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晴れ!  作者: 夏みかん
第7章
34/52

何度でも 3

データのコピーは完了し、その痕跡も完ぺきに消すことができるのも今いる地位の賜物だと思う。超極秘データの閲覧権はないものの、自分に関するあらゆるデータは閲覧できる。その上で必要分をコピーしてその痕跡も消せるのは、そういう任務もあるからこその訓練の結果だった。まさか自分のデータを盗むということをするとは思ってもみなかったが。大容量ディスクに保存したそれを持ち、ウラヌスは基地を出る。そんなウラヌスを呼び止めたのは『ゴッド』であったが、元々感情自体が排除されているウラヌスに緊張も何も出ていない。


「明日はドラッグの密輸に関する調査を行う。出かけるのもいいが、ほどほどにな」

「了解」


ディスクのことはばれていないらしい。『ゴッド』はそれだけ言うとさっさと立ち去ろうとし、そこで突然ふらついた。思わずそれを支えたウラヌスは青ざめた『ゴッド』の表情を見て表情を曇らせる。


「すまない」


珍しくそう言う『ゴッド』は薄く笑うと頭を振った。眩暈が酷くなってきている、そういう自覚があった。メディカルチェックを受けても異常はなく、こういうことは精神的なことも原因として挙げられるが自分に限ってそれはない。そういうケアも、今では機械がしてくれているからだ。なのに眩暈の頻度はここ数日で多くなっている。そして夢の回数もだ。同じ夢ばかりを繰り返し見る。どこかのビルの一室で繰り広げられる死闘。データでしか見たことのない『戦慄の魔術師マジシャン』と戦い、敗北する夢だ。同時に意識の底に芽生える大きな殺意。木戸宗家の血を滅ぼし、2つに分かれたそれを1つにせよとの言葉が日を増すごとに増えていた。それは自分の中に残る百零びゃくれいの怨念なのだろうか、それとも、木戸無双流の怨念か。左右千は再度かぶりを振り、ウラヌスの腕から離れるとそのまま自室に戻った。それをじっと見つめるウラヌスはあまり時間がないかもしれないと漠然と感じている。早くしなければ、そう思うウラヌスが天空の動向をチェックした。幸いにも今日は北海道まで出払っており、彼の体内に埋め込まれたGPSもまた正常に作動している。出来損ないだからではなく、諜報部だから埋め込まれているGPSは不測の事態に対応するためのものであり、実行部隊であるウラヌスたちには内蔵されていない。だからウラヌスはそこを出ると空中に舞い上がり、約束の場所へと飛行を続けたのだった。



そわそわするのはこれがデートだからだろうか。天音は約束の時間の15分前からそこに立ってその人物を待っていた。日差しは門の屋根の下のために当たらないが、気温のせいで汗が止まらない。一応女の子らしい格好をしてきた。ワンピースを着るなど何年ぶりのことか。アピールのつもりでもなんでもない、女の子としての自分を見せたかっただけだ。だが効果はてき面であり、門から出てきた翔はその姿を見て目を丸くし、それから小さく微笑んだ。


「物凄く珍しい格好だね?」

「今日はそういう気分だったんで」


天音はいつもの調子でそう言い、翔はにこやかに微笑む。その微笑みを見ても少しの照れしか出ない自分を自覚しつつ、今日の目的地であるショッピングモールへと移動を開始した。


「仕事、大丈夫ですか?」

「モデルの仕事は不規則だからね。今日はお休みだよ」


横顔を見れば女性にしか見えない綺麗なその顔立ちに少し頬が赤くなった。だが以前のようなドキドキは激減している。やはり、そう思う天音は会話を途切れさすことなく駅に到着した。車ではなく電車を希望したのもまた天音だ。何故かそうしたいと思い、翔もまた了承している。


「この間も珍しい格好だと思ったけど、今日も・・・・心境の変化でもあったのかい?」

「まぁ、少し」

「ほぉ」


小さい頃から男の子のような格好を好み、スカートなどはあまり履かない天音を知っている。蹴り技を出しにくいから、それが理由だった。今日は自分と一緒だから蹴りを出す必要もない、だからだと思う翔はもうそれを気にしなかった。


「でも天音ちゃんからデートの誘いなんて何年振りだろうね」

「中学1年の時が最後ですね」


当時のことは今でもはっきりと覚えている。暇を持て余していた天音が近所のコンビニに行こうとして翔と偶然出会い、そのまま海へドライブに行ったのが最後だ。あの時は緊張しまくりでどういう会話をしたのかも覚えていない。


「翔さんは彼女、できました?」


電車に乗り込み、空いている席がないために並んで立つ。掴んでいる吊皮が電車と同じに規則的に揺れているのを見つつそう質問を投げた。


「なかなかね・・・芸能人は怖いから、一般人がいいけど出会う頻度も少ないし」


苦笑する翔は周囲の注目を浴びるほどの美形だ。あのモデルのショウだと気付いている者も少なくないだろう。自分を翔の彼女だと勘違いし、写真を撮られてネットに挙げられる可能性もあるがそれはお互いに気にしていなかった。事務所の人間も天音のことは知っているし、モデルにスカウトしたほどだ。それに天音は陸上で有名なこともあって、ショウと幼馴染というプロフィールも知れ渡っている。


