焼きいも求めて西東
夕方の商店街は人で賑わっている。
最近は買い物はほとんど人間とロボットのやりとりで行われる。
八百屋、魚屋、肉屋など人間と人間が話をする形式が懐かしくてこうして人が集まっているらしい。
俺は仕事帰りによくここに寄る。
お目当ては、
「なんだコロッケ屋休みなのか。」
熱々のコロッケなのだが今日は店が休みで売ってない。
今日は他のものを食べようか。
い〜しや〜〜きいも〜〜〜
「焼きいも?近くに来てるのか?」
商店街が出来ると共にいつの間にかに現れるようになった石焼きいもの白い軽トラ。
軽トラも今時珍しいが、石焼きいもも最近はあまり食べられない。
俺も一度か二度食べただけだ。
そして、この軽トラの焼きいもを食べたという話もあまり聞かない。
なぜなら毎日通るルートが違う上に、声をかけてもなかなか止まらないかららしい。
「せっかくだから追いかけてみるか。」
昔食べた味をもう一度食べたくなり、俺はスピーカーの声のする方へ足を向けた。
い〜しや〜〜きいも〜〜〜
スピーカーの声のする方に進んで行って五分ほど。
声からしてもうすぐそこらしい。
「この曲がり角の向こうか?」
商店街から離れてここはもう住宅街の真ん中。
曲がり角が多く、初めて来る人なら迷う可能性は大。
俺はこの町の地理を全て把握してるのでなることはないが。
角を曲るとまっすぐな一本道。
そこにはのんびりと走っている白い軽トラと
座り込んでるリコがいた。
「何でお前こんなところにいるんだよ。」
リコを立ち上がらせ聞く。
リコはいつもの白衣ではなくベージュのコートを着ていた。
「焼きいもが欲しくてトラック追いかけてただけだよ。」
「じゃあ何でそんなところで疲れ切った表情で座り込んでるんだよ。」
「呼んでも止まらないし。追いつこうとしても速くて追いつけなくて…」
「何言ってるんだお前?」
軽トラはとてもゆっくり走っている。
子どもだって楽に追いつけるだろう。
「本当だよ!追いかけようとするとその途端速くなるんだよ!ちょっと見てて!」
軽トラの方へ走っていく。
「焼きいもくださ〜い!」
そしてリコが近付くと、
軽トラはスピードを出して行ってしまった。
リコはその場でまたへたりこむ。
「お、おい大丈夫か!?」
「もう、限界…。走れない…。」
「いったいいつから追いかけてるんだ?」
「お昼食べ終わってからスピーカーが聞こえてそれからずっと…」
おいおい四時間ずっと追いかけてたのか?
「伝説の焼きいもを買って、その美味しい秘密を解明しようと思ったのに…」
「伝説?あの軽トラが?」
「有名な都市伝説だよ。とっても美味しいって。」
知らなかった。
にしてもコイツはそれだけのために四時間走っていたとは。
「さむっ…」
だいぶ暗くなってきて段々寒くなる。
リコもコートを着ているが体を震わせている。
「お前もう局に帰ってろ。」
「でも焼きいもが。」
「俺が二人分買ってきてやる。俺も食べるつもりでここに来たからな。」
これ以上ここにいさせたら風邪をひきそうだ。
「分かった。じゃあ先帰ってるねバン。」
「おう。」
い〜しや〜〜きいも〜〜〜
リコを帰らせて俺はまた軽トラ近くまで来た。
とりあえず焼きいもを買って、リコから逃げた理由を聞いて、理由次第ではぶっ飛ばして早く帰ろう。
「おい!焼きいも売ってくれ!」
俺が近付いていくと、
軽トラはスピードを出して行ってしまった。
リコだけでなく俺からも逃げるか。商売する気あるのか?
「面白い…」
しかし、リコの頼みだ。
こんなもんで諦める俺じゃない。
「止まれ!焼きいも売れ!!」
日々の依頼とドタバタによる対処によりついた運動能力で楽々追いつき運転席の横の位置で並行する。
運転してるのは男か?帽子を深く被ってよく顔が見えない。
「止まれ!止まらないとタイヤ切るぞ!!」
さすがにこれなら止まるだろう。相手が本気なら実力行使さ。
い〜しや〜〜きブチッ!
スピーカーが切れた。
やっと諦めたか。
が、軽トラは諦めるどころか
ブォォォ!!
加速した。
何でだ?何で一昔前の車にこんなスピードが出せるんだ?
「ぐっ追いつけない。」
なんて速さだ。どんどん離されてゆく。
「!!おい止まれ!」
今度ばかりは焼きいものためじゃない。
目の前に直角カーブが迫ってきている。このままいったら大惨事になるだろう。
「ぶつかるっ!!」
スピードを緩めることなく軽トラは直角カーブへ突っ込んでゆく。次の瞬間、
キュキュキュ!!
華麗なドリフトをし、カーブを無傷で曲がり。
ブォォン!!
曲がった瞬間にまた加速した。
「嘘だろ?」
なんというドライブテクニック。
追いかけようとしたが角を曲っても軽トラの姿は無かった。代わりに新聞で包まれた焼きいもが二個と紙が落ちていた。
そこには、
―次回の挑戦を楽しみにしてるぜ!
by風来の焼きいも売り
「いったい何がしたかったんだ?」
まあとりあえずこの焼きいもは有り難くもらうとしようか。
「わあ!ありがとうバン!」
リコは焼きいもを受け取るとすぐに研究室へ駆け込んで行った。
食べるのが目的なのではなく、美味しい焼きいもロボットを作るのが目的らしい。
焼きいもはとても美味しかった。さすが、伝説と言われるほどはある。
伝説の原因は味ではなく、売り手のせいかもしれないが。
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