き取れない。すると、彼女を取り巻く虹色の光が強くなり、そして次の瞬間、轟音と共に消えて行ってしまった。
【俺は、この夢を何度となく見ている・・・ 】
俺様は500年、魔王をしている。だが、魔王に成った時の記憶は定かではない。主な使命は、人類に恐怖を与え、勇者と名乗る者を蹴散らす事である。そのため来たるべき戦いに備え、魔王となった日から日々鍛練を積んでいる。
だが、部下が優秀過ぎるからなのか? 残念な事に、勇者と戦った事が一度もない。
しかし、いま・・・・・
俺様の目の前には、待ちに待った勇者御一行が立っている。勇者、戦士、魔術師、ヒーラーの四人で構成されたバランスの良いパーティーだ。魔王になってから、最も喜ばしい出来事である。そして俺様の闘争心を、煽っている。
そう! 俺様は500年も、この時を待っていたのだ。この勇者御一行は、優秀な部下を薙ぎ倒し、ここまで来た筈である。
そして、魔王となって500年、待ちに待った初使命である。
すると、リダーだと思われる勇者がこちらを凄い形相で睨み付けながら、
「お前が魔王か? 」
来た! 来た! 勇者からの定番な質問が、投げ掛けられた。しかし、定番と言いながら、これも初めての出来事であり心が踊る。この質問の返答は、500年もの間考えていた。長くてもいけないし、短くてもいけない。
だが、300年を超えた辺りから正直、変わってはいないのだが・・・
「我こそは魔王ハーデス。すべての支配者! お前は・・ 」
しかし、勇者御一行は俺様が話している最中だと言うのに、
「相手が魔王で間違いない。ハーン! 一発噛まし垂れ!! 」
「なに!! 」
500年の間、ずっと考えていた台詞の冒頭も言えていない。実際は、300年なのかもしれないが・・・
「ちょっと、待て! 」
しかし勇者には、そんな事はお構い無いらしい。
その合図とともに魔術師が、
「ギガ・ファイアー! 」
と唱える。すると、巨大な炎の塊が魔王を目掛けて放たれた。
おいおい。人の話は最後まで聞くものだろう?そして闘いの前には、武人として名乗るのが礼儀だろう? だが、目の前にいる勇者御一行は俺様が描いていた勇者像とは全く別の・・・・
油断していたためか、巨大な炎の塊を真正面から受けてまった。爆音が響き渡り、爆発の衝撃で少しよろめいてしまった。だが驚いたことに、蚊が刺した程度のダメージでしか無い。自分を褒める訳では無いが、日々の鍛練を欠かさなかった事が、結果として出たのだろう。
「よーし! かなり今のは効いているぞ! カーン! 突撃! 」
又もや勇者の指示で今度は、紅の鎧を纏った戦士が剣を抜く。俺様も腰に差した剣を抜き身構える。やっと戦闘らしくなってきた。しばらく対峙し、戦士が俺様に向かって闘牛のように突っ込み、その勢いを利用した鋭い突きで、攻撃を仕掛けてくる。しかし、思ったほど早くない。軽くいなして、剣を振り抜く。
振り抜いた剣は戦士の腹にめり込み、くの字になって飛んで行った。戦士はくの字のまま壁に激突し、その衝撃で壁の一部が崩れ土煙が立ち昇り、紅の鎧が瓦礫の中に埋もれてしまった。そして、戦士は動かなくなってしまった。
なんとも、あっけない。もっと、楽しませてくれ!!
