刑事には向いてない。
「つまり……お前は、奏音のリコーダーを舐めたことを否定するんだな」
「ふっ、否定も何も、俺はやってないからなぁ」
この事件は、一筋縄じゃいかなさそうだ。
「『ツインテールの女神』」
「……何だぁ?」
伸次は首を傾げた。
惚ける気か?
「分かるだろ。6年1組の『ツインテールの女神』。奏音の二つ名だ」
伸次は不気味な笑みを浮かべた。
「何を今更」
そんなものもう慣れた。
「お前がどう否定しようと、お前が奏音の……『ツインテールの女神』のリコーダーを舐めたという事実は変わらない。犯罪者に罰は必ず下る。神を信じているわけではないが……どういうわけか、そうなってるんだよ、この世の中は」
「はっ、だったら、自白したって」
「罪を認めた奴と認めない奴。どちらも悪だが、大きさが違う。お前は、重罪を犯した挙句、罪も認めない……極悪人だ」
「脅しか?」
「どう捉えてもらっても構わないが、それが真実だ」
「……真実ねぇ」
伸次は目を逸らすと、窓の外を眺めた。鼻で息を吸い、吐き出すと、再びこちらを見た。
「そもそもよぉ。何であんたはここに来たんだ? 放課後だぜ、よっぽどのことがない限り……」
「忘れ物だよ」
そう、ただの、
「ただの忘れ物だ」
伸次が馬鹿にしたように微笑んだ。
「あんた、刑事には向いてないよ」
は?
「嘘が下手だよ。その様子じゃあ、普通の忘れ物ってわけではなさそうだなぁ」
「何を、言ってる」
「許されない……何か」
「だから、何を」
「例えば、おか」
俺は机を両手で叩き、勢いよく立ち上がった。
「俺が学校にお菓子なんて持ってきているわけないだろ!!!!!」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
「へぇー……お菓子ねぇ……」
伸次が細めた目を俺に向けた。冷たくて、鋭かった。
「俺を今から裁こうとする刑事が、校則違反ですかぁ……」
「違う……これは……」
それ以上の言葉が出て来なかった。
「『犯罪者に罰は必ず下る』、かぁ……」
俺が先程、伸次に言った言葉だった。
「『お前は、重罪を犯した挙句、罪も認めない……極悪人だ』、ねぇ……」
それもさっき、俺が伸次に……。
「いいのかなぁ。正義に生きる奴が、自分の悪事を隠蔽してさぁー……」
何も、言い返せない。
「綺麗事を並べるだけの汚い奴の言うことなんて、誰が信じるんだろぉなぁー」
形成逆転。
悔しくて、情けなくて、仕方がない。
「偽善者が」
伸次の視線が痛くて痛くて、顔を上げられない。
「……取引をしないか?」
「あ?」
俺は拳を握った。もう、これしかない。
「俺と取引を、して欲しい」




