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理不尽な悪意と無力な少年

残酷な描写がありますのでご注意ください。


初執筆・初投稿作品になります。

拙いところが多々あると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします!

 すでに陽が落ちて街路灯に照らされた街を、全力で駆け抜ける人影――。


 丸みのあるショートボブの黒髪に、切れ長で軽く目尻が上がった黒眼の目、主張が強すぎない鼻と、少しだけ上唇が厚い小さな口。

 それらのパーツが神がかったバランスで整った顔と、華奢な身体でモデルのように脚が長い――超絶美少女。


 頬に紅を差し、汗で濡れながら全力で走る姿を見て、誰もが振り返る。

 交差する通行人から見れば、まるで映画のワンシーンから飛び出たようなその美少女は――。


――焦っていた。


「やばい、怒られる……」


 友人の家でゲームに夢中になり過ぎて、気付いたらもう夕方。

 夕食に誘われたけど、今日は姉さんの誕生日なのでと、挨拶をして友人宅を飛び出し、全力で街を駆け抜ける。


 5分ほど走ると、夕陽は落ちきって街路灯に明りが灯っていた。


 姉の誕生日くらいで何を焦っていると思うだろ?

 姉さんは誕生日を無視すると、激怒して迷惑極まりない嫌がらせを実行するのだ。


 母さんと姉さんは、ストレスを感じると僕を愛でて発散させる悪癖がある。

 そしてストレスの原因が僕だった場合は、()()()()()()()の僕に化粧したり、女装させたりする。

 寝てる間に無断で……。


 しかもご丁寧に()()()()()()()()()()()を使ってくる。


 去年ヤラレタ時は、顔を洗っても薄化粧が取れず、まさか自分が化粧しているなんて思いもしない僕はそのまま登校……クラスの女子達にオモチャにされた。

 それ以来、度々化粧してくるようにお願いされたり、冗談で男に告白される……じょ、冗談だよね? ほんと勘弁して……。


 ちなみにウチの母と姉は僕を溺愛していて、どちらもストレス解消のため、週に1日は僕のベッドで一緒に寝る。

 もう中学生なので止めて欲しいと何度頼んでも却下。

 僕の部屋は居間とアコーデオンドアで区切られているだけなので、施錠は不可能、当然他の部屋への移動も却下。


 その代わりに脱衣所と浴室のドアに鍵を付けてもらった。


――何故かは聞かないで欲しい。


 いろいろダメなところも多いけど、何事にも僕を最優先してくれるふたりには、全く逆らえる気がしない。


 そんな僕の名前は上原(うえはら)琉人(りゅうと)()()()()()()()と言いたい――けれど、母親似の顔と誰に似たのか華奢な身体で、状況によっては女に見える。



 などと考えを巡らせながら走っていたら、僕の行く手を邪魔するように廃ビルが道を塞いだ。



この辺は物騒なんだよな、いつもなら迂回するけど……。


 迂回せずに廃ビルを直進して、高さ約1.5mの壁を越えた先の公園を抜ければ、5分ほどショートカットできる。



もし危ない連中がいたら逃げればいいか……それにショートカットすれば19時には帰れる……やるしかない!


 焦りに突き動かされた僕は、廃ビルを直進して壁に近づいたところで妙な声を聞いた。


「おしい、やるじゃん」「つぎオレな」「頭は狙うなよ」


 小声ながら興奮した様子で、数人が囃し立てていた。

 なんだかやばそうな雰囲気を感じながらも、壁の上からそっと覗いてみる。


カンッ!

「――!?」

 壁の向こう側が見えようとした瞬間、金属を弾くような音がして軽く身が竦んだ。


 浅く呼吸を整えて壁の向こうを見ると――。

 高校生くらいだろうか、僕より年上の6人の男達が子犬をボウガンの的にして遊んでいた。

 一目見てガラの悪い男もいれば、とても動物虐待をするようには見えない男もいる。

 3人が子犬を囲み、もう3人は少し離れた位置で周囲を警戒しているようだ。


 この公園は結構広く、林と言ってもいいほど樹木が多い。

 その割に外灯がまばらなため、陽が落ちてからは滅多に人が近づかない。

 以前から恐喝や暴行などの犯罪に利用されていたが、人が近づかなくなったことで更に治安が悪化している。

 近々、廃ビルも含めて整備される予定のはずだ。


 子犬は公園の外灯にロープで繋がれていた。

 半径2メートルほどの範囲を自由に動けるように。

 そんな状況でも子犬は男達へ唸りを上げ、ボウガンで撃たれる瞬間動いて回避している。


 呆然としながらもボウガンの矢を巧みに躱していく子犬を見て息を呑む。



ギンだ……ギンはとても賢い。


 吠えたところで状況が悪くなるだけと考えているのだろうか、男達を見据えて唸るだけで吠えない。



賢いギンがどうして捕まったんだろう。

いや、そんなことはどうでもいい、助けないと!

