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萌し 1

 僕らが[穢]を抑えているあいだ、試験演習で共に死線を経験した者たちが協力しあって救助活動をしていた。

 こういうのいいな。戦友って感じがする。


 そんな束の間の感嘆(かんたん)を塗り返るように、[絶対拒絶]の針孔(はりあな)をこじ開けて伸びる粘液。

 [穢]の触手が[破壊]の結界を滅多打つ。


 なかなか結界を越えられないと覚ったのか、僕らにも触手が襲い掛かってきた。

 盛央が[絶対拒絶]で護られたガンドゥルーア(分け身人形)の【流水】で弾き、それをシェイルが[災厄]の【リヴァイズ(絶対蘇生)】で消滅させる。


 今は対抗できているように見えるけど、どんどん触手の数が増えてるから時間の問題。

 思ってたよりお母さまの救援が遅い。

 [破壊]の結界が破られたら、アスガルド(アース神界)に溢れる神気や学園生たちを浸食しながら加速度的に増殖するだろう。


 それでもみんな、自分ができる精一杯で戦っているのに……僕は何のために[水]の力を手に入れたんだ。

 誰かを……大切なみんなを護るため。

 今の僕に何ができる?


 考えろ。考えろ──。


 盛央の【流水】、エースの[絶対拒絶]、ガンドゥルーア(分け身人形)

 直接[穢]と触れる対処法はリスクが高すぎるんだ。

 [絶対拒絶]の効果がある[水]の結界は作れるかもしれない。

 でも、【フォース・キングダム(四天守護王国)】の[絶対拒絶]ですら、穴を開けられている。

 [水]なら間違いなく穴を越えてマーフェが汚染されてた。


 フランシスの【ドレインタッチ(気力授受)】……神気を補充する水。

 駄目。神気を直接取り込めない霊体の英雄候補や幻獣のジジ様はエネルギー切れになる。でも神気がエネルギーである神霊体は、周囲の神気が汚染されない限り、神界ではほぼ無尽蔵。

 わざわざ補充する必要がない。


 ジジ様の『【エンチ()ャント・フ(念付)ォース()】』……[破壊]を付与した水。

 これも駄目。神気の制御が上手くない僕が間違って味方を巻き込んだら、 "死" では済まされない。最悪 "消滅" の可能性がある。


 ディナミネシス……マーフェの神気をジュダに制御してもらう?

 まず無理。理論も手段も知らない。

 それなら無理にでもクロスオーバー(神憑り)して、シェイルの地力を底上げしたほうがよさげ。


 ──[破壊]の結界が徐々に追い付かなくなっていく。

 考えろ。考えろ──。


 シェイルの【リヴァイズ(絶対蘇生)】……回復する水。

 違う。[穢]を(はら)う水。……多分キール君が言ってた対処法のひとつがこれ。

 これが出来れば苦労はしない。

 ジジ様に、付与してもらう?


(無理だよね?)

(うん。【リヴァイズ(絶対蘇生)】を[水]に付与しても期待できる威力は得られない)

(なるほど、だから神社のあれを使ってるのか)

(うん。でも、フェンリルの[災厄]は本来、何が発生するか制御できない。毎回思った通りの[災厄]を発揮させているのはシェイルの特性があるから)

(へー)


(それをジジに渡すと、シェイルの特性から外れて、意図しない[災厄]が付与される可能性が極めて高くなる──正直に話すと、運命を捻じ曲げて使いまくっているシェイルから外れたら、今まで捻じ曲げた分のツケが回ってくる)

(嫌な予感しかしない……あれ? 姉さんに使い方教えてたけど……)

(クレハにもギンの加護があるから)

(あ、なるほど)


 ──ガンドゥルーア(分け身人形)の[絶対拒絶]に傷が入り始めた。

 考えろ。考えろ──。


 そもそも[水]って何だ?

 根本的な疑問を意識した途端、どこかで見た言葉が浮かび上がってくる。


  "出来るだけ色んなことを試してマーフェと仲良くなって" 。

 マーフェ、概念、空想が現実になる力。


  "四元の本領はそれから" 。

 まさに水神の御力(みちから)


  "SPに余裕がある時に” 。

 今の僕は半神半人。半分神様。


  "単純に思うだけで現象を起こせるようになる" 。

 ただただ当たり前のように、そうできることが必然のように。


  "そのうち意志が直結する" ──。

カチリ

 ──何かが噛み合って(はま)るような音が──聞こえた気がした。


『契約者ノ接続ヲ完了──接続ヲ本体ヘ移譲シマスカ?』

「え? なにコレ?」

「どうした!?」

「変な声が聞こえる……」

「リュート?」


『接続ヲ本体──精霊端末──個体名マーフェ──ヘ移譲シマスカ?』

「んん!? マーフェが喋ってる……」

「上位精霊神が!? ありえないのよ」


『待機中──命令──待機中』

「あ、えっと、移譲するとどうなるの?」

(マーフェと直結するよ──素晴らしい──クスクス)

(直結していいんだよね?)

(うん。あ、マーフェへの応答は神気言霊か[念話]でね。言葉に出さなくていいよ)

(分かった!)


『マーフェ! 移譲します!』

『命令承認──積層記録領域ニ補助人格ヲ登録──成功──完了──本体へ接続──世界管理機構特約第15項──承認──因果律ヘ干渉──成功──完了──再起動シマス』


「ふおお~おおお~~~ぉ!?」

 不自然に身体を震わしながら奇声を発する。

「「「リュート!?」」」

「だ~いじょ~ぶ~」

『状況把握──成功──敵性存在ヲ確認──命令ヲ待機シマス』

「て~きせい~ってあ~いつで~いい~んだよ~ね~?」


『待機中──命令──待機中』

『あ、敵性ってあいつでいいんだよね?』

『敵性存在──個体名ザガリー──極性[穢]』

(命令ってどんなかんじでやればいいの?)

