やるせない想い 2
「「「「「た、すかったあああああぁーーーーーっ!!」」」」」
ザガリーが封印されたのを見て、各所で喜びの声が上がる。
後ろを振り返ると、ザガリーを抑えていたみんなは緊張が解けたようで、脱力しながら座り込んでいた。
スクルド様とお母さまにウェデル正式敬礼して、みんなのもとへ向かう。
「リュート、だよな?」
盛央が僕を見て呟く。
同時に周囲からも視線を感じた。
「んん?」
質問の意図が解らない──。
「あ! マーフェが神威武装するとか言ってた。もしかして武装してる?」
「し、んい、ぶそうだ……と……??」
エースは呆けたまま小声で呟いていた。
「それ武装なのか?」
盛央は、ガンドゥルーアの短い手を前に出している。
たぶん腕を組んでるつもりっぽいけど、長さが全然足りていない。
「水鏡を作ってみるといいのよ」
シェイルが邪悪な笑みを浮かべながらニヤニヤしていた。
嫌な予感しかしない。
言われるままに、鏡面の水を構成する。
少し離れた場所に出現した2メートル四方近くある水鏡──。
そこには、透き通る薄翠の髪と、白銀の瞳をした長身でグラマラスな美女が立っていた。
白と黒基調のドレスアーマーを装備している。
誰かに似ているな──手を腰に当てて考える。
母さんと姉さんを足して2で割った感じ……んー、違う。
母さんと姉さんはこんなにエチエチじゃない。
若い頃のティナばあちゃんと冬子ばあちゃんを足して2で割った感じかな?
なんだか、前髪が鬱陶しい。
右手で前髪をかき上げると。
──水鏡の美女も左手で前髪をかき上げる。
「は!? 僕じゃん!? む、ね! 胸! やわらかっ! ……あああああ……ない……」
「ぐへへへへ♡」
色々確認していると、隣でシェイルさんがよだれを拭いていた。
「本気を出すと変身するのか? 漫画の主人公みたいだな! ガハハハ!」
僕の隣に並んで、小さな手で、バシバシツッコむ盛央。
両脇でトリップしているシェイルとエース。
水鏡越しに見ると、なかなかシュールな絵だ。
「はぁ~」
思わず溜め息を漏らす。
「ガハハハ! 似合ってるぞ! 気にするな!」
他人事のように、僕を慰めながら、僕の視線に釣られて水鏡を見る盛央。
ずっと小さな手でバシバシしていたが、水鏡を見てから徐々に勢いが弱まる。
「テディーベア!?」
「ん? テディーベアだね」
僕の横には、真っ白で全長50センチメートルほどのテディーベアが居た。毛並みも見事に再現されている。
「……これは……どういうことだエース!」
「あれ? それがデザインじゃないの?」
「違う! 前は普通に人型──」
「──あぁ、すまん。作務衣の刺繍が印象的すぎて、ガンドゥルーアが形体模写した」
トリップしたまま抑揚のない声で答える。
「……」
あまりの衝撃に、言葉が出ない盛央。
「美女と小熊……」
こちらまで近づきながら呟くスクルド様に──。
「うっ」
──笑いを堪えて停止するお母さま。
コロン
と擬音が聞こえそうな可愛さで、倒れる盛央。
「盛央? もりおー」
気絶している。最後の精神攻撃でSPが尽きたか。
「へんじがない。ただのテディーベアのようだ」
「「「くっ」」」
僕の悪ふざけに反応する仲良さそうな3人。
すると、少し離れた場所から穢れたザガリー並みの威圧を受けたかと思うと──。
「はぅぁっ」
──戦闘時より速い[高速飛翔]で接近し、白いテディーベアを抱き上げてハグ。頬をすりすりしている。
ぶれませんね、ジュダさん。
それ、盛央なんですが、いいんですか? とは言えない。
他のメンバーを確認する。
フランシスは、地面にへたり込んだまま僕の視線に気づくと軽く手を振って応えた。
ディナミネシスは、無造作に胡坐をかいて、少し機嫌が悪そうにジュダを見ている。
はしたないですよ? とは言えない。
ジジ様は、ジュダの頭の上で眠っているようだ。お疲れ様!
ギンは、すぐに定位置へ[瞬送]してきた。
「ギンもお疲れ様!」
「みんな無事で何よりー!」
ヤコミナたちは喜びながらも救助活動を続けている。
ディートリヒが指示してたのか。出来る男は違うわ~。
[水]で中等部全体を確認してみる。
混乱はあるけど、[穢]の影響は地下修練場で止まってるみたい。うん、よかった。
「おい──リュート」
唐突にスクルド様から声をかけられた。
「はい……」
緊張して直立不動になる。
「あまり力を使うな。意識を失いかねん」
あ──SPを確認する──。
うん、ゼロだね。
──もちろん、そのまま気絶した。
◇ ◇
目覚めると寮部屋だった。[自己管理]で時間を確認する。
20日近く寝てた……。
(これはやっぱり、直結の影響?)