でも僕ひとりでは絶対無理だ……。


 そう思って壁から離れようとすると、別の声が聞こえてきた。


「待たせたね? まだ殺してない?」

「いやぁ、この犬コロ撃つと避けるんですわ」

「それはすごいね? ほんとうに頭のいい子犬だ」

「シンジさん、アレはどうなったんですか?」

「コレかい? 普通には買えないから自分で作ったよ?」

「シンジさん、パネぇっス!」


 とてつもなく嫌な予感がする。


「ソレってどう使うんですか?」

「そうだねぇ? 飲ませるのが一番効果が高いけど、直接かけてもそこそこは期待できるよ?」

「クーッ、ソレがあればヤリ放題ですね!」

「まぁね? でもまずは動物実験かな? ラットは問題なかったから次はこの子犬だね? その次は……ヒヒヒ」

「シンジさん、パネぇっス!」



ダメだ、どうしようもない。


 決心して慎重にその場を離れる。

 廃ビルの反対側まで静かに歩いて、周囲を見渡しスマホで警察へ通報、状況を伝えたところで小さい悲鳴が聞こえた。



ギンの声だ。


 そう思った瞬間走り出す。


 驚くほど集中しているのが解る。

 疑うことなく壁の前で身を屈め跳躍、天辺を左手で掴み、自分の身長と同じくらいの高さの壁を軽々と跳び越えた。

 着地した瞬間、視界にギンが映る。

 横たわったまま動かない。

 下半身が赤く染まり、後ろ足の付け根辺りに矢が刺さっていた。



呼吸はしてる……生きてる!!!


 頭が真っ白になったボクは、ボウガンを撃とうとしている男に向かって右手に持っていたスマホを投げつける、と同時に突っ込んで――。


――渾身のスライディングタックル!! からの全運動エネルギーを乗せた膝関節蹴り!!!!!


「な!? ぎゃあああああ!!!!!」


 倒れて悶絶する男を横目にすぐさま体勢を立て直し、そのままギンに覆い被さった。

 相手は7人、それも武器持ち。

 どうやっても追い払えない、なら警察が来るまでギンを守るしかない!


「警察には通報したぞ!!」

「あ? お前知らないのか? ここは俺らのホームなんだよ」

「ゲホッ」

 脇腹を蹴られた。


「あいつらサイレン鳴らすだろ? あれ聞こえてからでも、ここなら余裕で逃げ切れるんだわ」

「グハッ」

 脚を踏みつけられた。


「油断大敵だね? ほら、回復薬だ。あいつに使ってあげなよ?」

「了解です」



回復薬? 何だそれ??


 言葉の意味が解らないでいると、誰かが頭のほうに近づいてくる。


「君? 上原(うえはら)紅葉(くれは)の弟君?」

「だったら何だ」

「お姉ちゃんに似ず馬鹿なんだね? 警察には何て通報したんだい? もしかして、子犬が虐待受けてるって通報してないか?」



え? どういうこと??


「ヒヒヒ……自分で助けに入るんなら、嘘でも殺人って言わないと。6人以上相手するのに動物虐待程度で警察がすぐ動けるわけないだろ? 来るのに何分かかると思う? 計ってみようか? ……ヒヒヒ」


 あ……くそ! 柳さんに連絡するべきだった。

 スマホは――男に投げつけた……僕の最大の欠点、焦ると後先考えない。


「どうします?」

「そうだね? 適当に可愛がってやれば?」


 それからはもう、ただの私刑(リンチ)だ。



痛い、痛い、痛い……。

 頭が、顔が、脇腹が、脚が絶え間なく痛みを訴えてくる。


 僕は先々月ギンに命の危機を助けてもらった。

 そして家族の一員になったギンは僕の大切な弟だ。



お前だけは守るからな。


 必死に痛みに耐えながら、両手で囲った白銀の子犬を守るように蹲り続けた。


……

…………


 何分暴行を受け続けたのだろう。

 僕は冷たくなったギンを両手で囲い蹲ったまま、やけに眠たくなっていくのを感じた。


 ギンの呼吸音はもう聴こえない。



ごめんね、ギン、助けられなかったよ。


 不思議と涙は出なかった。

 ただただ眠たくて、そのまま意識を失った――。



◇◇◇◇◇



ん? ここは……どこ?

 白い天井、周囲には様々な計器が見える。



あ、病院か、僕、病院に運び込まれたのか。

 なにげなく起き上がってみる。



あれ? 痛くないし、体が軽い。

麻酔かな? 麻酔なら起き上がれないよね。


 かなり暴行を受けたはずなのに痛みがない。

 状況を確認していると、カーテンが開いて家族が入ってきた。

 母と姉、祖父と祖母の4人だ。父はいない。


 旅行好きの母さんは、海外旅行先の北欧で知り合った傭兵の父と恋に落ち、そこで姉さんを産んだ。

 そして2年後父は傭兵として戦争へ向い、その半年後戦死したらしい。


 戦争へ向かう前にしばらくは日本で暮らすよう諭された母は日本の実家へ帰省した。

 その直後に、つわりが出たそうだ。

 すぐに父へ連絡を取ったが繋がらず音信不通のまま半年が過ぎた頃、北欧の友人から戦死の報せを受ける。

 弔うために北欧へ渡り、父方の祖母から形見分けとして装飾品を譲り受けた。


 僕と父の絆は、母さんの思い出話と、写真嫌いだった父が唯一許した1枚しかない結婚写真、そして形見のイヤリングだけ。


 姉さんは父譲りの碧眼、白髪。しかも、白髪に母由来の黒髪がまばらに混じることで光の加減によっては白銀に輝いて映る。

 その上、日本人の幼さと北欧人の美しさが混在する均整の取れた顔に、母さんのスタイルの良さも遺伝した絶世の美少女。


 僕は母さんに似て黒髪、黒眼。純日本人――驚くほど父の遺伝子が仕事をしていない。

 そんなことを考えていると、姉さんが僕の傍へ駆け込み、()()()()を握って泣き始めた。


「琉人、ごめん、ごめんね、私がもっとしっかりしてれば、こんなことには……」



姉さん僕はここなんだけど、()()()を握ってるの?


 姉さんが握ってる手の先を観る。

 僕が寝ていた。

 ふとモニターに表示された心電図を観る。



うん、まっすぐだね――。


――――――死んでるよ!!!!!


 僕の魂の叫びは、もちろん家族には届かない。

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