狂ってやがる。
「伸次……キャラ違い過ぎない? 普段とさ」
伸次は一瞬、目を丸くすると、顔を真っ赤にして、伏せた。
「いやっ、いや、あのこれはっ……」
「何? 『俺をモンスターにしたのは……奏音、あんただぜ?』って。伸次って一人称、『俺』じゃなくて『僕』じゃなかったっけ? 後さ、さっき、奏音ちゃんのこと、呼び捨てしてたよね? そもそも名前を呼んでるところ見たことないしさ」
「そ、それを言うなら、涼夜君だって、キャラ違うでしょ……。『変な動きをしてみろ……躊躇なく、撃つぞ』って何ですか? 涼夜君って普段もっとこう……眠そうな目で、気怠げなイメージがありますよ?」
そう言い返されると、何だか、恥ずかしくなる。
伸次は続けた。
「ど、どうせさっきも、心の中で奏音さんのこと、呼び捨てにしてたんじゃないですか?」
「ギ、ギクッ!」
「そんな分かり易い図星あります?」
ま、負けて堪るか!
「じゃ、じゃあ、キャラの話でもっと言わせてもらうけどさ、伸次って普段、教室の隅の方で静かに1人で読書してるキャラじゃん。クラスメイトにだって敬語使うしさ。そんな奴が……あんなに、リコーダーに激しいキッスする?」
「そ、それは、だって……」
そうだ。リコーダーだ。これは事件だ。許されない程に、卑劣で残虐な。今は容疑者を取り調べしているシーンなんだ。
だったら……。
「お前がやったんだろ!!!!!」
俺は左手で激しく机を叩いた。
驚いて、伸次は肩をビクッと震わせたが、さすが役者だ。一瞬で犯人の顔に戻った。
「はぁ? 何を言ってんだよ、涼夜」
「……刑事だ」
「は?」
「涼夜じゃなくてさ、刑事さん、でお願い」
「分かりました」
「ちなみにさ、警部補って設定で」
「けいぶほ? あの……ちょっとよく分からないです」
「あ、そう……」
気を取り直してもう1回。
「お前がやったんだろ!!!!!」
左手がヒリヒリする。
「はぁ? 何を言ってんだよ、刑事さん」
「惚けても無駄だ。俺がしっかりと見たんだからな、この目で」
伸次は、はぁ、と馬鹿にしたように溜め息を吐いた。
「……何だ」
伸次は目をカッと見開き、右手で机を何度も叩いた。
「証拠がないでしょぉがっ! 証拠がよぉ!」
……証拠? こいつ、この期に及んで、シラを切る気か?
まぁ、いい。こっちだって策ならまだある。
「あるよ、証拠なら。リコーダーに付着した……お前の唾液がな」
ふっ、と伸次は鼻で笑った。
「それで? お前はそれを俺のだって、判断出来るのか? 鑑識並みの技術がお前にあるのか?」
そうか……そう来たか。実際、俺は小学生だ。今は刑事を演じているが、ただの小学生だ。鑑識の知り合いなんていない。演技と現実を織り交ぜた、完全犯罪。
「……狂ってやがる」
「狂ってなきゃ、舐めないよ。クラスの女子のリコーダーなんて」
ごもっとも。