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リコーダーを舐められたい。  作者: 濃紺色。
【被害者 奏音】
11/14

先生の靴を舐めたい。

美人教師の黒タイツを舐めたい。

何かもう、リコーダーの件はどうでもよくなっていた。実際、未遂だし。

涼夜君もリコーダーのことは既に忘れているように見えた。


「っていうかさ、イメージって話ならさ、浅川先生って、そんなドSじゃなくない?」


私の小説の話か。


「むしろ、逆じゃない? 優しいしさ、爽やかっつーか……」

「だからよ。だから、ドSがいいの」


涼夜君は首を傾げた。

仕方がない。説明してあげよう。


「普段は優しくて爽やかな教師、浅川先生。当然、女子生徒には大人気。だけれど、彼が愛するのは、自身が受け持つ6年1組の男子生徒、涼夜君!」

「何か、照れるな……」

「涼夜君は段々と彼に惹かれていく……。2人っきりの放課後。『キスしたいなら、僕の靴を舐めろ』。初めて見る、浅川先生のドS振り」

「きったな」

「混乱しながらも、普段とのギャップが涼夜君のドキドキを加速させる! 好きに歯止めが効かなくなる! 教師×男子生徒、禁断のラブストーリー! 『俺は先生の靴を舐めたい。』好評発売中!」

「あ、発売まで想定済みなんだね……」


話しながら私までドキドキしてきちゃった。


「どう!?」

「どう、って言われてもなぁ……」


涼夜君は困ったような顔をすると、胸の前で腕を組んだ。

あ、やっぱり、そういう反応だよね……。

「あ、でも……」と、涼夜君は組んでいた腕を離した。

また、あの目だ。真剣でまっすぐな。


「読んでみたいとは思う。俺が出てるからなのか分からないけど……。さっき読んだとこの続き、気になるし、もし、その話にもっともっと未来があるのなら、もっともっと読みたいなって思う。……まぁ、でもあれだな。間違い過ぎた方向に行かないように、編集者になりたいね」

「あ、それいい!」

「え?」


涼夜君は驚いたように目を丸くした。


「私の小説の、担当編集者になってよ! 私が小説を書いて、涼夜君が助言とかアイディアとかをくれる編集者! いいじゃん、それ! いいじゃん!」

「え……適当に言ったんだけどな……うん、いいよ。俺でいいなら」


突然のことに戸惑いながらも、涼夜君は頷いてくれた。

やった! やった! 創作仲間が増えた!


「早速なんだけど、私、新しいアイディア浮かんだから、聞いてくれる?」

「……何?」


まだ、ただの思い付きだけど。


「浅川先生にライバルが現れるの。涼夜君がやけに親しく接する男子生徒。教室の隅で小説を読んでるような生徒なのに何で……。浅川先生は焦り出すの。その相手は……伸次君」

「ぐひひ、駄目、駄目だよぉ、あぁ、奏音ちゃん、それ僕のブラジャー……え?」


私に名前を呼ばれ、突如、我に返る伸次君。


「ぼ、僕なんかで、いいんですか……」

「嫌。近付かないで」

「嫌って……」


気が付いたんだ。涼夜君と伸次君が仲よさそうな光景を目にする度に現れた、モヤモヤした気持ち。推しカプを邪魔されそうになるという焦り、怒り、嫉妬、切なさ……。この気持ちを小説で使えるのではないか? そう思った。


「で、始まるの。浅川先生、涼夜君、伸次君による、激しい恋の駆け引きが」

「「へー……」」


2人共、どこか引いているように見えた。そうだとしても、逃がさないけどね。


「リコーダーの件、忘れたわけじゃないよね?」

「「お手伝いさせていただきます」」


脅しでもいい。取引でもいい。この誘いをどう捉えてもらっても構わない。

久し振りにこんなワクワクしている。いっつも外見だけを見られながら生きてきた。私の中身なんか誰も見ようとせず、可愛さだけを褒められてきた。

そうだ。私は自分が表現するものを評価されたかったんだ。絶賛でもいい。酷評でもいい。ずっと、私自身を見て欲しかった。誰かに見付け出して欲しかったんだ。


「涼夜君、ガムちょうだい」

「はい、こちらでございます」

「ありがとう」


本当の私はここにいるよ、って。

うん、甘い。青春の味がする。


「よーし! 明日の放課後から『奏音文芸部』、活動開始ね!」

「あ、明日からっすか。ねぇ……伸次」

「あ、明日は用事があったような気がします。ねぇ……涼夜君」


はぁ……あんた達、男でしょうが。


「あ? 何か言った? リコーダーが何て?」

「「明日から頑張らさせていただきます」」

「分かれば宜しい」


うん、今年度で最後の小学校生活、楽しくなりそうね。

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