クラス演習 1
初回のクラス演習が始まるまで、15日ほど余裕があった。
まずは形から入るということで。
他のパーティの真似をして、統一感のある服装を選ぶ。
候補として、ジャージ、作務衣、学生服&セーラ服が挙がった。
学生服&セーラ服を推薦したシェイルは、お母さまに頼んで、わざわざデザインパターンを準備してもらうほどの熱の入れようだったが、実戦向きではないので却下された。
それでも落ち込むことなく、頻繁に着替えて楽しんでいたので、デザインパターンを手に入れるための口実だったっぽい。
相変わらず抜け目ない。
と言いつつ、僕も便乗して作務衣のデザインパターンを作ってもらった。
盛央とふたりで着ると日本人コンビみたいで楽しい。
それに、じいちゃんと母さんが愛用してるのを見て、いずれは僕もって思ってたから、すごく嬉しい。
エースはジャージ、ジュダはセーラー服がお気に入りのようだ。
僕が余りにも嬉しそうに着るので、制服は作務衣に決まった。
「デザインは、わたしに任せるのよ!」
お母さまと一緒に気合を入れていたけど、そのままがいい……。
次に、パーティカラー。申請制で重複不可なので早い者勝ち。
当然、人気の色はすぐに取られるので、みんな慌てた。
けれど、お母さまから、ウェデル王国のナショナル・メインカラー "プラチナブルー" を頂いた。
ナショナルカラーの使用権は国から与えられるものなので、そもそも選べないらしい。
ちなみに、ウェデル王国のナショナル・サブカラーは、 "プラチナ" なので白銀色のパーティはウェデル所属ということになる。
国の威信を背負っているようで断りたかったけど、お母さまの無言の笑顔には誰も逆らえない。
後は、それぞれ出来ることを確認して──。
◇◇◇◇◇
──クラス演習当日を迎える。
中等部のクラス演習は、パーティ戦主体のポイント制。
攻撃がヒットすれば1点、有効打なら3点、決定打なら5点。
有効打の防御・回避で1点、決定打の防御・回避で3点。
攻撃と防御のポイントは直接攻撃、近距離攻撃、中距離攻撃など、細分化された項目ごとに、学園のシステムが自動採点する。
支援や回復、連携のポイントは別枠。
判断が複雑多岐にわたるので明確な採点基準はなく、担当官の主観によるところが大きい。
弱い攻撃でも綺麗にヒットすれば有効打と判断される。
クラス演習は単純に勝利すればいいという授業ではない。
多くの技術を学び、実戦して、苦手な戦法戦術でも練習できるようにと、考えられたのが現在のポイント制だ。
そんな感じで、ポルト先生の説明が終わった──。
「では早速始める。 "コーラル" がアルファ、 "チェリー" がオメガ。所定の位置について準備が整ったら〔タスク一覧〕から宣言するように。行動開始!」
号令に従って、ふたつのパーティが移動を開始したけど……。
「パーティ名って付けてたっけ?」
「恐らく、面倒だからパーティカラーで指示している……気がする」
パーティカラーってことは、どっちも "ピンク" を省略してる?
制服の色がピンク系だから間違いない。
適当…‥適当すぎるよポルト先生!
それにしても、チェリーピンクがナショナルカラーの国。
住み辛らそうだ。
エースの髪もピンクだし、エースの国だったりして…‥。
そういえば、エースの国の名前、聞いたことあるから確かめようと思ってたけど、いつも忘れる。
でも今は演習に集中しないと。
戦闘に参加しないパーティは、高台の拠点に障壁を張って見学。
障壁の内側14個所にスクリーンが浮かび上がった。
これで両パーティの個人映像が確認できる。
音声も流れ始めた。騒音がカットされてる……素晴らしい。
ファアーーン!
