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定期試験演習 1

 今日から定期試験が始まった。


 まずは座学試験、日本で言う筆記試験だね。

 日本との大きな違いは、所要時間。1科目15時間くらい。

 試験中に食事したり休憩するのも許可されている。

 カンニング? そんなのする奴いないよ。

 学園のシステムで監視されてるから速攻でバレるし、バレた時の懲罰がえげつない。


 でもね、僕はふと思った。

〔グループチャットならカンニングし放題じゃないの?>リュート〕

〔エイル<メッ!〕

〔シェイル<メッ♪〕

〔キール君<メッ♡〕

 シェイルとキール君は、それ言いたいだけだよね?


〔ギン<メー〕

 そしてギンは僕の真横で子ヤギの鳴きまねをしていた。

 真顔で子ヤギの鳴き声をだす子犬はとてもシュールです。


〔エイル<カンニングするなら見つからないようにやりなさい〕

〔いいの!?>リュート〕

〔エイル<見つからずに試験を終えれたら、ポルトにカンニング方法を報告しなさい。最高評価の特賞個人成績ポイントを貰えます〕

〔それ……本当の話ですか?>リュート〕

〔エイル<もちろんです。た・だ・し、カンニングを成功させたのは、学園創立から135億年でただひとりだけ。それも試験が簡単すぎて面白くないからカンニングしてみた、という理由でした〕

〔あー、現実的じゃないんですね>リュート〕

〔エイル<はい♪〕


 神様にも、姉さんみたいな "ネジが外れた天才" がいるんだな~。

 と昨日のグループチャットを思い出しながら、問題文を見る。

 うへぇ~。多すぎる。

 今まで習った範囲から漏れなく出題されてるので設問数が半端ない。

 この量は、休憩しながらやらないと確かに辛いわ~。


 黙々と解いていった。


…………でもこれ、ちゃんと授業聴いて復習していれば、1科目6時間くらいで終わるね。

 いわゆる "ひっかけ問題" どころか応用問題もない。

 そういうのは演習で診断するからだろう。

 神霊体も霊体も記憶は核に保存されるから、一度記憶するとまず忘れない。つまり知らないってことは、聴いてないってこと。

 なんだけど……。


「1科目6時間で終わるはずがない」

 各科目の先生方から物言いが入った。


「カンニングはしてませんよ?」

「それは確認済だ」


 ポルト先生の話では、座学試験は10時間から12時間を目安に作成されていて、6時間で終わるのは異常だそうだ。

 すぐに採点された結果、正答率98パーセント!

 おぉ、イイね!


「6時間で98%パーセント!? フェミ様に匹敵するぞ」

「フェミ様?」

 って巫女さん?

「調査が必要だな」

「ああ」


 集中してるんだろうな。僕のつぶやきは見事にスルーされた。



  ◇  ◇


 座学試験の調査中に、実技試験を受ける。

 日本で言うと身体測定だ! 実技科目ごとに測定して終わり。

 基礎データに使われるけど、基礎はあくまで基礎。

 足りない部分はパーティメンバーが補完すればよいという方針。

 本当に最低限を満たしていれば大丈夫みたい。

 なので実技試験で不合格になった場合は、英雄候補の契約(仮契約)解除もあり得る。そんなレベル。


 実技試験をクリアしたころに、座学試験での調査結果が出た。

 異常なし、問題なし、受験済科目は合格判定になっている。

 けど、なんであんな大騒ぎしたんだろう? と聞いてみた。


〔エイル<記憶は神核や霊核に保存されるので、記憶力に関してはヴァルキューレ(戦乙女)も英雄候補も大差ありません。ですが、記憶の整理や検索、読み出しには大きな個人差があります〕

〔なんとなく解りました>リュート〕

〔エイル<はい。リュート君の神核の情報処理能力は極めて高いです〕

〔アイヤー>リュート〕

〔シェイル<何で中国語!?〕

〔なんとなく>リュート〕


〔ギン<アイヤー〕

〔キール君<アイヤー〕

〔エイル<アイヤー〕

〔シェイル<これ、どうするのかしら?〕

〔ゴメンナサイ>リュート〕

〔ギン<アイヤー〕


〔エイル<ところでキール君。言い訳はありますか?〕

〔キール君<アイヤー〕

〔エイル:デフォルメされたお母さまの半眼見下し顔スタンプ〕

〔キール君<だって仕方ないじゃないか。あの時は必死だったから、リュートを消滅させないように全力出しちった♡〕

〔キール君:デフォルメされたキール君のおふざけ顔スタンプ・ハートマーク付〕

〔ギン<アイヤー〕


 エインヘリヤル(英雄の依り代)は、英雄契約(本契約)で生み出された "神核" をベースに "神格" を構築、物質化する状態まで神気を纏わせた特別な神霊体(しんれいたい)らしい。

  "神核" と "神格" を作ってエインヘリヤル(英雄の依り代)を英雄に与えるのは英霊石(キール君)の仕事なんだけど、本来なら英雄契約(本契約)で生み出される "初めての神核" は、必要十分な性能でしかない。

 いきなり強大な力を与えても、暴走するだけだからね。


 でも僕の場合は、強制的に疑似エインヘリヤル(仮初めの依り代)を作った。

 いくら仮初めでもエインヘリヤル(英雄の依り代)なので、 "神格" は必要になる。

 キール君とシェイルが僕の霊気を神気に変換したあと、キール君が作った "神格" を僕の "霊核" と融合させて、3人の神気をシェイルが物質化可能な質量まで[増強]、強制的に "霊核" を "神核" に "格上げ" させて生まれたのが疑似エインヘリヤル(仮初めの依り代)

