青き日々の思い出
「レイオスさん。どうか元気になさってくださいね……」
マリヤは少し心配そうな顔をして、お別れの言葉を伝えてくれた。
「大丈夫だよ、マリヤ。君が取り合ってくれたおかげで、許可証も貰えたんだし」
「ですが、サントニアの民だと知られたら、どうなることか……。セイレンブルクの民ならまだしも……」
「だから大丈夫だって。そのためにいろいろ苦労したわけだしさ」
僕とマリヤが出会って、もう一年が経った。僕がスウァルテルムに行きたいと思っていることを相談すると、彼女はそれを真摯に受け取め、白の国の出身である僕がスウァルテルムに行けるよう、考えを巡らせ協力してくれた。そして今、たくさんの困難を乗り越えて、ようやくスウァルテルムに行くためのチャンスを手に入れたのだ。
「……そうですよね! きっと大丈夫ですよね!」
初めて会った頃のように、マリヤは優しく微笑んでくれた。
「ありがとう、マリヤ。君が居てくれなかったら、僕は今こうして自分の願いを叶えることはできなかったと思う。スウァルテルムで日々を過ごしたら、またいつか必ず、ここへ来てお礼を言うよ」
「私こそ、レイオスさんには本当に感謝してます。初めて会った時もそうですし、本当にいろいろと助けてもらいました。だから、こうして今、あなたの力になれたことがとても嬉しいです」
「そうかな……。僕は君に対してあまり多く役立ててない気がするけど……」
僕が少し俯きがちになりながらそう言うと、マリヤは僕の肩に触れ、目を真っ直ぐに見つめながら言った。
「そんなことはないですよ。最初に会った時のこともそうですし、レイオスさんにはとても助けられています。それは目に見える部分だけでなく、目に見えない、心の部分でもです。あなたの自由で優しい生き方が、私に勇気を与えてくれました。だから自信を持ってください。あなたならきっと、スウァルテルムの人々とも打ち解けることができます」
微笑んでいる彼女の目は、少し寂しそうに見えた。
「マリヤ、本当にありがとう。言葉で言い表しきれないぐらいに感謝してるよ。……それじゃあ、またね」
「はい。またいつか会いましょうね」
最後にもう一度微笑み合い、さよならを言った後、僕は彼女と過ごした喫茶店を後にした。
少し歩いた後、喫茶店を振り返ってみると、玄関から少し外に出たところから、マリヤがこちらに手を振ってくれていた。
僕も彼女に手を振りながら歩き、彼女の姿が見えなくなるまでそれを繰り返した。
「もうこれで、さよならなんだな……」
彼女と僕が再び巡り会える保証は、今どこにもない。だけど彼女と交わした約束は、僕に確かな希望を与えてくれた。今を生きる希望を。
僕は今まで、自分など死んでしまっても構わないと、そう思っていた。髪の色が違うなどという理由で、いじめられ虐げられる日々。母親は僕の味方をしてくれていたが、それでもサントニアでの日々は地獄と言わざるを得なかった。そんな僕が、美しいこの国、セイレンブルクを訪れ、マリヤと出会い、人の温もりを、大地の暖かさを感じることができた。マリヤは僕にとって、生まれて初めて信用できる他者だったのかもしれない。そんなマリヤが居てくれている、この街を、このセイレンブルクを離れるのはとても寂しい。それでも――
「僕は知りたいんだ。スウァルテルムの人々を。そしてもし願いが叶うならば――」
――彼らと同じように、誇り高き黒の民として生きたい――
寂しさと躊躇いを胸に含みながらも、これから待ち受ける世界への期待に瞳を輝かせ、一歩一歩、スウァルテルムへと脚を進ませていった。




