運命は惨く結びて 3
(ギン……話せるのは嬉しいけど、初めて聞く言葉が "すねるのよー" って……)
(えへへ)
会話が出来るのが堪らなく嬉しいのね、延々とふたりでじゃれ合ってるわ……。
(わたしも混ぜないと、すねるのよ!)
我慢できなくなってリュートの背後から抱き付き、髪に顔を埋めた。
(め、女神様! あ、あたってます!)
(にひひひ……当ててるのよ? あと女神様じゃなくて、シェイルと呼んで欲しいわ)
(え、でも女神――)
(シェイルよ! ギンはわたしを呼び捨てなんだから、リュートも呼び捨てにしないと、ぱふぱふするかしら!)
(どういう脅しですか!? わ、わかりました……シェイル――くはっ)
恥ずかしさの余り真っ赤になって俯き、ギンのもふもふに顔を埋める。
――カ、カワイスギ。
(シェ、シェイル……)
(ハイなのよ!)
(母さん達の様子を見に行ってもいいですか?)
(ダメなのよ!)
(え!? さっきは……)
(敬語はダメ! タメ口にしないと外出は禁止!)
(タメ口はマズイんじゃ……)
(英雄とヴァルキューレは一心同体! 偉そうにしてる女神も多いけど、わたしは気軽に付き合いたいわ!)
(いいのかな……わ、わかった、んじゃ、様子見に行ってもいい?)
(いいのだけどその前に、遠話と瞬送を説明するかしら?)
(あ、お願い!)
(遠話は、ぶっちゃけ携帯電話ね、遠距離念話と言ったほうが解りやすいかしら?)
(おお! なるほど!)
(瞬送は、瞬間移動なのよ)
(え!? 瞬間移動って凄くない?)
(凄いのだけど、どっちも契約者、つまりわたしとリュートのあいだ限定ね)
(そっか、限定か、いや限定でも凄いよ、どこにいてもシ、シェイルと念話できるし、傍まで瞬間移動できるってことでしょ?)
(うん。それと、ギンはリュートの守護神獣扱いだから、リュートと契約した時に、わたしとギンもパスが繋がったのよ。だからギンもわたしとリュートに対して遠話と瞬送が使えるわ……てことは、わたしとリュートもギンを基点に瞬送が使えるってことかしら?)
(やってみよー)
(ギンを基点に……瞬送)
一瞬でリュートの背中からギンの横へ瞬間移動する。
(うわ!? なるほど、それが瞬送……便利だね!)
(べんりー)
(解り易いように声に出したけど、パッシブスキルだから考えるだけで使えるわ)
(おぉ!)(おー)
(遠話と瞬送の使い方は、相手のことを意識してどちらを使うか選択するだけ、相手が近距離にいる場合はそのまま発動するわ。近距離にいない場合は、コール信号が相手に届いて、コールされた相手が許可するか拒否するか判断するのよ。相手が拒否した場合は使用者のほうにシステムメッセージが流れるわ)
(システムメッセージって……)
(もちろん、わたしがリュートへ遠話や瞬送を使った時も同じようにリュートが拒否することもできるのだけど、悲しいから拒否したらダメなのよ?)
(拒否権なしか!)
(いいツッコミね! ちなみに例えお風呂に入っていても、おトイレに入っていても、わたしへの瞬送は常にいつでもOK! だから、危険に巻き込まれたらすぐに戻ってくること!)
(逆に使いづらいって……)
(ギンも試してみるのよ)
(わかったー)
(とおー)
ギンが一瞬でリュートの手の中から頭の上に移動する。
(な! ……やるわね、そんな使い方があるなんて……)
(瞬送うまいな!)
(えへへ)
(では、わたしはリュートの顔へ胸から瞬送ダイブ……)
(ちょ、ギ、ギンガード!!)
(ギンがーどー?)
頭の上のギンを両手で掴み、顔の前に移動させてガード!
(チッ)
(舌打ち!? シェ、シェイルって女神っぽくないよね?)
(あら、女神に幻想を見すぎなのよ? まあいいわ、話を戻すけど……今話しておくべき遠話と瞬送の内容はこれくらいね。わたしが許可すれば、ふたりとも高速飛翔とか心霊制御も使えるけど、ちょっと危ないから使えないようにしてるわ。その代わり、ご家族のところに行きたいときは言って、高速飛翔で送るから)
(分かった!)
(んで、どうするかしら? ご家族のところへ行く? それとも戦い方の話の続きする?)
(あ、んー……今聴かないと忘れそうだから、戦い方の続きをお願いしてもいい?)
(了解であります!!)
シュタッと敬礼する。
(あ、それ知ってる……ケ○○○曹だよね? あれ? シェ、シェイル??)
(リュートおおおおお!!!)
瞬送を使って死角から思いっきり抱きついた。
(ふぐぁ、な、何!!?)
(今までネタを出しても、誰もツッコンでくれなかったのよ!!! 神界じゃ知らない人が多すぎて!! 感動よ!!! 感動なのよ!!!!!)
どさくさに紛れて頬っぺたどうしをくっ付けてスリスリする。
(近い!! 近いよ!!!)
(初めてネタにツッコまれたかしら……初めてがリュートで嬉しいわ……ポッ)
(からかってるよね!?)
(からかってはいないわ、イジってるだけなのよ)
(何が違うの!!?)
