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定期試験演習 2

 演習エリアの半分を蔽っている黒い壁が透け始めた途端、壁の所々で小さな穴が開く。

 それを狙いすましたように【ライトング・アロー(雷光矢)】が抜けてきた。

 演習が始まる前に施した細工で、壁が消える速さにムラができ、開く瞬間の小穴を使っての見事な速攻。こちらの位置を先に確認するための、当たりを付けた狙撃でもある。

 ジュダも事前に霊気の被膜を展開していたけど、壁の所為で自軍エリアまでしか展開できてない。

 これだと相手パーティの位置は測定できないと思う。


 なるほど! 勉強になる。

 感心している僕の方にも1矢飛んでくる──[水]が予測軌跡線を描いてくれるので、【ライトング・アロー(雷光矢)】が放たれる前に着弾予測地点まで移動を始めておいた。


 もちろんワザとだ。舐めプじゃないよ?

 あと4段階も進化を残してて、[水]も攻撃に使わないとか、舐めプじゃねえか! ってツッコまれたら反論できないけど……。

 ──それは置いといて、[水]にイメージを乗せる。

 盛央の武技【流水】。神霊体を動かして真似るのは無理だけど、イメージをマーフェに伝えれば──[水]が用意したレールに移って、僕の頬をかすめないギリギリを【ライトング・アロー(雷光矢)】が通過する。


 うっは! ゾクゾクする!

 よし、ひとまず【ライトング・アロー(雷光矢)】が着弾したこの地点に、僕がいるとは思わないはずだ。着弾予測地点まで移動してギリギリでいなしたのは誤認を誘うため。


 いやー、楽しい♪ けど、すーはー、すーはー。

 冷静に冷静に、みんなの様子を調べる……うん、大丈夫そう。

 相手が予想した地点で隠れていた盛央が矢を弾き飛ばす。

 これも予定通り。ワザと相手に知らせるため、みんなも狙われそうな位置に隠れていた。


 壁がある程度消えると、今度は【マジックミサイル(誘導魔力弾)】での面制圧攻撃。盛央がいた地点を重点的に狙ってくる。

 盛央とペアのエースが、【カウンターミサイル(自律迎撃弾)】で迎撃。

 同時にジュダが【マジックミサイル(誘導魔力弾)】で面制圧攻撃を仕掛ける。

 僕は[水]の予測軌跡線と、さらに[水]が示すミサイル着弾時の爆発被害範囲を避けながら縫うように[高速飛翔]。

 数は多いけど、【ライトング・アロー(雷光矢)】に比べれば遥かに遅いぶん余裕。爆発で巻き上がる煙幕と[水]の光学迷彩で物理的に自分の姿を隠しつつ、相手の本陣近くまで移動して待機する。


 徐々に相手の攻撃範囲が絞られていく。

 相手本陣近くで待機している僕のほうには一切攻撃が来ない。

 うまい具合に接近できたけど、焦りは禁物。

 ゆっくりと神気を溜めながら、奇襲のタイミングを待つ──。


 試験演習と言っても基本的にはいつもと変わらないので、勝敗はそれほど重要視されない──だけど今回に限っては、みんなと一緒のパーティに残るために、僕の見せ場を作ることになった。


 それにしても、予測軌跡線に有効被害範囲の予兆……これが、 "超える力" か……。

 日本で遊んでたオンラインゲームを思い出しながら厨二心を満たしてると、広範囲に散らばった8ヵ所から凄まじい数の光の粒子が放出される。


 ──来た!

 相手側全体を隙間なく覆い尽くす【カウンターミサイル(自律迎撃弾)】による連続エリア攻撃だ。

 【カウンターミサイル(自律迎撃弾)】を使えるのは、エース、ジュダ、シェイルだけ。ジュダは連携の(かなめ)なので、盛央ペアと3人で固まっている。

 シェイルはジジ様を連れて遊撃。ほぼ中間の位置にいた。

 エースとシェイル以外の6ヵ所は、エースの新作 "カウンターマタ(迎撃人形)" が散らばって担当している。

 僕を除いて8ヵ所から降り注ぐ光の豪雨。


 第1波着弾と同時に、【流水】を纏いながら最短距離を[高速飛翔]する。

 2波、3波と続く光の豪雨をいなす。


 ああ、気持ちイイなこれ。この集中して陶酔する感覚。

 でもこれに飲まれると駄目。「陶酔しながら平静を保つ。それが出来てやっと半人前だ」いつもじいちゃんに叱られてたっけ。


 軽率な行動をとらないよう自分を(いさ)めると──【カウンターミサイル(自律迎撃弾)】の制圧攻撃で縫い付けられて、動きが止まっている敵ふたりを捕捉した。

 威力は弱いが数が多い。迎撃しきれずに障壁で耐えている。


 待機中に溜めた神気を[水]に渡す──。

『いくよマーフェ──【セルフィ(気高)ッシュ・ラ(き恋人)ヴァーズ(たち)】』

 ──敵の四方で一気に[水]が収束して、プラチナブルーの髪をした10歳くらいの女の子6人が出現する。


 敵のひとりは防御、もうひとりは反撃体勢をとろうとして、そのまま意識を失った。


 敵ふたりの活動停止を確認すると、ゴシックドレス姿の女の子4人が嬉しそうに僕の周りをふわふわ飛び回る。

 見た目はまんま10歳の僕だ……。

 マーフェが僕の記憶をベースに創造した自立型水分身なので、僕に似ているのは仕方ないけど、何故ゴスロリ??


