表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/35

絶望の先へ 1

 啖呵を切る盛央の背中に、憧れの眼差しをこれでもかと注ぐ僕。


 すると斜め後方のエースが吠えた。

「ボケが! ……いいだろう、俺も男だ。惚れた女のためなら命くらい張ってやる!!」

 ──んん? 惚れた女? 誰それ!?

 シェイル……じゃないと思うから──ジュダ?

 おおう、そうなんだ!


 覚悟を決めたエースは神気言霊を唱えながら何故か、神楽のようで、遥かにスピーディな踊りを始める。

『舞え! 舞え! 猛り狂いながらも──舞え!」

 顔どころか首筋まで真っ赤。羞恥に耐えているようだ。


 アリアは、半分ほどザガリーに取りこまれていた。


『舞い集いて形代(かたしろ)を成せ!』

 ちょっと投げやりな感じのエース──。


『【クレイジートラップ(狂った傀儡達)】』

 ダンッと足を強く踏み抜いて、決めポーズを取ると、エースの背中から5体の真っ白い球が次々と離れる。


「師匠、使わせて頂きます……行くぞ盛央!」

 4体の白い球がこちらへ飛んできた。

「おうよ!」

 ふたり呼吸を合わせて叫ぶ。


「「リミテッドオーバー(人形憑き)!!」」


 白い球の1体が盛央にぶつかり、そのまま吸収。

 倍に膨れあがったかと思うと弾けて、中から現れたのは──。

「こ、これは!?」

「盛央、大丈夫そうか?」

「ああ、いける! 俺の感覚だと9割がた力が戻った!」

「よし、まずは成功──細かい制御は俺が担当する、急げ!」

「おうよ!」

 ──3体の白い球が、三角錐に変形しながらザガリーを取り囲む。


「包囲完了!」

「ふーっ、もし浸食されそうならスグにぶちかますぞ!」

「おうよ!」


 エースが集中する。


『ギ、ギ、ァ?』

 ザガリーは自我があるかどうかすら判らない。


「んっ、ギン」

「なーにー?」

 エースが集中しているあいだにシェイルがギンに話しかけた。

 あれ?

「ギンいたの!?」

「えー、ずっと頭の上にいたー」

 まじか……。


「演習だとギンに頼れないから、すっかり忘れていたのかしら?」

「いつも頭の上にいるのにー」

「……それが当たり前すぎて、忘れてた……」

「天然か?」

 シェイルからの珍しい真顔ツッコミに──。

「あう」

 ──言い返せない。


「んっ、ギン。あいつ[破壊]できないかしら?」

 だよね……。


「むりー」

神威武装(しんいぶそう)は?」

「ボクは大丈夫だけど、キールがむりー」

「そういうこと?」

「うんー」

「どういうこと?」

 僕には理解できない。


「んっ、神威武装(しんいぶそう)したギン憶えてる?」

「大人になってたやつ?」

「うん、あれはわたしの[増強]を使ってキール君が一時的にギンを成長させてたのよ」

「あー、クロスオーバー(神憑り)出来ないのと同じ理由か……」

「うんー」


「もし神威武装(しんいぶそう)出来たら壊せるかしら?」

「むりー、みんなで結界を壊したあれならできるかも」

「なら、最悪クロスオーバー(神憑り)で──」

「──リュート、残念だけど、それは無理なのよ。あの時のクロスオーバー(神憑り)はキール君とわたしの全力に、ギンの神威武装(しんいぶそう)の加護があって、ちょっとあり得ない出力がでてた。百戦錬磨の英雄たちですら戦闘中に竦み上がるほどのね」

