正義が俺を。
目の前の光景が信じられなかった。
俺は教室の出入り口前で呆然と立ち尽くしていた。
クラスメイトの伸次が辺りを見回しながら、奏音ちゃんの机からリコーダーを取り出した。吹き口をゆっくりと自分の口に近付け、そして、唇で挟んだ。
そこからはもう地獄だった。リコーダーの吹き口を舐め回し、発狂し、また舐め回す。
もう耐えられなかった。何か、自分の中の大切なものを汚されたような気分になった。
再度、伸次が奏音ちゃんと間接キスをしようとした時、
「手を挙げろ!!!!!」
正義が俺を突き動かした。
伸次はビクッと肩を震わせて、こちらに目を向けた。
伸次……お前は、人として許されないことをした。
左手の親指を天井に向かって突き立て、垂直を作るように人差し指を伸次に向けた。
「変な動きをしてみろ……躊躇なく、撃つぞ」
「……糞が」
伸次の目は、犯罪者そのものだった。
「武器を……リコーダーをゆっくりと机に置け」
「分かったよ……分かったから……」
「ゆっくりとだぞ?」
伸次は指示通り、手に持ったリコーダーをゆっくりと奏音の机に置いた。
「そのまま手を挙げろ」
両手を挙げる伸次。
「……分かったろ? 抵抗の意思はない。だから……」
「そこに座れ」
俺は顎で、こちらから見て奏音の左隣の席を指し示した。奏音の席には死んでも座らせない。
ちっ、と舌打ちをすると、伸次は両手を下ろし、指定された席に座った。
俺も右手を下ろし、伸次が座っている前の席の椅子を彼に向けて、座った。
2人の間を沈黙が流れた。
こういう時、どんな話をすればいいのか……。
刑事ドラマを必死に思い出す。
でも、まずは取り敢えず、
「なぁ、1ついいか?」
「……何だよ」
気になることから聞いてみることにした。