勇者は、今起きた事に驚いたようで一瞬呆然としていたが、すぐに我に戻り、
「エルサ!! カーンの回復。ハーン! フレアをぶちかませ! 」
流石と言うべきか、動揺を隠しつつ勇者が次の激を飛ばす。
ヒーラーが、戦士に駆け寄り回復を行い始めた。
魔術師の方は、フレアの詠唱に時間が掛かっているようである。
「おい! 魔王! 調子に乗るなよ。油断さえしなければ、カーンが簡単に殺られるわけがない。ここで、聖剣エクスカリバーの錆びにしてやっても良いが、その前に最強魔法をお見舞いしてやろう! 次こそ、己の悪行を反省し後悔するが良い」
いやいや、勇者さん。500年もの間、修業以外は何もしていませんよ。暇で暇で、仕事をしていなかったのかと言われれば、確かにその通りなので反省は致しますが。それもこれも、勇者が来ないのが悪いと思いますがねぇ? などと、思いを巡らせていると、
「ハーン!思い知らせてやれ! 」
魔術師の詠唱が終わったらしく、魔王の部屋が薄暗くなる。暗黒雲が漂い出し、その暗黒雲の中心から巨大な隕石群が現れ高速で魔王に向かって行く。先程とは違い、本能で感じる本当にヤバいやつだ。瞬時に体を覆うようにシールドを展開する。
次の瞬間、高速で迫る隕石の塊が幾度となく魔王を襲う。轟音が鳴り響き魔王の部屋一面に爆煙が立ち込める。そのため、勇者達からは魔王の存在を視認出来ない。
「ハーン! 殺ったか? 」
「いえ? まだ、解りません」
「エルサ! カーンはどうだ? 」
「ダメです。腕と肋骨に骨折が診られます。意識も無く、ここでの回復は不可能です」
「チ!なんとも情けない」
徐々に爆煙が晴れてくる。すると、何かを見つけたのか、
「あ! 」
と、ヒーラーが叫んだ。
俺様はシールドに守られ、無傷のようである。さて、どうしたものか? 戦いが始まって間もないが、勇者御一行には、悲愴感が漂っている。しかし、この程度で終わっては困る。そう、500年も待ったのだ。今こそ、魔王としての威厳を魅せねばなるまい。
「なかなかの魔法ではあったな。さて、次は勇者自ら戦ってくれるのかな? その聖剣エクスカリバーで? 」
【聖剣エクスカリバー】
対魔族専用の最強武器。それを所持する者こそ、真の勇者であると人間界で認められている最強武器である。
すると勇者は、腰に差した聖剣エクスカリバーをゆっくりと抜き構えをとった。ここからが本番といったところか?今度こそ、死闘の始まりである。そして、剣を持つ手にも力が入る。
だが、しばらく対峙し重い空気に包まれたかと思いきや、勇者が何を言い出すのかと思えば、
「魔王。今日は日が悪かったようだ。また、出直すとしよう。ハーン、エルサ、逃げるぞ!! 」
と叫ぶと同時に勇者が逃げ始めた。回復を行っていたヒーラーが、
「カーンは、どうするのですか? 」
「エルサ! 置いて行け。今は逃げるのが先だ!! 」
おいおい。もう、お終いか? 特に勇者は、何もしてないだろう。真の勇者じゃ無いのか?