「あー」

 確かにそうだ、クロスオーバー(神憑り)で膨れ上がった僕らの神気を浴びて、みんな戦闘を中断してた。


「じゃあ、無理にクロスオーバー(神憑り)しても、ザガリーの "穢れ" は壊せないのか」

「うん、ごめんね」

 ギンが謝るけど、僕には伝わった。

 最近は[水]と強く繋がることが多い。でも意識するとパスを通してギンの強い意志を感じた。

 キール君があまり慌てないのは、たぶんギンが居るから。

 どうしようもなくなったら、ギンが何とかする。

 それでも僕とシェイルが致命傷を受けたら、進化の1つが発動する。

 その進化で安全が確保されるんだと思う。


 ギンが対処出来れば、みんな助かる可能性はある。でも……。

 3人で考え込んでいると、エースの準備が整った。


「ふんっ! 我が姉にして師匠、天才と(うた)われるヴァルキューレ(戦乙女)が創りし至高の傑作を見せてやろう!」

 片手を前に突き出してザガリーを包囲した三角錐を起動した。


「【フォース・キングダム(四天守護王国)】!」


 3体の三角錐から3本の直線が伸び、各自連結して逆三角錐の結界を構築する。

 あ、残り1体は地中に潜ったのか!


「な!? こ、これ……」

「おー、あの結界と同じくらい強いー!」

「神社の?!」

「うんー」

「[絶対拒絶]の結界、概念制御の精度はフェミ先輩ほどじゃないけど、強度は匹敵するのよ! あの人形の所為かしら?」


 僕らが驚いていると──。

「なんとか間に合ったな!」

 ──盛央が右手の親指っぽい突起をサムズアップして喜んだ。

「あ、う、うん」


「気を抜くな! ここからだ!」

 確かにエースの言う通り、マーフェの警報も止まないし、アリアを完全に取り込んだザガリーがぐにゃぐにゃし始めた。


 来る!

 と思った瞬間、みんな迎撃態勢をとる。

 ザガリーの肉体が醜く増殖を始めると、一瞬で膨れ上がり、逆三角錐の結界をしならせた。


「「ヒイッ」」

 思わずエースとジュダが短い悲鳴を上げる。


「エース! こっちまでは浸食されない。だが……全部抑えるのは無理そうだ」

「……ああ、把握している。[絶対拒絶]に穴を開けるつもりか……クソボケがっ!」

「幾らか突破される、リュート! すぐ迎撃準備だ!」

「分かった! ギン、触手を壊すのはできそう?」

「うん!」

「ギン、シェイル、お願い!」

「まかせてー!」「まかせるのよ!」

 いいぞ! あとはお母さまが来るのを待てば……。


『GaGi、GyaGi』

 ザガリーは、なんと表現すればいいんだろう。

 粘液の触手を伸ばす肉の塊……ヒトの原型はない。

 所々青筋と血管らしきものが浮かび上がり、そこを赤黒い[穢]が循環しているようだ。

 その[穢]を[絶対拒絶]の一点に押し付けている。


 徐々に一転だけが変色し──。

プシュー

 ──赤黒い(もや)が噴き出した。


「まずいぞ……穢される!」


 三角錐自体は[絶対拒絶]で護られているので【フォース・キングダム(四天守護王国)】が直ぐに壊れることななさそう。

 でも、放置するとここら一帯は間違いなく汚染される。


「ギン様! お力添えを!」

 ジジ様がジュダの頭の上でぶるぶる震えた。

「なにするのー?」

「ギン様の[破壊]を、わしの能力でジュダの結界に付与すれば、この程度の[穢]なら防げますぞ!」

「へー、面白そー! リュート」

 ギンの好奇心が伝わってくる。

「やってみよ!」


 僕の肯定を受けて、ジジ様がジャンプ。一回転するとボフンと膨れ上がり、再びジュダの頭に着地した。

「わしの背中にどうぞ!」

 いつもの擬態帽子ではなく、うつ伏せ枕のように中央が凹んだジジ様。

「とーぅ」

 僕の頭からジャンプしてジュダの頭へ着地。

 あつらえたかのように、ジジ様の凹みに装着した。


「ふぁっ はぅぁっ」

 恐怖はどこへ行ったのだろう。ジュダが蕩け落ちる。

「ほれジュダ、わしとギン様を護れ。誓約を違えるな!」

 ジュダの顔に生気が戻った。

「そうですわっ、わたくしの命はもふもふを護るためにありましてよっ」

 え? そうなの? それでいいの……?