(話が進まないわね……でも、感動したのは本当よ? チュ)
軽くリュートの頬にキスしてから離れた。
(んんんんん!!!??)
茹でタコのように真っ赤だ。
(んっ、何を話してたかしら? 確か、近接戦が好きで――)
(――んんんんん……ふしゅー)
あら、頬にキスしただけでショートしたわ。
早急に改善が必要ね。でも嫌われないように節度をもってやらないとかしら。
(シェイルのやくたたずー)
(これも必要な訓練なのよ?)
(……)
ギンの視線が痛い。
……3分ほどするとリュートの意識が戻った。
(ごめんねリュート、やり過ぎたかしら)
(あ、うん、だいじょうぶ。自分でも驚いたよ、姉さんからは結構キスされてるけど……家族以外だと全然違うね……ははは)
(お姉さんとキス……?)
(おでことか頬っぺたにだよ?)
(そ、そう)
(で、なんの話だっけ?)
(接近戦が好きだけど、体力と筋力がって話かしら)
(それそれ、鍛えても全然つかないんだよね)
(それね、本契約の前に伝えようと思ってたのだけど……。あ、さっき結んだのは英雄候補の契約、言い換えると英雄の仮契約なのよ。んで、神界へ戻って本契約したら肉体の代わりを貰えるわ、転生に近いけど……)
(て、転生!? ラノベか!!?)
(お約束のツッコミ頂きました!! コホン――転生で貰える肉体の代わりは、エインヘリヤルって呼ばれているわ。神の力のエネルギー体なのよ)
(神の力!??)
(説明が長くなるから詳細は省くかしら。今リュートに伝えたい重要なことは、エインヘリヤルはある程度自由に身体の設定ができるってことなのよ!)
(設定!?)
(そう、性別も変えれるし、見た目も原体とかけ離れていなければある程度は変えれるのよ。だから今の見た目のまま体力や筋力は英雄並みの肉体という設定も可能なのよ!)
(マジで!!?)
(マジデ! もちろん限界はあるのよ? さっきも言った通り、原体とかけ離れた設定はできないから、最初から英雄の体力や筋力を持った状態で転生することは不可能ね。でもその資質を持った身体に転生するわけだから、努力次第で体力や筋力もつくのよ)
(いいね! 頑張ればマッチョにもなれるかな!!?)
(却下!!!)
(え?)
(却下なのよ!!!!! エインヘリヤルは、わたしの神の力を核に産み出されるから、わたしが望まない設定は反映されないかしら!!!!!)
(ダメじゃん!!)
(今の姿のままで、ゴリマッチョを超える体力と筋力が得られるから、それで我慢するのよ!!)
(え? マジで!!?)
(マジデ)
(じいちゃんみたいになるのか……うん、それはそれでいいね!)
(じいちゃんみたい??)
(あ、ウチのじいちゃんね、見た目は普通の人なんだけど、身体は極限まで鍛え上げられてて、純粋な腕力でも未だに息子ふたりとも勝てないらしい)
(人の領域を超えてるのかしら……ちなみにクレハは完全に人の領域を超えてたわ……もうガクブルよ)
(はは、なんとなく気付いてたけど、人を超えてるのか姉さん……)
(おそらくまだ、自分が人の領域を超えていることを自覚してないかしら。誰かが力の使い方をレクチャーしたら、その瞬間化けると思うのよ)
(そんなにか……)
(異常すぎるから、神界に戻ったらお母さまに報告しないとね)
(……え?)
(あ、大丈夫よ。保護されるだけだから)
(保護??)
(うん、あれだけの資質があったら間違いなくヴァルキューレ達から奪い合いになるわ。その前に保護して彼女の周りに被害が出ないようにするのよ)
(シェイルは……姉さんを選ばなくていいの?)
(リュート)
(何?)
(それは言っちゃダメな冗談ね。同じようなこと言ったら次はベロチューするわよ)
(ベ……っ、ご、ごめん)
(解ればいいわ……んっ、ひとまずクレハのことは置いといて――エインヘリヤルで転生する限り、生前の戦闘力は参考程度でしかないのよ。ただ、そもそも身体の動かし方、戦い方、その心構えが出来てないと、どんな強力な身体を持っても使いこなせないから、多くのヴァルキューレは戦闘に長けたパートナーを選びたがるわけ。その点リュートは武術の心得があるから問題ないのよ)
(なるほどね)
(とりあえず、本契約で今話せる内容はこれくらいかしら? 詳細は神界でね)
(解かった!)
(他は……地上での活動期限が残り半年ね。わたしは拠点のこの部屋に居るから、リュートは基本自由にしてていいわ。だ・け・ど! 夜には戻ってくるのよ? 戻ってこないと遠話で位置を特定して高速飛翔で迎えに行くかしら)
(やっぱり拒否権はないのね? そして瞬送とは……でも――ありがとシェイル!)
(どういたしましてなのよ! ――ギンは……リュートと一緒に行くのかしら?)
(もちろんー)
(そう、じゃあ、これらよろしくね! リュート! ギン!)
(こちらこそ、シェイル!)
(こちらこそー)
ふたりを連れてご家族のもとへ、高速飛翔した――。
――――――こうして終わりを告げたリュートの運命は、シェイルとギンの運命と結ばれ、新たな刻を紡ぎ創める。