クラス演習 2
ファアーーン!
開戦の合図と共に、無数の【マジックミサイル】が降り注ぐ。
「来ますわっ」
ジュダは攻撃に備えて、数キロメートル先まで幾層にも霊気の被膜を展開。
被膜を通して得られる情報から質、威力、弾道を予測して全員にリンクした。
「迎撃する」
リンクされた情報を基に、必要最小限の威力で同時に複数の【カウンターミサイル】を放つ。
【カウンターミサイル】は100メートル以上先の中空で正確に目標の弾頭を撃ち抜き、全ての【マジックミサイル】を相殺した。
「エース様」
先ほどより倍近い【マジックミサイル】の攻撃予測がジュダから送られてくる。
「問題ない」
同じように迎撃する──けれど、今度は3キロ以上も先で全弾無力化した。
「「「「「……」」」」」
迎撃したエースも、情報処理担当のジュダも含め、唖然とする。
「出来すぎじゃ」
ジジ様が盛央の頭の上でぴょんぴょん跳ねる。
「ふたりとも凄い!」
迎撃態勢をとりながら照れていた。
「でも、練習にならないから手を抜くのよ!」
「手を抜いた方が練習にならなくてよっ」
相談しながらも3波目を、500メートル先で相殺する。
エースが意識して手前で迎撃したようだ。
「だったら、強い攻撃だけ俺にまわせる?」
「そうですわね……最初から強い攻撃でよろしくて?」
「あぁ、大丈夫そうだ」
……
4波目、弱い威力の【マジックミサイル】は、300メートル手前で迎撃。残った強めの2発を盛央が流れるような動きで捌いていなす。
「しゅごい……」
思わず噛んじゃった。
体捌きで霊気の流れを作りながら、タイミングを合わせて流れに乗せ、最小の動作で対象を反らす武技【流水】。
地球でなら間違いなく奥義と言える技術を、こともなげに使う盛央。これで実力の半分も出てないなんて……さすが勇者。
油断していると──。
ザクッ
──電気を帯びた光の矢を、盛央が手のひらで受け止める。
「モリオっ」
貫通しないように、霊気を圧縮して受けたみたい。
【マジックミサイル】の速度に慣れてきたところで、何万倍も早い単体攻撃魔法の【ライトング・アロー】でジュダを狙撃してきた。
ピコン
手の傷口付近にポップアップテキストが出る。
〔ヒット-1/ガード+3〕
「──ッ」
ネトゲか! ……あぶな、口に出るとこだった。
「くっそ、油断した」
血は出ないけど、消せるとはいえ痛みはある。
「【リカバリー】」
すぐにシェイルが回復する。
「すまん」
「次集中するかしら!」
「おうよ!」
……
…………少しづつ盛央が捌く量を増やしながら、1時間ほど攻撃を受け続けた。防戦一方に見えるけど、まずは防御に徹すると決めていたので問題ない。
【ライトング・アロー】の急襲にも慣れていた。
最初は "弾く" しか出来なかったのに、もう "いなし" ている。
ジュダとジジ様のサポート付きだけど、それでも勇者すげー!
「そろそろかしら?」
作務衣パターン1へスイッチするシェイル。
「身体も温まってきた。拠点防衛は任せろ」
「任せるがよい!」
盛央とジジ様の役目は、エースとジュダの護衛。
「迎撃と援護射撃は俺に──」
左手で右胸を2回叩きウィンクするエース。
「う、うん、頼りにしてる」
ちょっと引きつる僕。
綺麗に立てた右手の人差し指を前屈みながら僕に向けるジュダ。
「リュートに送るのは弾道予測ではなく、行動予測ですから気を付けてくださいましっ」
幼稚園の先生が園児を叱っている感じだけど、なんかエロい。
「はーい!」
内心を覚られないように元気良く返す。
前半は守備の練習がメイン。30分経過したあたりから、威力の弱い弾を弾いて練習させてもらってたけど……正直、微妙。
そして後半は攻撃の練習に移る。
今回のクラス演習は、お互い開けた場所が開始拠点で、周囲にも防壁としてまともに機能しそうな建物はない。廃屋や森はある。
でも、最初から潜伏しているならともかく、こんなミサイルの撃ち合いでは今更隠れたところで、デメリットしかない。
状況から見てたぶん、計略を使った戦闘より純粋な撃ち合いでの戦闘力を測定したいんだと思う。
なので相手の攻撃を合図に、真正面から[高速飛翔]で特攻!!