 自問自答していると[水]が敵4人の接近を知らせてきた。

 みんなからの遠隔支援攻撃 "光の豪雨" を防ぎながら強行突破しているようだ。


 突・撃!

 セルフィ(気高)ッシュ・ラ(き恋人)ヴァーズ(たち)に指示した。

 やっと僕を見つけた先頭のひとりが、近距離から【マジックミサイル(誘導魔力弾)】を撃つ。

 でも単発だし、今の僕には "超える力" と【流水】がある。片手で無造作にいなした──ように見せかける(・・・・・)と、敵の顔が引きつった。

 もちろん、いなしたのは[水]、つまりマーフェだけど。

 ハッタリも大事だから! カッコイイし!


 その隙に水分身たちは敵パーティの後衛まで切り込む。

 迎え撃つ敵パーティ。4体4の混戦状態になると、敵のひとりが違和感に気付き始める。


「こいつらただの水分身だ! 攻撃力ゼロだぞ!」


 半分正解! 攻撃はできるんだけど禁止されてるんだよね。

 でも、もう遅い──セルフィ(気高)ッシュ・ラ(き恋人)ヴァーズ(たち)は、僕と契約したマーフェの一部なんだ。

 だから、[瞬送]の対象になる。


 水分身から敵の視線が外れる予兆に被せて、水分身の一体へ[瞬送]。

 そのまま水分身を手のひらに圧縮して敵の神霊体へ強制的に流し込む。

 もうひとりいくよ!

 別の水分身へ[瞬送]。敵は誰も反応できていない。

 ふたり目も無抵抗のまま[水]を霊体に流し込まれた。


 深追いは駄目。

 あらかじめ離しておいた水分身へ[瞬送]。間合いを取った。


 1秒にも満たない刹那。

 [水]はヴァルキューレ(戦乙女)の神核と、英雄候補の霊核を包み込んで "封印" する。

 流し込まれたふたりは意識を失って活動を停止した。

  "封印" したのは、水分身の違和感に気付いた英雄候補と、そのパートナー。

 たぶん、このふたりが司令塔だと思った。


 残った敵ふたりは、何が起きたか理解できてないようだ。

 それでも障壁で "光の豪雨" は防いでいる。

 自分達の足元に横たわる仲間ふたりを見て、僕の方を向く。

 僕の足元で倒れたもうふたりを見て──絶望していた。

 地べたに尻餅をつき、嗚咽(おえつ)しながら後退(あとずさ)る。


 まずい、これ……やりすぎた……。


 怯えすぎてて悪いことをしている気分になるけど──。

 容赦なく最後のふたりも "封印" する。

 ──躊躇はしない。


ファアーーン!

 そして、すぐに終戦の合図が鳴り響く。



  ◇  ◇


「勝敗は決していたはず……。何故トドメを刺した!!」


 演習が終わって拠点に戻ると、フランシスが信じられないという形相で掴みかかってきた。

 手前でエースに止められたけど……。


「だってゲームじゃないんだから。本気で戦うなら、ちゃんとトドメを刺さないと駄目でしょ」

「──ッ」

 ハッとなるフランシス。

 一応理解はしてくれたみたい。


 真面目すぎだよ。

 無抵抗の相手にトドメを刺す。

 確かにスポーツマンシップに劣る行為だけど、これ戦争だよ。

 僕らがやってるのは、ラグナロクという神々の戦争に備えた対ラグナロク模擬戦争(アールブインアーファ)に参加するための準備。それに、いくら模擬戦争だからって、神の国々の威信と資源を賭けた本気の奪い合い。手加減するほうがおかしい。

 もちろん言いたいことは解る。

 盛央とジュダに同じことを言ったら引かれたし。


 でもね、最後のふたりは戦意喪失してた。

 戦場で戦意喪失は重罪。「勝てなくても逃げて情報を持ち帰れ!」って授業で何度も言われたよ。

 もしトドメを刺さないで終わってたら、戦闘不能になったメンバーから何を言われるか。仲間が赦してくれても自己嫌悪で自分を責めすぎるかもしれない。

 なによりこれでトラウマになるなら、そもそも向いていない。

 けど、向いてないなら内勤で働くって選択肢もある。


 僕は演習で特攻するたびに何度も何度も倒されたし、みんなから励まされても、何度も何度も自分を責めた。その経験から、かけるべき情けと、かけるべきではない情けを学んだつもり。

 だから、最後のふたりが次のステップに進めるように、容赦も躊躇もせずトドメを刺した。後悔はしていない。



  ◇  ◇


 こうして残り5戦を全勝した僕らは、ポルトクラス最後の試験演習を応援しに地下修練場へ来ていた。

 今回は、ポルトクラス・パーティ成績1位、攻撃特化なロイギル氏族8名で構成されたバーニングレッド。うん、まんまだね。

 相手は……僕らの初戦で戦意喪失したふたり組を含めた8名。


「あれ? ヤコミナとコリンがいる……なんで?」

「補充要員かと。クラス演習のように8対6では行わないのでしょう」

「なるほど」

「あのふたり務まるのかしら」

「自分で立候補したらしいぞ」

「「「「「へー」」」」」


 ヤコミナとコリンは、まだ僕を怖がる。

 後日ふたりが演習に出ているのを確認してから、盛央が様子を見に行ってくれて仲良くなったみたい。

 それから盛央を経由して、「次は絶対勝つ! でもありがとう!」というシンプルなメッセージを受け取った。

 直接言いなよ!

 と悪態をつきながら、内心ホッと胸を撫でおろす。

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