「リュート! 下がってくださいましっ」

 みんなを残して? そんな選択したら、英雄になんて成れないよ。

 少なくても()が目指す英雄はそれ(・・)じゃない。

「パーティ唯一の攻撃手が下ってどうすんのさ! これはリーダー命令だよジュダ! 僕の後ろで結界を張って!」

「ですがっ」


「リュートは俺が護る! ジュダは後方で穢気(えき)の封じ込めに集中しろ!」

 いつのまにか、僕の隣まで来ていたエースが促す。

 好きな子を下がらせて出来るだけ被害から遠ざけるつもりだね?

 ふふん、やるじゃないかエース!


「分かりましてよっ」

 ジュダが霊気の被膜を展開しながら後方へ飛ぶと──。

『【エンチ()ャント・フ(念付)ォース()】』

 ──青白銀の六芒星アクセサリーを盛り上げてジジ様の額に大きな宝石が浮かぶ。

「ギン様お願いしますじゃ!」

『我に破壊を』

 ギンの神気言霊に反応して一瞬ジジ様が震えると、霊気の被膜に灰黒の格子線が走った。


 穢気(えき)が灰黒の被膜に触れる。

 被膜が弾けて穢気(えき)も消えるけど、次々に押し寄せる穢気(えき)に被膜の回復が追い付かない。


「おい、カーバンクル。その付与は私にも可能か?」

 思わぬ声に後方を確認すると、ディナミネシスがいた。

「ディ!?」

「姉上は危なっかしくて見てられん」

 腰に手を当てたままザガリーを睨みつけているが、なんだか嬉しそうだ。


「すまん霊力が足りん。無理じゃ」

「チッ、これだから畜生は──」

「──なら我の神気をくれてやろう」

 ディナミネシスの嫌味を遮って、フランシスがジジ様に触れる。

「よいか?」

「すまぬ!」


「気にするな──【ドレインタッチ(気力授受)】」

「あ~っ、漲るのじゃ~」

「ウェデルの【ドレインタッチ(気力授受)】。さすがの変換効率ですわっ」

「氏族特性だからな」

 額の宝石が輝きを取り戻す。


「ギン様よろしいでしょうか?」

「よきに計らえー」

「ははーっ! ほれ、小娘。わしに触れるがよい。ギン様の偉大なる[破壊]の御力を授けてやるのじゃ」

「畜生が──」

 ジジ様に嫌味で返されながらも、蔑んだ目で睨みつつ右手で触れる。


『【エンチ()ャント・フ(念付)ォース()】』

「これが神獣様の力……悪くない」

 左手をニギニギして感触を確かめると、そのままジュダの背中に添えた。

「私の神気を送るので姉上が制御してください」

「でも属性がっ」

「今私と姉上の神気は、神獣様の[破壊]でリンクしています。[破壊]の影響が強すぎて、双方の属性が無視されている状態です」

「あっ」

「はい、今なら私の神気を姉上が制御できます。そして神気の制御は姉上が遥か上……」

「……ディ」


「おいこら! じゃれ合うな! はよやれ!」

 ギンと違って空気を全く読まないジジ様。

「畜生が──」

 舌打ちしつつ、神気をジュダへ送る。

「無敵ですわっ。負ける気がしませんのよっ」

 ディナミネシスの後ろにもう一枚[破壊]の結界が展開、前後の結界に穢気(えき)が触れると結界が弾けて、周囲の穢気(えき)を灰黒の炎が焼き尽くした。


「「「「「凄い!」」」」」

 辺りから感嘆の声が上がる。


 見渡すと──。

 ヤコミナとコリン、そしてふたりに関わった2つのパーティメンバーが逃げ遅れた英雄候補を救助していた。

 プラチナのメンバーは、[穢] の余波で神印の穢れ祓いが発動したヴァルキューレ(戦乙女)や、悪影響を受けた英雄候補を回復し、バーニングレッドはそれを支援する。

 ──活動しながら、こちらの様子を伺っていたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