〔キール君<おはよ♪ 直結の影響だよー♪〕
〔ギン<おはよー〕
〔シェイル<おはろー〕
〔エイル<おはよう♪〕
〔スクルド<おはーん〕
〔スクルド:デフォルメされたスクルド様の無気力顔スタンプ〕
えっと、ツッコんでいいんでしょうか?
いえ、駄目でしょ。
〔そっか……お、MP/SP全快してる。あ、胸! ない!>リュート〕
〔シェイル<ご子息はお戻りになられたのかしら?〕
〔えぇ、おかげ様で……下品ですよシェイルさん>リュート〕
〔シェイル<にひひひひ♪〕
〔スクルド<セクハラ親父か。誰に似たんだ?〕
〔エイル<誰に似たんでしょう?〕
〔スクルド&エイル:ふたりで睨み合うデフォルメされた半眼顔スタンプ・怒りマーク付〕
〔ちょ、なんか、バージョンアップしてないか、このアプリ>リュート〕
〔キール君<ふっふっふー♪〕
〔キール君:デフォルメされたキール君のドヤ顔スタンプ・音符マーク付〕
〔エイル<ひとまず、学園長室へ来なさい。詳しい話はこちらでしましょう〕
〔はーい>リュート〕
〔リュートと愉快な仲間達〕を閉じて、身だしなみを整えた。
「シェイルとギンは行けそう?」
「準備万端なのよ」「大丈夫ー」
「なら、行こっか」
3人で学園長室へ向かう。
◇ ◇
学園長室には、お母さまとポルト先生が居た。
スクルド様はいない。宣託の神域へ戻られたのだろう。
すぐにお母さまが近づいてきて、僕の状態を確認する。
「……」
それを無言で舐めるように見つめるポルト先生。
ちょっと怖い。
「神霊体もマーフェも問題ありませんが──予想通りのようです」
「予想通りですか?」
「はい、マーフェの本体と直結したことで、ふたつ目の神格が生まれています──これでは、もう英雄候補とは言えません」
「え!?」
まさかの退園!?
「神格をふたつ持ち、神獣を従え、四元のひと柱[水]と連なり、神威を纏う──そんな英雄候補がいてたまるか」
ポルト先生が呆れた顔で諦めたように喋る。
「それはどういう──」
「──ギンと同じ、上位神相当ということなのよ」
「あれ? 確か上位神は神格を7つ以上持ってる神様ですよね?」
「一般的な定義はそうなっています──が──ともかく、四元の精霊神と直結、神威武装した挙句に、正極性神水による穢れ祓い──やりすぎましたね」
「まじですか……」
「おおまじです──こんな即戦力を学園で遊ばせるなという多数の意見が出てしまいました」
「あちゃー」
「うおおおおおぅっ! みんなと一緒に勉強したくて頑張ったのにいいいいいぃー! お母さまとスクルド様に任せて、攻撃するんじゃなかったあああああぁー!!」
悶絶する。
「やはり、気付いていましたか。ですが、あの場面でわたくしたちを待っていたら、それはそれで問題がありました」
悶絶するも、ギンの鎮静効果ですぐに落ち着く。
「はい……」
マーフェと直結した瞬間、隠れて待機しているスクルド様とお母さまを感知した。
すでに封印できるよう準備が整っているのも察知できた。
キール君がうるさく言わないわけだ。
「まあ、リュート。成長できたんだ。悪いことじゃない」
ポルト先生が気を使ってくれた。
確かに「実戦に勝る修練はない」って家族からも言われてたけど。今回のはなんか違う! なんか違うっ!!
だけど──。
準備が出来たら、すぐに封印してくださいよ! もう!!
──なんて、さすがに言えない。
「先生ありがとう」
「ああ」
「ということは、僕は退園になるのでしょうか?」
「いや。仮卒業だ」
「仮卒業?」
ヴァルキューレ養成学園は、初等部、中等部、高等部、大学部、学院部の5学部に分かれていて、学園へ所属することを入園、学園の所属が外れることを卒園、何かしらの事情で出入り禁止になることを退園と表現する。
卒園はともかく、退園すると再入園はかなり難しいらしい。
そして、各学部に配属することを入学、各学部から外れることを卒業、または退学と表現する。なので多くのヴァルキューレは各学部を卒業はしても、卒園はしないのが通例になる。
「ああ。本来優秀者は、担当官や氏族の推薦で、高等部、大学部へと進学するわけだが。お前のように特殊な奴は、すぐに実戦投入される。なにより学園に残ったところでお前の望みは叶わない」
「??」
「穢れを祓ったリュート君はもちろんですが、穢れと対抗できるエイスタインペア、ユーディットペアも各氏族から召還がかかっています」
「「あー」」
だとしたら、僕だけ学園に残るより、結果的によかったのかも?
少し前向きな気持ちになった。




