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戦乙女養成学園=初等部= 1

 コロナリア先生に連れられて移動する。

 途中に、縦穴の通路があった。

 特定の階層間を繋いでいるようで、5対の青と赤のポールが穴を縦断している。

 青が下降用、赤が上昇用で、それぞれのポールを掴んで移動するようだ。

 衝突防止対策だと思う。


 縦穴を3ヵ所抜けて、学園長室がある7階からコロナリアクラスがある3階へ降りた。

 1階から2階が候補生の居住エリア、いわゆる寮。なんと全て個室。

 成績に応じて希望が優遇され、浴室有りやキッチン有りの部屋を指定できる。

 1階に大浴場や購買があるので、特別個室は嗜好品に近いらしい。

 3階がクラスルームエリア、4階と5階が学業支援施設エリア、6階が職員エリアで、7階が重役エリア。


 担当官の居住部屋が自分のクラスルームの隣にあるので、候補生達が6階以上に上がることはほぼない。

 「飛んでいるから廊下や床は要らないのでは?」と質問したところ、区切りがないと判断に迷ったり、様々な情報がだだ漏れになることで不要なトラブルが起きたりするから絶対必要らしい。


 建物の構造と構成は、中等部と高等部も同じだそうだ。


 候補生達のほとんどは寮で生活している。

 別宅から通学しているのは、王侯貴族の子女か、転移系の能力を持つ者らしい。


──そんな説明を受けながら、移動するが──とにかく広い。

 廊下が2車線道路の幅ほどある。天井も5メートル近い。


……

…………しばらくして、ようやくコロナリアクラスのドアの前に到着した。


 ドアもデカい。

 学園長室の扉も大きかったが、それは学園長室だからだと思っていた。

 どうやら全体的に寸法が大きいようだ。


 コロナリア先生がドアを開けて入る。


「おう!? 結構……いや、ほぼ全員いるな……大人気だぞリュート!」



やめて、無駄に緊張するから、そういうのやめて……。


 続いて中に入ると──。


「「「「「か、可愛い!!」」」」」



第一声がそれかよ!


 僕の中ではお決まりのツッコミを入れていると、シェイルの呟きが聞こえた。


「よかったのよ。知り合いはいないかしら」

 ふぅ、と息を吐きだして安堵する。


 クラスルームは、階段教室に近い。

 中心に高めの円い教壇があって、空洞の円卓が設置されている。

 円卓の三方が通路になっていて、そのまま壁まで通路が伸び、それぞれドアに繋がっていた。

 円い教壇をぐるっと11周、4人掛けの扇机が取り囲み、外周に近付くにつれて階段状に高くなっている。


 教壇に辿り着くと、コロナリア先生が僕らの紹介を始めた。


「さて、諸君! よく集まってくれた。このふたりが先日話した、ミドガルド(地上)パートナー(英雄)候補を見つけるついでに、あのトゥーリ王国きっての大天才、オイフェミア王女殿下と一戦交えて、しかも退けてしまった──期待の新人だ!」


「「「「「凄い!!」」」」」

 クラスが騒然となる。



いや、退けたのは姉さんなんだけどね……。

てか、凄いなこれ!


 教壇で話す声が中央と四方から拡声され、教壇上部の三方にスクリーンが展開。

 スクリーンに話している者の姿が映し出された。


「だが、諸君! 氏族の保護世界とはいえ、ミドガルド(地上)での術理行使はおろか、小規模でも戦闘を行うなど言語道断!!」

「「「「「……」」」」」

 一変して静まり返った。


「初心からやり直せという学園長様の御命令で、初等部に出戻った愚か者でもある!」



上げて落とすのかよ!


 隣を見るとシェイルがまた絶望の表情になっていた。

 ギンは我関せず、ボケーと座っている。


「初等部にいるあいだは、候補生と変わらない。諸君らもそのつもりで接するように!」

「「「「「はーい!」」」」」


「それと、最重要注意事項だ! ここにいるフェンリルの幼生体は、ウェデルの神獣だ。幼生体といっても能力は上位神に匹敵する。無暗に触れないように!」



ギン……まさかの腫れ物扱い……。


 気にしないで僕の頭の上に[瞬送]して乗っかる。


「ボクはギン。ボクに触っていいのはリュートとシェイルだけー、みんなはお触り禁止よー」

「「「「「は、はーい」」」」」


 ギンがシェイルの影響を受けて、徐々に毒されている気がするのは……気のせいだろう。


「では、ふたりとも自己紹介を」


 スクリーンの映像が僕に切り替わる。



うわっ、緊張する。


「は、初めまして、上原琉人です──」

「うえはらりゅーと?」

「たぶん、うえはらが氏族名だと思う」

 クラス内が騒めきだした。


「ああ、リュート、お前はシェイルの氏族に入ったわけだから、アスガルド(アース神界)では、"リュート ウェデリア" を名乗ったほうが伝わりやすい」


「そういえば、お母さまも僕をウェデリアって呼んでました……なるほど」


ん、こほん

 咳払いをして仕切り直す。


「ごめんなさい。上原は生前の氏族名で、今は、リュート・ウェデリアです!」

 騒がしさが落ち着いた。


「色々あってシェイルの英雄候補になりました。解らないことが多いので、失礼なことをしたら教えてもらえると嬉しいです! 気軽にリュートって呼んでください!」

 45度でお辞儀をする。


「あれ何?」

「エデンのニッポン略式敬礼よ、たぶん」

「「「「「へー」」」」」



日本すげー! 知名度高っ!


