癒しの戦乙女
残酷な描写がありますのでご注意ください。
漆黒の穴を抜けた先には、ギンとクレハがいた。
(ねえ、リュート)
『「何?」』
(クレハのあの格好は趣味?)
『「あわわわわ――」』
(深呼吸よ!! すーはー、すーはー、落ち着いた?)
『「う、うん」』
(クレハのほうは見ないようにね)
『「そうする」』
深呼吸していると白銀髪の人物が誰なのか気づいたようだ。
「琉人!!!??」
『「姉さん、久しぶり!!」』
「え? ええ?? どういうこと!!!??」
『「ごめんね、姉さん。先にあいつらをやっつけるね」』
壁にもたれ掛かっている奴等は、忘れもしないクソヤロウ共と、あれは……。
(リュート、あの巫女はオイフェミア。わたしの氏族とよく敵対する氏族の王女かしら)
『「王女? 手加減したほうがいい?」』
「舐め過ぎネ……覚悟なさイ。この子達ハ、特注製ヨ……クク」
『踊り狂エ』
オイフェミアが壁にもたれ掛かったまま攻撃指示をだした。
(手加減は必須よ!! 周りを巻き込むわ!!!)
『「え? マジで!?」』
(軽く触れる感じでいいかしら)
『「軽く?……ホントに??」』
会話の隙をついて、軌跡を追うのがやっとなほどのスピードで木人形3体が突進――。
――してきたのを、同じく突進したリュートが交差する刹那、3体同時にカウンターで軽く捌く。
ドゴォッ!!
グシャァ!!
パァン!!
軽く触れただけで3体とも砕け散った……いや、3体目は砕けるというか、風船が割れるように破裂した――。
『「うわぁ、力加減が微妙すぎる……」』
「フェミ様!!? あ、あれなんスか!!?」
静寂が辺りを包む。
「「「「「フェミ様??」」」」」
(あちゃー、にげられたー)
『「え? 逃げたの!? 特注製ヨとか言ってたのに!!」』
「「「「「クソビッチがあああああ!!!!!」」」」」
(リュート!! 選手交代なのよ!!!!!)
『「いや、意味が解らないよシェイル。スポーツじゃないんだから」』
「シェイル?」
(ほら、早く身体の主導権をわたさないと、寝てるあいだにお化粧するかしら!!)
『「やっぱり、記憶も共有してるのか!!!!!」』
クロスオーバーでパスが繋がっているリュート、ギンの記憶と感情、意思はシェイルと共有されていた。
常に繋がっているわけではなく、各自が必要な時に双方向通信や検索ができる。
ただし現状は、機能を上手く使えないリュートと、使うつもりがないギンを差し置いてシェイルだけが覗き放題なのだが。
ショックで放心した隙を突いて主導権を奪い――。
(――ん――あ……入れ替わってる……)
――主導権を奪われた反動でリュートの意識が戻る。
「誰だ貴様!? 琉人の身体から出ていけ!!!!!」
(だいじょうぶー、仲間だよ!)
『「初めましてお姉さま! わたしはリュートのパートナー、ヴァルキューレ・シェイルと申します」』
(ネコ被ってるな)
(ねこにゃー)
「パートゥナーだとおおおおお!!!!!」
(食いつくとこそこ!?)
『「ヒィッ! ……と、とりあえずお姉さま……魂を使って神器を起動しましたね? 霊核が痛んでて危険です。治療しますので殺気を抑えてください……」』
「貴様にお姉さまと言われる筋合いはない! ……が――とりあえず琉人の身体にいるのなら、私のことはお姉ちゃんと呼べ!!!!!」
『「お、お姉ちゃん……治療するから大人しくしてね」』
(おねえちゃんー)
(グダグダだ……)
「あぁ、琉人が2年ぶりにお姉ちゃんって呼んでくれた……幸せ――」
(……)
『「ギン、わるいけど、窓にかかってる布をちぎって持って来てくれるかしら?」』
(わかったー)
ギンがてくてくと近い窓まで歩いていく。
神威武装を解いた所為か、幼生体の姿に戻っていた。
『「では、治療しますね……」』
『「礎に寄りて我は求める、回帰せよ【レストア】」』
『「【ピュリフィケーション】」』
『「【デトキシフィケーション】」』
『「【リジェネレーション】」』
『「【リカバリー】」』
『「【ディスアセンブリ】』
『「最後に……」』
『「古き癒し手、発て来て祀れ【リヴァイズ】」』
クレハの傷と、ついでに悪いところ全てを治療した。
「……一気に治せないのか?」
『「魂の核が傷ついてましたので、大事を取りました」』
「そうか……ありがとう」
(もってきたよー)
ギンがカーテンをくわえて持ってきたようだ。
綺麗に畳まれている。
気が利くし空気も読める紳士、ギン。
『「んっ、ありがと」』
軽く撫でると、嬉しそうに尻尾が揺れた。
そして、カーテンでクレハの身体を包む。
『「お姉ちゃん……」』
「何だ?」
『「神器に魂を籠めましたね?」』
ビクッ
「ゴミ共に辱められるよりはいいかと……」
『「ダメです!! 絶対ダメ!!!」』
「……」
『「確かに神器の力で結界に亀裂が入ったから間に合いました……ですが、次は魂ではなく少しでいいので霊気を籠めてください!!! たぶん、それくらいでも亀裂は入ったはずです!!」』
「そ、そうなのか……」
『「魂の核、霊核が傷つくと、わたしのような治癒の神格を持った神にしか直せません!!! 仮に霊核が修復不能なまでに壊れたら消滅ですよ? つまり転生もできません、だから絶対ダメです!!!!!」』
「わ、わかった……」
(姉さんホントにわかってる?)
