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リコーダーを舐められたい。  作者: 濃紺色。
【刑事 涼夜】
4/14

刑事には向いてない。

「つまり……お前は、奏音のリコーダーを舐めたことを否定するんだな」

「ふっ、否定も何も、俺はやってないからなぁ」


この事件は、一筋縄じゃいかなさそうだ。


「『ツインテールの女神』」

「……何だぁ?」


伸次は首を傾げた。

惚ける気か?


「分かるだろ。6年1組の『ツインテールの女神』。奏音の二つ名だ」


伸次は不気味な笑みを浮かべた。


「何を今更」


そんなものもう慣れた。


「お前がどう否定しようと、お前が奏音の……『ツインテールの女神』のリコーダーを舐めたという事実は変わらない。犯罪者に罰は必ず下る。神を信じているわけではないが……どういうわけか、そうなってるんだよ、この世の中は」

「はっ、だったら、自白したって」

「罪を認めた奴と認めない奴。どちらも悪だが、大きさが違う。お前は、重罪を犯した挙句、罪も認めない……極悪人だ」

「脅しか?」

「どう捉えてもらっても構わないが、それが真実だ」

「……真実ねぇ」


伸次は目を逸らすと、窓の外を眺めた。鼻で息を吸い、吐き出すと、再びこちらを見た。


「そもそもよぉ。何であんたはここに来たんだ? 放課後だぜ、よっぽどのことがない限り……」

「忘れ物だよ」


そう、ただの、


「ただの忘れ物だ」


伸次が馬鹿にしたように微笑んだ。


「あんた、刑事には向いてないよ」


は?


「嘘が下手だよ。その様子じゃあ、普通の忘れ物ってわけではなさそうだなぁ」

「何を、言ってる」

「許されない……何か」

「だから、何を」

「例えば、おか」


俺は机を両手で叩き、勢いよく立ち上がった。


「俺が学校にお菓子なんて持ってきているわけないだろ!!!!!」


しまった、と思った時にはもう遅かった。


「へぇー……お菓子ねぇ……」


伸次が細めた目を俺に向けた。冷たくて、鋭かった。


「俺を今から裁こうとする刑事が、校則違反ですかぁ……」

「違う……これは……」


それ以上の言葉が出て来なかった。


「『犯罪者に罰は必ず下る』、かぁ……」


俺が先程、伸次に言った言葉だった。


「『お前は、重罪を犯した挙句、罪も認めない……極悪人だ』、ねぇ……」


それもさっき、俺が伸次に……。


「いいのかなぁ。正義に生きる奴が、自分の悪事を隠蔽してさぁー……」


何も、言い返せない。


「綺麗事を並べるだけの汚い奴の言うことなんて、誰が信じるんだろぉなぁー」


形成逆転。

悔しくて、情けなくて、仕方がない。


「偽善者が」


伸次の視線が痛くて痛くて、顔を上げられない。


「……取引をしないか?」

「あ?」


俺は拳を握った。もう、これしかない。


「俺と取引を、して欲しい」

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