取引。
俺は悪だ。
それはもう確定だ。お菓子を学校に持って来た。校則を破った屑野郎だ。伸次の言う通り、綺麗事を並べるだけの汚い奴だ。
「はぁ? 取引ぃ? あんた、自分の立場分かってんのかぁ?」
でも、これだけは……。奏音のリコーダーを舐めたこの事件だけは、解決しなければならない。この史上最悪の事件を前にして逃げるわけにはいかない。
「あぁ、取引だ。俺は自分の悪事を全て話す。そうしたら、お前も認めて欲しい。絶対にしてはいけないことをしてしまった。死んでも償えない程の大罪を犯してしまった、って」
伸次はゆっくりと頷いた。
「あぁ、いいぜ」
「本当か?」
「……って言うわけにはいかないなぁ」伸次は不気味に微笑みながら言った。「お前が罪を告白するのは当たり前だからだよ。刑事として罪を裁く者として、綺麗でないといけないからだ。まぁ、ただ、全て吐いたとしても、完璧に綺麗になったとは言えないけどな。その汚れは死ぬまで付き纏う。呪いのように、ずっと、執念深く」
俺は黙って立ち上がった。自分の机まで向かい、中からブツを取り出した。そして、それを伸次の前にある机に叩き付けた。
「『しゅわしゅわガム! ソーダ味』!!!」
「しゅわしゅわガム! ソーダ味」と記された水色の袋。中には1つ1つ包装された水色のガムが入っている。
「『しゅわしゅわガム! ソーダ味』、ねぇ……」
もういい。全て吐き出す。伸次が取引に応じてくれるかなんて分からない。分からないが、せめて人として。正しくあろうとする刑事として。やらなくてはいけないことなんだ。
「これが俺の罪だ。俺は『しゅわしゅわガム!』シリーズの新作、大好きなソーダ味を授業中に楽しむ為、学校に持って来た。そして、さっき、教室にこのガムを忘れたことに気が付いて戻って来たら、お前が……」
その時、何かを感じた。はっきりとは分からない。分からないが、何かを感じた。
「お前が……」
「お前が、何だよぉ、刑事さん」
何だ、一体何なんだ。
「いや、悪徳刑事、かぁ。ぐへへへ」
俺は、伸次の顔を凝視した。
「んーだよ。あのな、残念だけど、俺にはそっちの趣味は」
「寂しかったんだろ」
「……は?」
伸次は首を傾げた。
「何言ってんだ、あんた」
理解した。伸次から感じた何かを。