表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/35

残念な戦乙女と耽美な日常 1

ふぁー、やっぱり、リアルタイムで見れる環境は違うのよ。

捗るわあ。


 未だアスガルド(アース神界)で公開されていない宝の山を吟味している。



わたしの趣向は幅広いけど……。

さすが感性が近いだけあって、かほりちゃんが献上してくれるコンテンツはどれも秀逸なのよ。


 西村かほり、同居人のOL。

 最近かなり浮ついている。

 先々月、取引先重役の孫(18歳)から告白されて、すぐに婚約したからだ。



リュートには遠く及ばないけど、まあまあの美少年かしら。

彼が20歳になったら籍を入れるらしいけど……すぐにでも籍を入れることになると思うわ。

……だって、この家、両親は海外転勤で永住してるから、かほりちゃんしか住んでいないのよ。

ふたりっきりになったら、もうおサルさん状態ね。

避妊もしてないから、すぐに出来るわ絶対。


初めから数回は今後の参考にって見学させてもらってたけど、だんだんうらym……コホン、申し訳ない気がして、最近は外出することにしてるわ。

まぁ、付き合いたてで相性向上の祝福まであるんだから仕方ないかしら。


 それはさておき――。


 リュートとギンのふたりは、英雄候補の契約を結んだ日から、ほぼ深夜過ぎまで実家で過ごしている。

 クレハが精神疲労で酷い状態らしくて、心配なのだろう。


 ただ、自分たちの葬式を見るのは精神衛生上かなり悪いので、通夜含めて6日間は実家に戻らないよう説得。

 じっとしていると気が滅入るかもしれないから、高速飛翔と心霊制御を解放して一緒に修行した。

 葬式から5日後、実家へ戻ると、クレハが葬式にも出れないほど酷い状態になっていたらしい。

 それから約2週間は――流動食と点滴で命を繋ぐだけの毎日……。



たとえ人を超える資質を持っていても、心だけはどうしようもないわ。

もしもの時は、治癒の神格で延命したあとお母さまに報告するつもり。

リュートの時とは状況が違うかしら。

クレハほどの資質を持っていれば、大御神様も異例措置を認めてくださると思うのよ。

もしあてが外れても、お母さまならクレハをパートナー(英雄)に加えてくださるはず。

それもダメなら、わたしがキール君(英霊石)に代償を支払ってなんとかするわ。


 物思いに耽っていると――ふたりが戻ってきた。


((ただいまー))

(おかえりー、クレハはどうかしら?)

(それが……やっぱり姉さんだった)

(どういうこと?)

(起き上がったんだけど……「ゴミ共、皆殺しにしてやる」って、殺気が鋭くなってた)


(復讐ね。落ち込んだままよりはいいかしら。無茶をしなければいいけど)

(んー、姉さんには佐々木さんとか柳さんも付いてるし、人の領域を超えてるんでしょ? 大丈夫じゃない?)

(そうかしら? リュートも無茶するタイプっぽいし、クレハもそんな印象を受けるわ)

(あはは)

(あははー)



ギンは相変わらず追従して真似するのが好きみたい。

でもちゃんと空気読んでるのよね。ふざける場面じゃない時は大人しくしてるし。


(クソヤロウ共も捕まってないから、護衛してたほうがいいと思うわ)

(だいじょうぶー、ボクが付いてるよ……今度はちゃんと護るから――)

(ギン……)

(分かったわ。でもねギン、もうわたし達は3人でひとつなのよ? だから何かあったらちゃんと連絡しなさい!! よいかしら?)

(うん、わかったー!)


 ギンを優しく撫でる。



心配いらないわ。

もう英雄候補の契約は済んだから、次は懲罰を受けても何とかするかしら。


(じゃあ、もう寝ましょうか?)

((はーい!))

(今日はおサルさんいないねー)

(んっ、火曜日だからね。平日に来たら神気言霊で追い出すのよ?)

(あははー、おやすみー)

((おやすみー))


 霊体も神霊体も、寝る必要はない。

 ただ、睡眠中に霊核が霊体を調整してくれるので、定期的に睡眠を取るとコンディションが格段に良くなる。

 眠り自体は極めて浅いが。


……

…………

………………


 次の日の朝。

 目を覚ますと、ギンはもうクレハの護衛に向かっていた。



どういう原理かは全く理解できないけど、クレハとギンは何故か主従の()()()が結ばれているらしいわ。


 仮契約の影響でクレハの居場所を無条件で特定できる。

 守護神獣が複数の対象と契約を結ぶのは珍しくない。

 だが、対象が人間で、リュートとクレハという実の姉弟。しかも契約を結んだ痕跡が見当たらない。



クレハの資質が異常なのも含めて、すごく嫌な予感がするわ。

わたしの知り得ないところで、何かが蠢いてる感じ。


世界内検索を何度かかけたけど、何もヒットしないのよ。

まず間違いなく、[拒絶]か【隠匿】されているわ。

けれど、現状どうしようも出来ないから。

とりあえずは――。

この食べちゃいたいくらい可愛い生き物を愛でるかしら……ぐへへへ、ハァハァ。


お触り禁止よ? 起こしたら勿体ないわ!!


