戦乙女養成学園=中等部= 1
──ふたりの馴れ初め? を聴く。
「召喚された勇者!?」
藤井さんは、まさかの勇者でした。
ある異世界で、魔王討伐のために日本から召喚された藤井さん。
魔王の危険度調査で、その異世界に来ていたエイスタインさん。
エイスタインさんを世話していた召喚の巫女様が魔王の側近にさらわれ、藤井さんが救出に向かうが……。
パーティを分断された結果。
魔王の側近と大勢の手下共を相手に、救出した巫女様を護りながらひとりで戦った藤井さんは、魔王の側近と相打ちになる。
手下共が巫女様を拘束して逃げ出そうとしたところを、エイスタインさんがオートマタで足止めした。
ここで想定外の事態が発生。
オートマタたちの先陣で活躍していた特別製のドールが、相打ちで息絶えた藤井さんの魂を吸収して融合した。
特別製のドールと融合した藤井さんは、ドールの体を操って手下共を殲滅。
無事に巫女様を救い出した。
まではよかった──。
「モリオの霊体を吸収した特別製のドールは、俺の神核と繋がっていてな……」
「そのまま英雄候補の契約が結ばれちまった。という理由……やれやれだぜ」
「やれやれなのは俺のほうだ!」
テーブルに突っ伏したまま吠える。
「解約は?」
「条件が揃えばできます。けれど、失うものが多すぎる」
起き上がって、左手のひらで頬杖をつく。
「モリオは男性型だから、男性型の俺と契約が結ばれた所為で、お互い本来の半分の力も出せない。それでも充分すぎるほど、モリオは強い」
はぁ~っと頬杖をついたまま溜息を吐く姿は、まるでマンガの長髪美形男子そのもの。
渋い低音で喋らなければ、憂う美女にしか見えない。
「解約して他の誰かと契約した場合と、本契約後に時間をかけて調整した場合だと、後者のほうが数万年後には遥かに勝るのですよ」
藤井さんのほうをチラ見する。
「偶然とはいえ、勇者と契約できる機会など滅多にない……それに、モリオも了承してくれたしな」
「神々の戦いに興味があった」
「わかる」
「おうよ」
「でも、たしか、同性どうしは契約できないんじゃ……」
頬杖のまま、僕を流し見るエイスタインさん。なんかエロい。
「ウエハラさんは勉強熱心ですね。授業始まっていないのにご存知とは」
「あ、あはは。色々ありまして……」
「仰る通りですが、例外があって。英霊石が誤認した場合は、同性どうしの契約が成立するのですよ」
「誤認ですか?」
「はい……つまり……」
「エースの事を女性と勘違いしてたらしいぞ! ギャハハハ!」
バカ笑いしている。
うーん、何てフォローすればいいんだこれ。
悩んでいると、エイスタインさんが藤井さんに向けて、右手を振り下ろす──。
「ハベェ!」
──藤井さんの頭上に、1メートル大の真っ白い人工物で出来た手が、いきなり現れてチョップした!
「「うおおーー!」 おもしろーい!」
「そうか?♪」
ベシベシベシ
容赦なくチョップする。
「ギャハハハ!」
2発目からは効いていなかった。
「それもドールなんですか?」
頬杖をやめて両腕を組む。
「うむ、これがモリオの霊体を吸収した特別製のひとつ。ガンドゥルーア」
清々しいまでのドヤ顔だ。
「ガンヅルルア」
全然言えてない……恥ずかしい。
「……無理に発音しなくても[自動翻訳]されるから分け身人形で通じますよ」
恥ずかしがる僕を見て、ニヤニヤするエイスタインさん。
「ふぁ……」
増し増しで照れる。
エイスタインさんの仕事は、ドールメーカー。主にガンドゥルーア製作が専門。
ガンドゥルーアが何かは追及しない。面倒そう。
パペティアとしては半人前らしい。
人形の話になると長かった、数時間熱弁された……今日は紹介も兼ねていたらしく、話の後に軽くトレーニングして解散になった。
◇◇◇◇◇
翌日、〔タスク一覧〕にあった "導入" が〔スケジュール表〕に移っていた。
カウンターの残りが、5日11時間05分になっている。
時間や時刻は、契約者が使い易いように[自動翻訳]が変換しているらしい。
残り日数が1日切っても戻ってこなかったら、〔グループチャット〕でお母さまにご相談だ!
シェイルがあわあわする姿を想像しながら、今日も地下修練場へ向かう。
◇◇◇◇◇
4日後、 "導入" まで3日間は、準備期間として、藤井さんたちとのトレーニングは一時休止になった。
藤井さんたちもポルトクラス。友人がいると心強い。
寮部屋で、ギンと一緒に軽くトレーニングしてから、お風呂。
お風呂から上がってギンをブラッシングしていると──シェイルから[瞬送]コールが。
許可した瞬間、計ったかのように僕の背後へ[瞬送]して抱きつく。
こういうところ本当に強かだよな……と思いつつも、漂う柑橘系の自然で爽やかな匂いが、少しだけ懐かしい。
「むふー。堪能したのよ~。はい、お土産♪」
抱きついたまま、背後からケースを渡される。
「シェイルさん、お胸が当たってます」
「当ててるのよ~♪」
えぇ、解ってましたとも。
だがしかし! 僕も成長しているのだよシェイルさん。
初等部の授業 "性別" と100日にも及ぶスキンシップで、これくらいなら慣れた……なので放置する。
「開けていいの?」
「どうぞ♪」
ふんわりと抱きついたまま僕の後頭部に顔を埋めてくる。
なんか匂いを嗅いでいるようだ。
「犬か!」
「わん♪」
「わん」
ギンは確かに見た目犬だけど……。
ケースを開けると、3センチくらいのサイコロ型水晶10個と、輪っか? どちらも台座に埋め込まれていた。
水晶は透明で、表面を小さな文字が流れている。
「んー? ま……ち、カ……まちカ○ま○く!? これ、まさか!」
「にひひひひ♪ 地球で例えるならBDかしら?」
「見たかったやつだ……」
「ブレスレットを腕にはめて、はめたほうの手で水晶を握ってみて」
言われた通りにすると──。
〔まちカ○ま○く〕
──新コンテンツが!