「おい!待て! 」
勇者を呼び止めようとするが・・・
「ばーか。待てと言われて待つ奴などいるか!! 」
勇者と黒魔術師は、一目散に部屋から逃げて行った。
勇者と黒魔術師が部屋から出て行ってしまったが、白魔術師の女は逃げる気が無いのか、杖を身構え戦闘体勢を取っている。
顔立ちは美人と言うよりかは可愛く、青緑色の長い髪は後ろで束ねられ、肌の色は透き通るように白い。しかし、その可愛らしい顔は決意の表れなのか、固く険しい。
「さて、何故お主は逃げないのだ。 仲間の勇者達はお前を置いて逃げたぞ。そこの倒れている戦士を連れて、お前も逃げると良い。もはや、追う気も失せた! 」
すると白魔術師の女は鼻で笑い、
「何を言っているのですか? たとえ勇者が逃げ出したのだとしても、私はこの機会を逃すわけにはいかない。何故なら貴方は、私の姉の仇。ここで殺られようとも、私は貴方を倒します」
おいおい。憎まれ過ぎだろう。
「落ち着け! 俺様は、お前の姉になど会った覚えは無い。何かの間違いでは無いのか? それに、なぜそこまで俺様を憎む? 」
「私の姉は、畑仕事をしていただけなのに、魔王軍のバルエンドに殺されました。何の理由もないまま。姉には、これからいくらでも楽しい未来が待っていました。そんな最愛の姉を殺された私の気持ちが貴方には分かりますか? いや、分かるはずもない。殺しを生業としている魔王には・・・ 」
「それは、違う。ただ、部下を指導出来なかった責任は、魔王である俺様に有るのだろう。大変申し訳ないことをした。それで、俺様を倒せばその気持ちが晴れるのか? 」
「それは、分かりません。ただ、今はそれが、最善で有り人類にとっても有効だと考えます」
「それは立派な考え方だが、俺様は殺しを生業としているわけではない。部下には争い事を、禁止していた。しかし、魔族は頭の悪い部下が多く、どうしても規律を守れない者が出てしまう。だが、勇者がここに来たのであれば、使えない部下をなぎ倒して来たのだろう。それについては、感謝している。だからと言って、殺される訳にもいかない。いや、貴様ごときに殺される事は無いだろう。俺様は、強くなりすぎてしまったようだ。さて、どうしたら良いのか? 」
「貴方は何をおっしゃられているのですか? 私はあなたを倒すためにここまで来たのです。魔王! あなたは、私と闘わなければならない 」
「それは、困った事になった。先程までは有った闘争心が今は全くない。付け加えれば、魔王としての職業も引退しようとさえ考えている。魔王になって500年。勇者と死闘をすることだけが生き甲斐だった。しかし、現実はどうだ? 500年もの間、欠かすことなく日々の鍛練を積んできた為に、強く成り過ぎてしまった。挙げ句の果てには、勇者に逃げられてしまう始末だ。この先、勇者が俺様の前に現れたとしても、俺様の望むような闘いは無いだろう・・・ 」
「と、申されましても困ります。私は、魔王を倒さなければならないのです」
「お前の言分も判らない訳では無い。しかし今となっては、倒されるのは困るのだが・・・ 」
「困ると申されましても、魔王は倒されなければ平和は訪れないのです」
「そんな事は無い。俺様を倒しても、新たなる魔王が誕生するだけだ。それにこの500年、小競り合いは有っても、大戦は無い。そう言う意味では、評価される事は有っても、殺される理由はない。さらに、魔王の務めを果たすべく、500年も待っていたのだ。しかし、何も起こらなかった。いや、俺様は何もしていないし、何も満たされていない。この先、俺様にも人生がある。引退後の余生を考えねばならぬ」
「それは、貴方の勝手です。私は、姉の仇である貴方を倒します」
「それはそうだが、果たして俺様を倒して心の傷が癒されるのか? 」
「それは、私にも解りません」
話している最中もこのヒーラーの女性は戦闘体勢を解除する気配はない。こちらを警戒しているのだろう。
「どうしても、闘わなくてはならないのか? 」
最後の質問をする。
「そうでなければ困ります」
しばしの沈黙が走る。
「貴様では俺様の相手にすらならないであろう。だが、そこまで決心をしているのであれば仕方あるまい。では、貴様の名は何と申す」
「エルサ! 」
「ではエルサよ。我こそは魔王ハーデス。全ての支配者!・・・ 」
