女性型×男性型? 1
真っ青なまま固まって反応すらできないシェイル。
見かねて、僕が応じることにした。
「んと……どちらさまでしょうか?」
「おや、淑女たるもの、ご自分から名乗るのが礼儀では?」
やばい……テンプレ会話……楽しい!
地球ではまずありえない返答に、厨二心がくすぐられた。
調子に乗って淑女を演じてみる──ジャージ姿で。
「失礼しました。僕はリュート・ウェデリア。シェイルの英雄候補でございます」
どこかで見たカーテシーをイメージする。
右手を胸に当て、左足を一歩下げた後、軽くお辞儀。
「ウェデル略式敬礼ではありませんのね」
なにそれ!? そんなの習ってないよ!
「……英雄候補なら仕方ありませんか──」
貫頭衣の端をちょこっと摘まんで返礼。
「──わたくしは、ユーディット……シェイルとは初等部の同期になりますの」
お嬢様キャラ、きた!
薄翠の綺麗なストレートロングヘアに、毛皮の帽子。
純白の貫頭衣の上から、たんぽぽ色の羽衣を纏う。
顔の印象は少しきつめだけど、雰囲気はまさにお嬢様。
僕の中でお嬢様と言えば、冬子ばあちゃんだけだったので、否応なしにテンションが上がる。
「よろしくお願いしますユーディット様!」
「こちらこそですわっ。それで、何やらお困りのようすでしたけれど──」
お嬢様のお言葉を遮る。
「──ウエハラさん! パ、パーティはどこに決まりましたか?」
エイスタインさん……。
藤井さんも傍まで来ていた。
「あ、えーっと、それがですね……まだ決まっていないんです」
「それなら、俺たちと組みませんか?♪」
凄い嬉しそう。
こちらとしてもありがたい。
「助かります! 藤井さんもよろしく♪」
「おうよ♪」
「……ちょっとお待ちなさい。わたくしを差し置いて話を進めないでくださいましっ」
あ、お嬢様を放置してた。
「おまえは誰だ?」
久しぶりにエイスタインさんが上から口調に。
「貴方も紳士なら、ご自分から名乗る──」
「──おまえは、貴族だろう? 貴族なら相手を確認してから話せ」
再び会話をぶった切る。容赦などない。
しかし、お嬢様は、エイスタインさんを見て態度を急変した。
「失礼いたしましたっ。わたくしは、ユーディット……ブラギ=ス・ロイギア。ご無礼をお赦しくださいませ」
ゆったりと丁寧にカーテシーする。
「まあいい。俺は、エイスタイン・トゥーリアだ。ブラギ……爆炎の一族か」
「はい……」
「爆炎の一族!?」
「おや? ウエハラさん、ご存知で?」
「あ、いえ、響きがかっこいいなと思いまして……」
「そ、そうですか……」
僕の返事で気が抜けたようだ。
あれ? トゥーリア? どこかで聞いたことがある。
爆炎の一族のインパクトが強すぎて、思い出せないでいると。
「は!? 何かしら、このカオスな状況は……」
シェイルが再起動した。
「シェイル。お久しぶりですわっ」
「シェイル!? げっ、ひ、久しぶりだな姐御」
「姐御?」
「んっ、何でこうなったか、理解不能なのよ」
お互い会話が全く噛み合っていない。
「みんな落ち着いて! シェイル! エイスタインさんと英雄候補の藤井さんが入ってくれるって。あと何人必要?」
「2人……」
と言いつつ、嫌そうにお嬢様のほうを向く。
よし、ここは、当たって砕けろだ!
「ユーディット様、よろしければ僕らのパーティに入ってくださいましっ」
「なんで様付なのよ! しかもモノマネ……」
「仕方がありませんわねっ。よろしくてよ」
左手の甲で軽く唇の右端を隠し、ホホホと笑う。
おぉう、生ホホホ笑い!
「ありがとうございますっ。あと1人だね」
「いえ、ウエハラさん、ユーディット嬢のパートナー候補がいますから、パーティメンバー数はクリアしています」
「あ、そっか、よかったぁ~、みんなよろしく♪」
思い思いの表情をしながら頷いてくれた。
6人パーティ揃った!