「[自己管理]に追加された!」
「あー、それだとちょっとまずいのよ」
「どういうこと?」
「んっ、待ってね」
今度は〔リュートと愉快な仲間達〕が明滅する。
〔グループチャット〕を開いてみると、キール君とシェイルとお母さまが談合していた……。
お母さまが確認して承認したアニメなら、僕も見ていいそうだ。
そもそも、お母さまにアニメを見せていいのだろうか……。
そんな心配をよそに、シェイルは〔グループチャット〕を通してアニメを拡散していた……。
これで、キール君も見れる。
どうやら[自己管理]の情報は基本的に、英霊石を通してアスガルド情報管理局に漏れるようだ。
キール君にお願いして、漏れないよう隠してもらうには、〔グループチャット〕を通す必要があって。
〔グループチャット〕を通すと、お母さまにバレるので、お母さまにお伺いしたところ──承認制になった。
本来ならブレスレットが[自己管理]の役目を果たすらしい。
けれど、僕の場合は、ブレスレットの機能がキール君の防衛機構に触れたらしく、装着した瞬間に無効化された結果。
直接[自己管理]に登録されてしまった。
見れるアニメがあるだけ幸せだよっと思っていたら──。
ギンも含め、みんなで鑑賞することに。
──あれ? 承認制は?
◇◇◇◇◇
"導入" までの準備期間を、みんなでアニメ鑑賞して過ごす。
色々思うところはあるけれど──考えたら負けなのだ。
盛り上がって楽しめたし……まあいいか。
そしていよいよ、中等部の授業が始まる──。
ふたり揃って、いつものジャージ。
開き直ったら、これが一番楽なのです。
……
(シェイル)
クラスルームへ向かう途中、違和感を感じた。
(んっ、気付いたかしら?)
(つけられてる?)
(ええ、でも無視で)
(知り合い?)
(初等部の同期)
(挨拶しなくていいの?)
(ストーカーは、ほっとくかしら)
(シェイルのファン?)
シェイルの悪い顔を真似てみる。
(……)
表情が抜け落ちた真顔で返事された。
……
意識しなくても、低速飛行できるようになった。
成長を実感していると、クラスルームに到着する。
初等部と同じデカいドアを開けて中に入る。
中央の教壇で、目を閉じたまま静かに佇むポルト先生が見えた。
ほんとに、コロ先生とは真逆だな。
僕に続いてシェイルが入ってくると──同級生の視線がシェイルに集中。
(巫女さんとの話が広まってるっぽいね)
(帰っていいかしら?)
(却下です)
(うー)
周囲を見渡す。
藤井さんたちはまだ来てない。
他の同級生たちは、グループで固まっているみたいだ。
服装に統一感がある。
何人かは貫頭衣なのでヴァルキューレだろう。
派閥? あ、氏族で纏まってるのかな?
「ここらは空いてそうね」
視線など気にせず着席する。
「リュートも座るのよ」
左手で椅子を叩くので、素直にその椅子に座った。
「ウェデル氏族で纏まったりしなくていいの?」
「んっ? そういう指示は受けてないかしら」
あれ? じゃあ派閥で纏まってるのか?
ん? おおう……。
ストーカーが僕らの背後の席に座る。
気配がそわそわしている。
シェイルに話しかけたいのかもしれない。
「よし、全員揃ったな。開始5分前だが始める」
ストーカーに気を取られているあいだに、始まった。
藤井さんたちは……いた!
入口のドア付近だから、最後に入室したのかも。
胸の手前で軽く手を振る。
エイスタインさんが気付いて、手を振り返してくれた。
ちょっと嬉しい。
「では、ガキ共。パーティ毎に集合しろ」
ん? パーティ? あ、そういえば、中等部はパーティ単位で活動するって、初等部で習ったっけ。
あれ? じゃああの派閥はパーティってこと?
「シェイル──」
右を向くと、真っ青になったシェイルが……。
「大丈夫ー?」
ギンが心配すると、こちらを向いて一言。
「パーティに入るの忘れてた……」
「あれ、でも、そんな通知きてないよ」
「だって、それは……ヴァルキューレの仕事なのよ」
「「あちゃー」」
僕のためにアニメを用意してくれたから、パーティの件が吹っ飛んだっぽい。
なので、シェイルを責める気は全くない。
さて、どうしよう?
まずは藤井さんたちに相談かな。
いきなり、ポルト先生に相談は、嫌な予感がする……。
シェイルの左手を握って、席を立つと──。
「あら、シェイル。お困りでしょうか?」
──シェイルのストーカーが、唐突に話しかけてきた。




