終末世界の少年
「はぁ…はぁ…」
少年は息を切らして、走った。
なりふり構わず、走った。
「助けて…」
手を伸ばす、地面に横たわる女性。
「手を貸してくれ!!」
瓦礫に足を巻き込まれた、工房のおじさん。
「嫌だ…死にたくない…」
頭から血を流す友。
「いやぁぁぁぁ!!!」
まさに今、殺されそうになっている隣人。
知っている者に助けを請われようと。
見知らぬ者が、死の間際であろうと。
見馴れた街並みが火の海になろうと。
構わずに、走った。
それが少年の唯一、生きる道だったから。
だから、走り続けた。
自身にも分からないほど、長い道のりだった。
長く辛い、道のりだった。
誰の声も聞かず。
誰に助けを請われても、それに応じることはせず。
自分の命だけを持って走った。
これはその罰。
そう、罰なのだ。
世界にだだ一人、残されてしまったのは。
少年は教会に籠った。
街を、世界を滅ぼした龍から逃げ延びるために。
世界が世界として機能していた頃、人は時間という概念を用いていた。
それに従うならば、少年は十余年の月日を教会で過ごした。
たった一人で、生き延びた。
誰も助けなかったように、
――誰に助けられることもなく。
世界に自分しかいないということを知りながら。
それでも生きた。
やがて少年は青年となり、その姿を消した。