 隣の布団で寝ているリュートを愛でながら悦に入る。


……

…………しばらくすると、リュートの霊気が急速に活動を始めた。


ハァハァ……あ、覚めそう。


 気持ち離れる。


(んー? あ、シェイル、おはよー)

(おはよーあなた♡ よく寝れたかしら?♪)

(……それは……まさか……)

(新婚さんごっこよ?)

 ボフンっと聞こえてきそうな勢いで真っ赤になった。


(ギンは出かけたけど、リュートはどうする?)

(んんん? んー、シェイルが何をしているのか気になるから、しばらくは一緒にいようと思うけどダメ?)

(ふふふ、構わないわ。それじゃまずは朝食ね)


 朝食と言っても、牛乳とシリアル食品の簡単なやつ。

 ……リュートも食器を運ぶのを手伝う。



これ本当に新婚みたいで、いいわあ。


(うーん、食べなくても活動できるけど、味は感じるから食欲はある……食べた後はどこで消化されてるか知ってる?)

(ここではないどこかね)

(???)


(説明が難しいのよ、長くなるわ)

(そっかー)

(んっ、がっかりしないで。神界で勉強することになるのよ)

(おぉ、そういう勉強なら楽しそう!)

(そうね。ところでリュート、あーんする?♪)


(じ、自分で食べるから!)

(ふふふ、とっても楽しいわ♪)

(それはよかったよ……)



◇◇◇◇◇


 一緒にアニメを見て、ラノベや漫画を読んで、感想話に花を咲かせる。

 一息ついたら高速飛翔と心霊制御の練習を兼ねて、聖地巡礼デートを満喫。

 リュートが気に入った作品があったら、それに精通した日本人を世界内検索で探して祝福を与え。

 1日に1回はおやつを持ってギンとご家族に会いに行く。



そういえば、この前は家族会議を開いてたわ。

なんだか知ってる気配のヒトがいたのよ。

気付かれたくないから、さっさと退散したけど。


――そんな感じで、無駄にイチャイチャしながら日々は過ぎていく。



◇◇◇◇◇


 ある日――。


 わたしは気になっていたことをリュートに尋ねた。


(リュート、いいかしら?)

(ん、何?)

(最初に英雄になる覚悟は確認したけど、覚悟を決めた理由は聴いてないかしら)

(あ、確かに)

(聴いてもよい?)


(うん、いいよ。そうだなー、1番の理由はやっぱり異世界転生してみたいかな?)

(もしかしてラノベの影響?)

(んー、ラノベより漫画のほうだね。異世界を見てみたい……そしてギンも一緒に来てくれる……断る理由がなかったよ)

(むー、わたしは?)

(あ、うん。シェイルには感謝してる。……僕も聴きたかったんだけど、シェイルの英雄になったら恋人にもなるってことなの?)


 わたしは出来るだけ優しく微笑む。


(そうね、恋人になれたら嬉しいわ。だって、わたしはリュートに一目惚れなのよ)

(ふぇ!!?)

 リュートが変な声を出した。


(本気よ? リュートと契約出来なかったら誰もパートナーに選ばないで神界に戻って隠居するつもりだったかしら)

(選ばないのもありなの?)

(普通はなしね。誰も選ばないと神としての能力を失うわ。そして、神界の片隅で死ぬこともできず。蔑まれながら永遠に生きるのよ)

(それって……)

(地獄ね。でも、わたしには漫画とかアニメがあるし、同志もいるのよ? だからそこまで辛くないわ)


(そっか……)

(だから無理強いはしないわ。無理に恋人になっても意味がないかしら)

(うん)

(しばらくは、3人で異世界生活を楽しみましょう! 恋人とかは気にしなくていいわ)

(解かった!)


(たーだーしー)

(え?)

(好きって気持ちを抑える気はないから覚悟はしてね♡)

(ははは……お手柔らかに……)



ふふふ、素敵な時間ね♪

こういう話も相手がいないと出来ないのよ。

でも、もしリュートに好きな人……人ならまぁいいわ。

わたしは女神だし、リュートが人間種のハーレムを作っても気にしない。

ハーレムは異世界物語の定番かしら。

だけど、相手が女神だった場合は……その時に考えるわ。


 必ずしも、ヴァルキューレ(戦乙女)パートナー(英雄)が結ばれるわけではない。

 それを回避するためにも、国選というシステムは優秀なのだ。

 国選パートナー(英雄)と結ばれて幸せに暮らせる確率は、自由契約より極めて遥かに高い。

 つまり、自由契約によるパートナー(英雄)探しは、あらゆる意味でギャンブルといえる。


……

…………

………………


 そのまま、ふたりでラノベや漫画を読んで過ごす。

 ほぼ無言。


 どちらかが飲み物やお菓子が欲しくなると――。

(何かいる?)

(塩ポテチとコーラー)

(その組み合わせ好きだよね)

(鉄板は最強なのよ)

(まーね)

――なんてくだらない会話を交わして、どちらともなく調達してくる。



もうなんか、煮詰まったカップルみたい。

これはこれでありね♪


 そんな幸せな時間も長くは続かない――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