金管楽器を鳴らしたような音が地下修練場の一角で響き渡る。
と同時に、遠隔攻撃の撃ち合いが始まった。
「うへー」
まさに現代戦射撃ゲームを仮想現実で観戦してる気分。
「んっ、普通はこんな感じね」
ヴァルキューレ組の解説を聞きながら、みんなで分析と意見交換。大事な内容は〔メモ〕る。
……
…………1セットの所要時間は2時間。
2時間戦闘して、1時間クラスミーティング。
〔メモ〕った情報を交換しあって全員で検討する。
さすが英雄候補になるだけあって、誰も彼も戦闘に関しては一切遠慮がない。結構ボロカスに酷評される。
やだ、怖い。覚悟しといたほうがよさそう。
第2セットの戦闘も終了して、クラスミーティングが終わったら、12時間休憩。地下修練場にはひと通りの施設があるので、思い思いに過ごした。
……
…………休暇が終わって、第3セット。
とうとう僕らの出番がやってきた。
「再開する。 "プラチナブルー" がアルファ、 "プラチナ" がオメガ。所定の位置について準備が整ったら〔タスク一覧〕から宣言するように。行動開始!」
え? "プラチナ" って……まさか。
困惑していると、プラチナパーティのメンバーが近づいてきた。
「我々は、お前たちを認めない!」
ビシッとシェイルを指差す。
「ロイギルの忌み子にトゥーリの人形王子だと。そんな呪われたパーティが "プラチナブルー" ??」
指差されたまま、軽蔑の眼差しを向けられた。
「あー、シェイル。ウェデル王国にもこんなのがいるんだ」
ちょっと意外。
「夢見るお子様はどこにでもいるかしら」
「残念なシェイルよ」
こっちは無視か……。
「お前がお母さまのお気に入りなのは知っている。だが、栄えあるウェデルのナショナルカラーを下賜されるなんて……認めない!」
とりあえず、こいつが馬鹿なのは判った。
認めないって……。
「お母さまの決定を否定するの? それお母さまの前で言える?」
「うぐっ! 人間種風情が偉大なるヴァルキュリア・エイル母様をお母さま呼びとは、我自ら神罰を与えてくれる!」
指先を僕の方に向けた。
「んっ、フランシス。それ以上は割とまじでやばいのよ」
僕の前に割り込んで制する。
「この超絶美少女は──」
「──誰が、超絶──」
口を手のひらで塞がれた。
ツッコミを先読みするとは……確信犯め。
「お母さま呼びをエイル母様から強制されているのよ。つまりお母さまの超絶お気に入り。 "プラチナブルー" はわたしじゃなくて、リュートに与えられてる……その意味が理解できるかしら?」
指差したままだった腕が下りて、脱力する。
「馬鹿……な」
「だよねー」
僕もそう思う。
「んっ、話は終わり。みんな、戦闘準備なのよ!」
「こういうの好きだね……」
「「ハハハ」」
「わたくしは良いと思いますわっ」
「わしも楽しみじゃ!」
「うん、楽しみー」
シェイルが用意してくれた専用のデザインパターンを適用する。
各々の服が解け、再構成されると──。
薄水色の作務衣集団が現れた。
所々白銀のラインが入っていて、形状を固定するなど戦闘用にアレンジされている。
──カッコイイけど恥ずかしいな。
「「「「「おぉ……」」」」」
感嘆が漏れる。
「それぞれに合わせて、背中に刺繍を施してあるわ」
背中の刺繍が各スクリーンに映し出された。
「「「「「おぉ!」」」」」
うん、お母さまの指示だ、絶対。
僕のはデフォルメされたギン。
白銀と黒、青系で描かれ、刺繍が輝いて浮かぶ。
「イイね!」
「えへへー」
ジュダには、ジジ様。
「男前じゃ!」
「素敵ですわっ」
盛央には、テディなベア。
「見た目か?、見た目なのか……??」
エースは……。
「黒い髪に黒い瞳の人型……SDリュート!?」
違う、それは、たぶん市松人形……おいコラ。
(……)
ジト目でシェイルを非難する。
(喜んでるから、いいのよ?)
反省する気などない。
シェイルのは見たことがある。確か、お母さまの神紋。
無断で使用すると神罰では済まされないはず。
「シェイルのは許可取ってる?」
「強制なのよ。わたしは好きなキャラのが欲しかった……」
遠い目をした。
ジジ様は額に青白銀の六芒星アクセサリー。
感知能力の邪魔にならないよう設計されている。
ギンは青白銀の蝶ネクタイ。
「おそろいー♪」
お揃い?
「まぁっ、刺繍のギン様も蝶ネクタイですわ♪」
スクリーンで背中の刺繍を確認した。
「おぉ、お揃い!」
「おそろいー!」
ブンブンと尻尾を振っている様が、あまりにも可愛い。
しゃがんで、わしゃわしゃしていると──。
「ガキ共、いい加減位置につけ」
──ポルト先生に注意された。
フランシスたちは、お母さまの神紋刺繍を見て、僕らの言葉を信じたみたい。横柄な態度で絡んでこなくなったけど、今度は、ひしひしと闘気を中ててくる。やる気充分のようだ。
僕らに勝つことで、お母さまにアピールするつもりだろう。
クラス演習は勝敗が全てではない。
でも、負けていい前提で戦うのは……違う気がする。
覚悟を決めて、開始位置へ向かった。
「いってらー」
拠点で留守番のギンに手を振りながら。
……
開始位置は遮蔽物のない荒野で、お互い丸見えの状態から開戦。
初回演習だし、今後の判断基準として単純戦闘を見るようだ。
「姐御」
「なにかしら?」
「この作務衣。気に入ったが、目立ちすぎて恰好の的ではないか?」
「パターン2へスイッチするかしら」
ふふふんっと変な鼻息を出しながら腰に両手を当てると、刺繍や白銀のラインが消えた。
「囮の時は、目立つほうもアリだな」
「そうですわね」
各自パターン2へスイッチする。
よし、準備完了!
「参戦宣言してもいい?」
みんな、無言で頷く。