 通例なら、しっかりと準備して、英雄契約(本契約)専用の神域で、専門の神々のサポートを受けながら、特定の儀式を通して与えられる半神の身体を、英霊石とヴァルキューレ(戦乙女)だけで作ってしまった。


 キール君もシェイルも相当無理してくれたのが解る。

 無理を通すために "初めての神核は必要十分な性能であること" という規約を完璧無視して、最大限高性能な "神格" と融合させた結果がコレ。

 どうやら "上位精霊神マーフェ" が契約に応じたのも、高性能すぎる神格が原因らしい。


 ここまではいい……やっちゃったものは仕方ない。


〔エイル<というわけです。ただこの時点で考えられる幾つかの問題点が浮かびました〕

 嫌な予感しかしない。

〔キール君<何が問題なのかな?〕

〔エイル<まずはシェイル。もうひとつの神格の使い道を変えるつもりはないのですね?〕

〔シェイル<お母さまがどうしてもと仰られるのでしたら変えますけど……出来ればふたつ目もリュートにあげたいです〕

〔なにそれ?>リュート〕


〔エイル<詳しい話は後でしましょう。でもそうなると、リュート君は今後行われる英雄契約(本契約)でもうひとつ。マーフェを含めると計3つですか〕

〔ギン<ボクのもー〕

〔エイル<そう、ですね。ギンも繋がっているのでした。それで4つ。幾らなんでもこれは……〕

 珍しく言い淀んだ。


〔4つですか?>リュート〕

〔キール君<今後リュートが持つ可能性がある神格の数だよ。5柱の新人英雄──確かに問題かも──やりすぎた♪〕

〔どういうこと?>リュート〕

〔エイル<お待ちなさい。5柱?〕

〔キール君<あ、間違えた! 4柱!〕

 もうねキール君、文字なのに何か隠してるのバレバレだよ。


〔エイル:デフォルメされたお母さまの半眼見下し顔スタンプ・怒りマーク付〕

〔キール君<──実は、しばらくクロスオーバー(神憑り)できないのが心配で──ボクの分け身の神格と繋げちった♡〕

〔シェイル<ヴァルハラ(英雄達の寝宮)でのおまじないってそういうこと!? でも英霊石の分け身って何かしら?〕

〔キール君<ひ・み・つ♪〕

〔エイル<席を外します〕

 お母さまがグループチャットから退出された。


〔キール君<あー、怒られる~〕

〔ギン<アイヤー〕

〔シェイル<アイヤー〕

〔キール君<アイヤー〕

 反省してないね?


〔柱って神格の数だよね? 多いと問題なの?>リュート〕

〔キール君<めっちゃ目立つ〕

〔シェイル<余計な敵が増えるかしら。嫉妬されるのよ〕

〔キール君<あと4段階進化する〕

 いや、ちょっと待って……。

〔どこのラスボスだよ!>リュート〕

〔キール君<♪〕


 そう、僕は──魔改造されていた──。



  ◇  ◇


 4段階進化というのがちょっと怖いけど、弱いよりはイイはず。

 自分を無理やり納得させて──。


 とうとう定期試験演習の日を迎える。


 お母さまはあれ以来見ない。グループチャットにも来ない。

 またまた嫌な予感しかしないけど、今は試験に集中しよう。


「初めての相手はやはり緊張しますわっ」

「いつも通りクラス内でやるかと思ってたもんな」

「ええ」


 試験演習の相手は、別クラスのパーティ。

 ポルトクラスと進捗が近いクラスは6つあって、それぞれのクラスから無作為に選ばれた1パーティと6クラス分演習する。

 無作為なので運も絡む。相性の良いパーティばかりと当たったり、その逆もあるけど、 "運も実力のうち" という言葉は神様の世界でも存在するようだ。


 僕らがポルトクラスの初戦なので、同級生たちも観戦に来てた。

 フランシスが笑顔で一生懸命に手を振ってる……出会ったころの面影などない。

 僕も笑顔で手を振り返すと。


「集中しましょう!」

 エースから注意された。

「はーい!」

 いつものように返事して、壁へと[高速飛翔]する。


 地下修練場を輪切りに壁ができていた。

 中央付近から黒と白に別れていて、それぞれに門がある。

 僕らは、黒い壁の門から中に入った。


「開始位置が判らないようになっているのよ」

「これなら潜伏したほうがよさそう?」

「ですね、俺のタリスマンは持っていますか?」

「うん!」

「なら後はリュートに任せます♪」

「はーい!」


 みんなと別れて単独行動だ。

 エースから預かったタリスマンには【コンシール(隠匿)】の魔法がかけてあって、所持していると察知されにくくなる。

 でも、目視やジュダのような索敵特化能力からは隠れられない。


 このエリアは半分が森。ツイてる。

 森の中へ身を潜めて気配を断ち切ると同時に、地下修練場全体の "[水]に属するモノ" と意識を繋げた。

 演習で使う度に思う。駄目でしょこれ……。

 だって[水]の干渉で、相手の位置も行動も会話も、下手したら思考すら筒抜けですが何か?

 さすがに勝負にならないので、[水]から得た情報は他のメンバーには伝えないことになってる。

 勢い余って伝えた時には、ジュダと盛央から本気で説教された。


 あ、みんな準備できたみたい。[水]がそう伝えてくる。

(んっ、こちら準備完了なのよ)

(解った! 宣言するね)


 もう聞きなれた金管楽器の音が地下修練場に木霊した。

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