「それはさっき聞いたわ!!ギガ・サンダー!! 」
いやいや、お前もかい?500年もの間、考えたのだから最後ぐらい言わせてくれよ。と思ったが、魔王に目掛けて稲妻が走る。今度は、避けられたがあえて受けてみる。これまた蚊が刺した程度のダメージだ。
続け様に、
「ギガ・サンダー! ギガ・ファイアー! 」
連続魔法を打ってくる。先程の魔術師とは、一味違うようだが、結果は同じだ。
「そろそろ、こちらからも攻撃をするとしよう」
修得に300年掛かったメガンテを使いたいところだが、取り敢えず、エルサの後方に素早く回り込み背後から胸を鷲掴みにする。だが・・・
「どう言うことだ? 胸が無い? 」
不思議な事に、有る筈の柔らかい物が無いのでる。揉んでみるが、やはり感じられない。エルサは今起きている状況が理解できないでいる。鷲掴みをされたままの状態で動けなくなってしまったのだ。だが、すぐに我に返ると俺様の腕を振り払い顔を真っ赤にしている。その顔からは、湯気が立ち上りそうだ。
「男なのか? 」
もしかすると、美男子の可能性も否定出来ない。
「女だ!! 」
エルサが叫んだ! 女にしては、持っていなければならないものが全く無い。
「まさか? 貧乳なのか? いや、貧乳とすら呼べないのでは? 」
すると、エルサからこの世の物とは思えない程の殺気が、大量に発生し出し辺りを覆う。
「エルサ! 何とも哀れな女よ! 」
慰めてやろうとするが、
「それ以上言うな! 」
エルサの真っ赤になった顔からは湯気が立ち上ぼり天まで届きそうである。
「大丈夫だ。例え【まな板】で【SSR】だとしても、俺様は受け入れてやる」
「その【SSR】とは何だ? 」
「それは【スーパー・スモール・レア】に決まっているじゃないか? 」
それを聞いたエルサが、持っていた杖を再度握り直し、
「貴様は触れてはならぬものに触れてしまったのだ。弁解の余地もない」
「いやいや、触れてもないし揉んでもない」
「この期におよんでそんな言い訳をするなど、これ以上は何を言っても無駄だ。自分の行った行為を反省しつつ、死をもって償え! 」
すると、エルサが怒りに任せて、
「ギガ・サンダー! ギガ・ファイアー! 」
連続魔法を放ってきた。だが、結果は先程と同じだ。軽く振り払う。
「おい! 貧乳! もう、良いのでは無いか? 勝負は見えている」
「うるさい! ●乳! ●乳!! 言うなー! ギガ・サンダー! ギガ・ファイアー! 」
エルサの攻撃がところ構わず、乱射されている。この状況は、かなりやばい。エルサを今すぐに止めなければ、部屋が壊れてしまう。ここは、女性に攻撃するのは気が引けるが、致し方あるまい。
「ファイアー! 」
手のひらから火の玉が生まれ飛んでいく。我を失っていたエルサではあったが、その攻撃に気付き素早くシールドを展開して防御に備える。高速で飛んだ火の玉は、エルサのシールドに命中し爆煙が辺りを覆う。
俺様の【ファイアー】は先程のエルサが唱えた【ギガ・ファイアー】の3倍は威力が出ている。この世界では、術者の魔力に応じて威力も増すのである。
爆煙が晴れると先ほどまで居たはずのエルサが見当たらない。どうやら爆風で吹き飛ばされたようだ。遠くに目をやると、杖を付きながら立ち上がるエルサの姿があった。
「もう、良いのではないか? よろよろでは無いか? 」
「流石、魔王ですね。勝てるとか勝てないとかではなく、次元が違うようです」
「なら、もう、良いではないか? 貧乳の件は謝るから・・・ 」
「それを言うな!! 」
エルサが怒り出すが、今度はすぐに冷静さを取り戻す。
「魔王は、何か勘違いをなさっています。確かにあなたは強い。勝てはしないが・・・ 」
「何がしたい! 」
エルサが微笑み、
「貴様には、死すら生ぬるい。異次元の狭間で、永遠の時を後悔しろ! 」
捨て台詞を言い終わるとエルサが、懐から何やら取り出し詠唱を始める。すると、辺り一面が虹色の粒子に包まれた。その粒子は、虹色の光を強く発しながら辺りを包み込む。
なんなんだこれは? よけられるものなのか?
そして、目の前が虹色の粒子で満たされると、風船が割れるかの如く、強い光を放ちながら轟音と共に弾け散ったのである。
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