(マーフェが指示を仰いでいるのなら、明確な命令が欲しいからだと思う)

(なるほど)


「く……学園長様はまだなのか!?」

 エースが愚痴をこぼす。

 

 マズい【フォース・キングダム(四天守護王国)】が壊されそう。

 [破壊]の結界も限界のようだ。


『[穢]を(はら)いたい!』

『命令承認──契約者ノ意向ヲ認識──積層記録領域ヨリ策定──成功──完了──実行可能ナ方策ヲ二案送信シマス』

 お、いつもの感じで[水]から意志が伝わってくる。

 なるほど、複雑なイメージや意志は、こんな感じで何となく伝えればいいのか。

 2案とも僕が考えていたことだった。

 そのままマーフェが実行してくれるらしい。


『おすすめはどっち?』

『第二案ヲ推薦──実行シマスカ?』

『お願い!』

『命令承認──[神水]構築──成功──完了──神威武装構築──成功──完了──転装』

「え??」

「「「ん?」」」


『再起動シマス』

「ちょ、ま──」


 ──遅かった。


 僕の神霊体を中心に青白銀の[神水]が渦巻いて、シェイル、盛央、エースを護る。

 [穢]の触手が[神水]に触れると連鎖的に弾け飛んだ。


「「「……」」」

 3人とも絶句している。


 渦の中でより青みを増した[神水]が僕に纏わりつくと、神霊体と一部融合。

 すぐに纏わりついた青い[神水]が神霊体から離れて、羽衣へと変化した。


「「「……」」」

 3人とも僕を凝視している。


 まあ、[神水]が[穢]を(はら)ってくれるから、こっち見ててもいいけど……戦闘中ですよ? 油断しすぎ。

 と思いながら、マーフェに意志を送って確認する。

 了・解! あとは、僕が[神水]で攻撃すればいいだけか。


「[神水]で穢れを(はら)うけど、みんな気を抜かないようにね!」


 [神水]を使った攻撃……さすがにこの状況でなら使っても文句は言われないだろう。

 自分を納得させながらイメージする。

 水、水の攻撃、ああ、やっぱりこれだよね。

 最初に浮かんだ攻撃のイメージが頭から離れなくなった。

 よし、これで行こう。


 [神水]の渦が徐々にうねりを増しながら膨らんでいく。

 ある程度膨らんだら、次に回転の速度を上げる。


 自然体のまま左半身を後方へ引きながら、右手を突き出して発動した──。


タイダルウェーブ(正極性神水瀑布)!!」


 [破壊]に触れないよう結界に沿って旋回しながら走る[神水]に導かれ、本体の渦がうねりをあげて突進する。

 全てを(はら)い流す[正極性神水]の連続エリア攻撃。

 自ら開けた[絶対拒絶]の穴から浸水を許し、所々弾け飛びながら消滅していく肉の塊(ザガリー)


 うっおー! か、カッコエェー!

 けど、SPがゴリゴリ減る……あ、MPも減り始めた。

 神界なのに? もしかして制限かかった?


 渦の波が十数秒続いて収まるとMPが切れていた。

 棒グラフ上はゼロだけど、キール君が余裕をもって表示しているので実際にはゼロではない。

 だけどタイダルウェーブ(正極性神水瀑布)が終わったのは、たぶんMP不足。

 これ、アスガルド(アース神界)以外はMP厳しくない?

 なんて考えながらザガリーの状態を確認する。


 用心してザガリーを包囲警戒している[神水]、マーフェ越しに見たザガリーの霊体は赤黒く爛れ干乾びていた。

 グロい。

 おっと、そんなことより──。


「首の紋章はどうなってるかしら?」

 シェイルだけそばまで来ていた。


「んー……消えてる。やっぱりアレが原因かな?」

「ええ、たぶん」


 あ、やっと出てきた。

 シェイルと一緒に観察していると、お母さまが初めて見る女神様を連れて現れる。


「お見事です。よく頑張りました」

「うむ、なかなか面白いものが見れた。たまには真面目に働くのも悪くない」


 神秘的で蠱惑的、少し恐ろしげで見た目だけ(・・・・・)は黒髪の美幼女。

 仕草や洗練された神気からは歴戦の古豪を彷彿とさせ、思わず身震いしていると。シェイルと僕に? ニヤっと悪い顔をしてきた。


「んっ、ヒッキーのスクルド様がお外にでてる……」

「ヒキニートに言われたくないわ」


 たしかスクルド様は、運命の三女神のひと柱。未来を司る運命の女神様。普段は、宣託(せんたく)の神域でヴァルキューレ(戦乙女)候補生のために英雄候補を選考する仕事をしているはずだ。


「スクルド、すぐに封印しますよ」

「うーい」


 気だるそうに返事しながら左手の薬指を親指で弾くと、一瞬でザガリーを中心に多重積層型複合立体魔法陣が展開する。

 複雑すぎて形状がよく解らない。

 続くお母さまが右手をかざして拳を握ると、複雑な魔法陣が物凄い速さで組換わり、様々な形状の立体が綺麗に重なって不思議な情景を醸し出した。


「ふん。相変わらずの変態だな」

「あなたが雑すぎるのです」


 お母さまを変態扱いしながら、開いたままだった左手で握りつぶす。


『【テンダ・ス・ワルロ(虚数封印)】』


 スクルド様の鍵言葉と共に、ザガリーは立体魔法陣に溶けて封印された。

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