他のパーティも、6人が多い。
「なんとかなったね!」
心から安心して、シェイルの頭を撫でる。
「リ゛ュート゛ぉ~!」
鼻声であまえながら、右斜め前から首に抱きついてきた。
そのまま体重を乗せてぶら下がるけど、全く重くない。
「姐御がデレた……」
「デレデレですー、らびゅらびゅですー。んー」
ぶら下がりながら、キスしてきたので。
「ギンガード!」
防御技をコール。
定位置にいたギンがクルっと半転すると。
ぼふん
「もふもふなのよー」
ギンのお尻に顔が埋まる。
神獣になったギンは、トイレしないので衛生面は問題ない。
──けど、酷い絵面だ。
「「「「「……」」」」」
みんなも含め周囲の視線が痛い。
「よし、余りはいないな。では、全員着席」
ポルト先生の号令で "導入" の授業が始まった──。
……
…………
「……というわけだ。次の授業は、パーティメンバー全員揃ってのクラス演習になる。欠席がでたら参加できないから、気を付けろ。それと、パーティ構成表を書いて回収箱へ入れておけ。以上」
──ポルト先生らしい合理的で無駄が一切ない授業だった。
そして用事が済むと、すぐさま退出するのも、いつもと同じ。
同級生のほとんどが居残りしてパーティ構成表を書くみたい。
一気にクラスルームが騒がしくなる。
僕たちもパーティ構成表を書くことにした。
ついでに、シェイルに状況説明する。
……
エイスタインさんは、準備期間の3日間ずっと僕のパートナーが誰か調べていたらしい。
パーティ募集掲示板やパーティメンバー一覧を確認したり。
身辺調査で、僕とパートナーの情報収集したり。
「はぁ~、 "実はウエハラさんと同じパーティでした!" と、サプライズを演出したかったのですが……こちらがサプライズされることになるとは、姐御の二つ名は飾りではなかったか」
小バカにしているようだ。
「二つ名?」
「 "残念なヴァルキューレ" 、シェイルにはお似合いですの」
お母さまもそんなこと言ってた。
「うっさいわ! "ピグコン" に "ケモノボッチ" が!」
口調が変わってますよ、シェイルさん。
「もー、話が進まないから終わり! で、構成って、ロールを決めればいいの?」
「仰る通りです。ただ、役割は複数記入できますが、正確に書かないと、構成表をもとに演習が組まれるので、成績に直結します」
机に頬杖をついたまま話す。
座ったまま話す時は、その姿勢が楽なのかな?
「なるほど……っと、その前に僕からひとつ提案してもいい?」
「もちろんなのよ。このパーティのリーダーはリュートかしら」
「え? 勝手に決めたらダメだよ」
「「異議なし!」」
賛同する藤井さんとエイスタインさん。
「シェイルがよいのなら、わたくしも問題ありませんわ」
お嬢様も賛同する。
「いや、でもな。エイスタ──」
「「「却下」」」
「おい!」
リーダーをやる気がないとはいえ、被せながら否定されて、思わずツッコむエイスタインさん。
これは……覆せないっぽい。
ので、諦めた。
「んー、じゃあ未熟だけど、よろしくお願いします!」
ニッポン式最敬礼する。
「それは何ですの?」
「僕がもと居た国の最敬礼です!」
「ふむふむ」
興味深そうに見られた。
「それで、提案は何かしら?」
「あ、えっとね、パーティメンバーになったし、敬称は付けないでリュートって呼んでください!」
「おうよ、なら俺も盛央でいいぞ、リュート」
「うん、よろしく盛央!」
「わたしも、シェイルでいいのよ」
ふふふんっと変な鼻息を出しながら腕を組む。
(お胸が腕に乗ってますよ。シェイルさん)
(乗せているのよ~)
まったくもう。
呆れていると──。
「なら、俺もエースで構わない。姐御は姐御だから姐御って呼ぶ」
──そこは譲れないのね。
「わかった。よろしくエース!」
「よ、よろしく、リリリュート!」
それもう別人。
「ニヤニヤ」
邪悪な笑みを浮かべながら、口に出すシェイル。
「仕方ありませんわっ。わたくしのことは、ジュダとお呼びくださいまし。よろしくお願いしますね。エース様、モリオ、リュート」
「よろしくジュダ!」
「はぅぁっ」
ジュダがいきなり艶のある声を上げた。
何ごとだろう。
「大丈夫ですか?」
「や、やりますわねっリュート。一瞬とはいえ、このわたくしが動物以外に心を奪われるとは……」
「いや、意味が解らないよジュダ……」
「ほう、リリュートの魅力を理解するとは、見直したぞジュダ」
「だから、意味が解らないって……」
リリュートって誰さ。
「とりあえず、話を進めようぜ。役割って何を決めるんだ?」
盛央が、パーティ構成表をのぞき込む。
「大別すると、攻撃、防御、支援になる。俺は防御特化・支援補助。モリオは防御特化・攻撃補助かな。姐御とジュダは?」
「わたしは、支援特化・支援補助。リュートは……今のところ攻撃特化・攻撃補助かしら」
「攻撃特化・攻撃補助って脳筋っぽいね……」
「ガハハハ! でもわかる!」
解られてしまった。
「わたくしは、支援特化・防御補助。ジジ様も、支援特化・防御補助ですわ」
「爺様?」
「誰がジジイじゃ!」
甲高い声で怒られた。
ジュダの声じゃない。
「紹介しますわっ。わたくしのパートナー候補、ジジ様ですわ」
被っていた毛皮の帽子を脱いで、机の上に置くと──。
帽子から霊気が漏れだし、擬態が解ける。
──小さな緋色のまん丸い目が浮かび上がり、ぶるぶるっと震えると、毛皮がぼふんとひと回り大きくなった。
これは……アニメで見たことがある、何だっけ? 確か……。
「……アンゴラウサギ!」
「カーバンクルじゃ! 失礼な小童め」
「幻獣カーバンクル!? あれ? カーバンクルってもっとこう、スマートなリスみたいな感じじゃあ……」
「リュート、それは、あくまで最終で幻想な世界での設定なのよ」
「それもそうか、ごめんね、爺様」
「謝罪する気ないじゃろ!? ジジじゃ! 伸ばすでない!」
喋るたびに、身体をぷるぷるさせるジジ様。
うわぁ、このアンゴラウサギ……弄ると楽しい♪