パチパチパチパチパチ!

 日本の知名度の高さに驚いていると、盛大な拍手が送られた。

 50名近くいるので、なかなかの音だ。


 続いて、スクリーンにシェイルが映る。


「「「「「うわー」」」」」


 絶望した顔がアップで映され、全員が引いた。

 仕方がないので、シェイルと手を繋ぐ。


「はっ!?」

 絶望から醒め、繋がれた手を見て驚きながら呟く。


「ここは天国かしら!」

「教壇だよ……ほら、自己紹介しないと」


 スクリーンに手を繋いだふたりの姿が映る。


「「「「「キャー! 素敵!」」」」」

 怒号が響いた。


「う、映さなくていいから!」


 今度は僕の真っ赤な顔がアップになる。


「「「「「かわいいー♪」」」」」



なんだろ、この感じ……まさか。


「お母さま! 悪戯はここまでにしてください!」


 スクリーンに "ちびエイル" が出てきて "ごめんなさい" と書かれたプレートを上げると、再びシェイルのアップへ変わった。



やりたい放題だな……。


「シェイル……」

「んっ、ありがと、もう大丈夫。──初めまして後輩達、わたしはシェイル・ウェデリア。誤解がないよう言っておくけれど、フェミ先輩の親衛隊と戦ったのはお姉さま方なのよ!」

「フェミ先輩!?」

(フェミ先輩は "有志" のひとりなのよ)

 [念話]で捕捉してきた。


(知り合い?)

(うん、あとでちゃんと説明するかしら)

(分かった!)


「それにフェミ先輩は最初から逃げる前提で戦ってたし、追い詰めたのもわたし達じゃない。だから功績はほとんどないのよ! 過大評価しちゃダメかしら。コロ先生も話を盛ったら後輩達のためにならないのですよ! 6柱のフェミ先輩に2柱のわたしが、まともに勝負できるわけない!」


「おぉ! ちゃんと意見ができるようになったか、少しは成長してるではないか!」

 髪をぐしゃぐしゃされるのを真顔で耐えていた。


「それでも、本契約していない半人前が、上位者に混ざって戦闘し、勝利したのは間違いない事実だ! ルール違反だが功績には変わりない」


「「「「「かっこいい……」」」」」


「というわけだ! 諸君! ふたりから学べるところは学べ! 反面教師としてもな! ガハハハハッ!」

「「「「「はーい!」」」」」

「ひと言多い……」


……

 紹介が終わった後、質問攻めを受けた。


 その際、一番驚いたのが……。


「リュートは女性型なの? 姉妹はいる?」

 という質問だ。


 女性に間違われるのはいつものことだけど。


「男だよ。姉妹は、姉さんが1人」

 と答えると。


「「紹介して~!!」」

 2人の "男の子" から迫られた。


「男もヴァルキューレ(戦乙女)候補になれるの!?」

「リュートって差別する人なの?」

「ちょっと意外……」

 質問が直球すぎて誤解を受けてしまった。


「あ、違うよ! 差別してるわけじゃなくて、知らなかっただけ! ヴァルキューレって僕の故郷じゃ "戦乙女" って言うんだ。戦う女性って意味。だからびっくりしただけ!」

「そっか! なら仕方ないね!」

「男型のヴァルキューレ(戦乙女)は個体数が少ないからなー、あまりミドガルド(地上)にも降りないし」


「少ないんだ」

「全体の1割もいないかな? その分重宝されるから外向きの仕事に就く子は更に少ないよ」

「んー、重宝されてるなら増やせばいいのに」

ヴァルキューレ(戦乙女)ってシステムが女性向けに出来てるからさ、男は増やしづらいんだって」

「「へー」」

 ずっと頭に乗っかってるギンと声が揃う。


「もしかして、男型は女性としか契約できないの?」

「そうそう、基本はね。それでリュートのお姉さんってどんな人?」

「「あー」」

 何故ここで声が揃う?


「外見は僕が白銀の髪に碧い眼になった感じかな……でも身長は結構高い。あと、怖い……色んな意味で」

「怖いのかー……俺は怖い人はちょっと苦手かな……」

「でも1回見てみたい!」

「頑張っちゃう?」

「うん! 自由契約の権利取って会いに行ってみよう♪」


「まじか!」

「まじか?」

「本気でって意味なのよ」

 横で女性型のヴァルキューレ(戦乙女)から質問責めを受けているシェイルが捕捉してくれた。


「うん! まじか!」

 用法を間違っている……。


「えーっとね、 "まじ" が "本気" って意味で、 "まじか" とか "まじで" って聞かれたら、 "まじで" とか "まじだ" って答えると "本気だ" って返事になるんだ」

「「「「「おー」」」」」

「こら! あまり地上のスラングを流行らすなよ!」

「あ、すみません……」

 コロナリア先生に叱られてしまった。


……

…………

 いつまで経っても質問が終わらないので、先生がいったん中止宣言して解散になった。

 みんなにお礼とお別れの挨拶をして、クラスルームを出た後、コロナリア先生の案内で寮へ向かう。



 初等部で勉強するあいだは、特別個室のひと部屋を使わせてもらえることになった──ふたりひと部屋で……。

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