シェイルと敵拠点へ向かって直線移動する。
今の僕には、これしかないのだ……。
[高速飛翔]の最高速度もシェイルのほうが早い。
だから背中を押して加速してもらう。
カッコ悪いけど、遊びじゃないから我慢。
僕らに衝撃波が及ばない遥か前方で迎撃された大量の【マジックミサイル】が、大爆発。
爆風が砂埃を舞い上げ自然の煙幕に変わる。
ほかのパーティにも索敵担当はいるけど、あまり有能ではないらしい。ただの煙幕で充分な時間稼ぎになった。
煙幕を抜けると同時に次々と襲い掛かる【マジックミサイル】。
僕に当りそうなミサイルだけ遥か前方で、他のは僕の横を通過して、さっき大爆発を起こした地点でことごとく迎撃された。
これなら、遥か前方のミサイルは僕かシェイルが対応しているように見えるだろう。
シェイルの忠告「手の内を全て見せる必要は無いのよ?」に従って、誤認させるような戦闘スタイルをみんなで考えたのだ。
ミサイル以外の【ライトング・アロー】や遠隔攻撃は、ジュダの行動予測に従って対処する。
対銃器の模擬戦で、ゴム弾を避けまくる姉さんはいつも「来るのが判れば、避けるのはそんなに難しくない」と言っていた。
当時は、全く理解できなかったけど、なるほど、こういうことか……簡単ではない……でも、そんなに難しくもない。
以前のクロスオーバーで完全に繋がったパスを利用し行動意志を連結したシェイルは、一切の淀みなく追従しながら、僕が読み誤って受けるかすり傷をすぐに回復してくれる。
……
想定より早く相手の拠点に到着──そのままの勢いで、フランシスに突撃!!
「思ったよりやるじゃないか」
初撃を簡単に止められてしまった。
「それはどうも」
悔しいけど態度には出さない。
すぐ後方へ飛びのく、と同時にもと居た場所に剣が刺さる。
剣で攻撃してきた2人を除く3人が至近距離から被爆覚悟の魔法攻撃、フランシスが障壁で味方への被害を抑えるつもりらしい。
返り討ちは想定しての特攻だけど、まさかフレンドリーファイア覚悟で潰しにくるなんて思わなかった。
「思ったより根性あるじゃないか」
苦し紛れにフランシスの言葉を真似て嫌味を送る。
「ふっ、君もな」
キザに笑うふたりの間に割り込んで──。
「させないかしら!」
──僕を護るよう両手両足を広げ、敵に背中を向けるシェイル。
「なっ!? ヒーラーが盾になってどうすんのさ!」
そんな憂いをよそに、中断される攻撃。
「お、お、お前えええええーーーーーっ!!」
「「「「「卑怯すぎる!!」」」」」
代わりに浴びせられる罵声。
「にひひひひ!! さぁ、攻撃出来るものならするといいのよ!」
「お母さまの神紋に、攻撃出来るわけがないだろう!!」
あー、なるほど、シェイルの作務衣の背中には、お母さまの神紋刺繍があったね……そして、ウェデル氏族のフランシスたちは、敬愛するお母さまの神紋に攻撃出来ないと……。
だから、わざわざパターン1に着替えたのか……台無しだよ……色々、台無しだよシェイルさん!!
そこにエースとジュダの面制圧攻撃が着弾する……。
ファアーーン!
「これは何の合図?」
まだ2時間経っていないはずだけど。
〈プラチナチーム続行不能、第3セットは終了だ〉
拡声器からポルト先生の声が聞こえた。
「ざまみろフランシス! にひひひひ!」
邪悪な高笑いで煽るシェイル。
グダグダだ……。
……
セット終了後は、クラスミーティングだけど……。
「「「「「ないわー」」」」」
クラス全員の息が揃った。
たぶんさっきのを見て、ずっとみんなで「ないわー」と言い続けてたんだろう。
「んっ、もし実戦ならクランに大迷惑をかけているところなのよ? 致命的な弱点を教えてあげたのだから感謝してほしいくらいね」
シェイルさん、言いかた……。
「シェイルの言い分は間違っていない……が、クラス演習で実践する奴は久しぶりに見た」
え? ほかにもいるんだ……。
「状況によっては神紋への攻撃も許容される。勉強しておけ」
ポルト先生の擁護で、ようやくシェイルへの非難が収まる。
「……では、クラスミーティングに移ろう」
……
各パーティから意見が出される──。
「エイスタイン殿下の迎撃は、芸術の域まで達している」
「モリオ君の武技もだ。素晴らしい!」
「ユーディット様を護って【ライトング・アロー】を受け止めたところは素敵でした!」
「ユーディット様の索敵支援も悪くなかった」
「ジジ様カワイイ!」
次は否定的な意見。
「前半防衛主体なのは判ったけど、リュートとシェイルは仕事しなさすぎ」
「特攻する勇気と回避能力は認める……けど、馬鹿正直に突撃するのはいただけない」
「突撃した後、出待ちで傍観していたシェイルは頭おかしい」
「回復全部、無詠唱の【リカバリー】は頭おかしい」
「プラチナが神紋を無視して攻撃した場合、ふたりとも戦闘不能になっていた。頭おかしい」
「演習終った後に "ざまみろ" とか言ってた。頭おかしい」
「笑い声が気持ち悪い。頭おかしい」
「笑い顔も気持ち悪い。頭おかしい」
──羅列するとこんな感じだった。
「はうー♡」
僕の膝の上でご機嫌のシェイル。
途中で爆発しそうだったので、手を握ったが収まらない。
仕方ないので、強引に膝枕した。
それからは周囲の声など聞こえないらしい。
予定通りジュダとジジ様の能力は目立っていない。
僕の評価は、まぁ予想通りなので気にしないけど……ウェデル王国メインパーティとしてはどうなんだこれ……。
気になって〔グループチャット〕を開くと──。
〔エイル:デフォルメされたお母さまの爆笑スタンプ・サムズアップした親指付〕
──ですよねー。