「わかってる!! 私が琉人に嘘ついたことあるか!?」
(ない)
『「もう時間がないかしら、でも、これだけはやらないとなのよ」』
「琉人?」
トン
つま先で軽く地面を蹴り一瞬で2階吹き抜けの廊下へ移動。
そのまま脳天を撃ち抜かれたクソヤロウの傍へ向かう。
『「よかったわ、まだギリギリ生きてるかしら」』
『「古き癒し手、発て来て祀れ【リヴァイズ】」』
「おい! 何故助ける!?」
『「お姉ちゃん……すぐ殺したら罪を償えないのよ!!」』
「ああ、そうか。ふふ……よくやった!!」
『「それに人殺しになるには、まだ早いかしら……」』
そのまま、向き直って1階を見下ろした。
『「さて……このクソヤロウ共!!!!!」』
「「「「「ヒィッ!!!!!」」」」」
成り行きをみていたクソヤロウ共が震え上がる。
回復したばかりのやつは事態が飲み込めていないようだ。
『「知ってるかしら? どんなに良い薬でも、処方を誤ると毒になり――」』
「「「「「ゴクリ」」」」」
『「どんなに美味しい食べ物でも、食べ過ぎると病気になる――」』
「「「「「……?」」」」」
『「そして……どんな回復魔法でも、やり過ぎると――にひひひひひ!!!!!」』
「「「「「ヒァッ!」」」」」
わたしは邪悪な笑みを浮かべ、クソヤロウ共は壁で逃げられないにも関わらず後ずさった。
「レア……激レアだ!! なんだその悪人顔――カッコヨスギじゃないか!!!」
(姉さん、邪魔しちゃダメ)
(リュートのあんな顔はじめてみたー)
「うむ、カッコイイよな?」
(かっこいいー!)
(僕じゃなくてシェイルだからね?)
なんだか盛り上がっているわ……会話に加わりたいけど……集中しないとかしら。
『「……海綿体組織を全て癒着……その他器官を収縮……毛細血管剪定……NKT/NK細胞増殖……NK細胞に干渉……精原細胞への攻撃性を付与……性的感覚を完全遮断……」』
『「嫌忌を誘いて我は求める、汝らに災厄を! 【リジェネレーション】」』
そして神気言霊が響き渡った。
「「「「「――!? アッ、ギャアアアアア!!!!!」」」」」
クソヤロウ共が悶絶する。
「何をした?」
『「簡単に言うと――』
――汗もかいていないのに右手で前髪を払う仕草をして、その流れのまま両手を腰に付けて言い放つ。
『「男性機能を全て奪いましたわ♪」』
清々しいほどの笑顔である。
(治癒と支援のヴァルキューレって……怖ッ!!!)
『「薬に頼らないと女を抱けないクソヤロウにはお似合いなのよ!!!」』
「よく言った!! そして、グッジョブだ!!!」
シャキーン
と親指を立てるクレハ――。
シャキーン
――にわたしも応える。
トン
またつま先で軽く地面を蹴ると、一瞬で戻ってきた。
『「お姉ちゃん、さっきのがフェンリルの災厄の応用なのよ。なんでお姉ちゃんが神器を持っているのか知らないけど、応用は憶えて於いて損はないと思うわ」』
「ほほう……」
神器の応用技を説明していると、身体中を何かで掴まれる感覚に襲われた。
『「あっ!」』(アッ!)(アーッ!)
「どうした?」
『「とうとう来たのよ、強制召喚……」』
(姉さん、時間切れみたい)
(クレハー)
ギンがクレハに甘える。
「ヴァルキューレか……強制召喚ってことは神々の国へか?」
『「はい――あ、憑依が解ける――」』
リュートの身体から徐々に存在感が薄れ透けていき、背中から金髪ぼさぼさロングでジャージ姿のわたしが抜け出た。
――と同時に、天井へと引っ張られる。
「姉さん……僕らは神界で楽しく暮らすから、姉さんも幸せに!!! ……母さんを、みんなを頼んだよ……お姉ちゃん!!!!!」
そのままわたし達は、アスガルドへ続く不可視のゲートに引き寄せられて、次元を跳躍した――。
「あっ! あぁあああああ!!!!!」
クレハの叫びは、もちろんわたし達には届かない。
─────【1章1節 運命は惨く結びて】─────
完
本話で【1章1節 運命は惨く結びて】は終了です。
次話から【1章2節 やるせない想い】になります。