「難しいものなんですね」

「そうなんだよね。もしこの先出来ないなら、もう天音ちゃんを彼女にしちゃおうかなぁ」


思わずドキッとするが、それが冗談だと分かっている。だから天音はわざとその言葉に乗っかった。


「嬉しい!私は翔さんのお嫁さんになるのが夢だったから」


瞳をうるうるさせる天音を見て明らかに動揺する翔が珍しかった。いつも人の2手3手を読み取って戦うスタイルの翔が今の天音の意図を読み切れていない。だから天音は小さく微笑んだ。出し抜けたことが嬉しくて、動揺した翔の本心が理解できて。


「あ、いや・・・・冗談、だったんだけど、ね」


しどろもどろになる翔に微笑み、その腕を2、3度軽く叩く。


「こっちもですよ!」

「なぁんだよ、もう」


心底安心したような顔をした翔を見てズキンと心が痛むものの、思ったよりもダメージが無い。それはそうだとわかっているからか、それとも既にあきらめがついていたからか。そうしていると目的の駅に到着し、2人は電車を降りた。ここでサングラスをかける翔だが、やはり芸能人だけあって人目は気になってしまう。それに翔の元カノは今をときめく大型アイドルなのだから。


「腕組んでもいいですか?」

「いいよ」


そう言われた天音はにこやかにしつつ腕を組んだ。小学生の頃はよくこうして腕を組んで歩いたものだ。何も考えず、ただ純粋に好きな人とこうできていた。なのに今は違う。ドキドキもあまりなく、優越感すら感じなかった。実際に客観的に、冷静に自分の気持ちに向き合えばこうも簡単にそれが知れたのかと心の中で苦笑が漏れる。やはり自分は憧れていたのかもしれない。佐々木翔という、芸能人のショウの彼女になるということに。恋愛の憧れや妄想を当てはめていただけなのかもしれない。その後はウィンドウショッピングを楽しみ、たまたま入ったアクセサリーの店で安いネックレスを翔が買ってくれた。嬉しかったものの、どこか寂しい気もしている。それは翔の態度が気になる子にプレゼントをする風ではなく、妹に買ってあげている風だったからだ。やはり自分は翔にとって妹なのだ、そう思えた。けれど悲しくはない。むしろせいせいしている。はっきりそれが知れたから、今までは知ることが怖くて逃げていたせいでわからなかったことがわかったから。だから天音は自覚した。自分は明斗を好きなのだ、と。



一通りプールを楽しみ、流れるプールから普通のプールに移動した。紅葉はいつも以上にはしゃぎすぎたのか疲れが出てプールサイドで一休みをし、時雄と里奈は浅めのプールで相変わらずいちゃいちゃしていた。天都は大人用のプールに浸かり、その様子をプールサイドに腰かけた三葉が眺めている。天都の体は見事に引き締まっている。さほど厚みは感じないのに胸筋はしっかりと発達しているし、腹筋も割れている。逞しい上腕も、やや太い太腿も武術を会得している者といった雰囲気が出ていた。そんな風にしげしげと見ていたせいか、その視線に気が付いた天都が三葉の横に来て、プールサイドの壁にもたれるようにしてみせる。


「入らないの?」

「入りますよ」


そう言い、ザブンと足から勢いよく中に入る。微笑む天都に笑みを返す三葉は天都が差し出した手を戸惑いながら掴んだ。そのまま手を引かれてプールの中ほどに移動する。


「小さい頃は、こういうプールでも技の練習をしたんだ」


天都は三葉の手を離し、ぐるっとプールを見わたしながらそう言う。水の抵抗の中で蹴り技の練習などをした。重い足を振り上げる筋力をつけるために。


「誰かを守るために技を習うなんて馬鹿げてるって思ってた」


本音だ。自分が強くなっても、誰かを守れる保証などない。常に傍にいなければ好きな人も守れないのだから。


「近くにいても守れない男もいるけど」


苦笑し、そして天都は水面を見つめた。太陽を反射して輝くそれはキラキラと輝いて眩しいが、美しいと思える。三葉はその言葉に困った顔をし、それからそっと天都の腕に触れた。


「どうして私は助けたの?」


敬語ではない言葉遣いがこそばゆかった。


「助けたいと思った。何も考えず、ただやらなきゃって・・・・七星ちゃんは助けなかったのにね」

「やっと肯定されました」


その言葉に小首を傾げた。七星を助けず三葉を助けた事実、誰に聞かれてもそれをぼかしてきたそれを認めてしまった。天都は罰が悪そうにし、三葉は小さく微笑んでいる。


「うん、認める。君を助けたのは僕だ」


はっきりそう言われたことが嬉しい。だから三葉は嬉しそうに笑ったのだ。


「認めなかったのはね・・・・それは・・・」

「理由はいいです。ただ、認めてくれた、それでいいです」


そう言う三葉のそれが本心だとわかった。その笑みが、口調がそれを理解させた。


「瀬尾さんは不思議な子だね」


そう言うと天都は水面に浮くように足を伸ばした。耳まで水に浸かるが、浮力で体が浮いている。そのまま右足を大きく蹴るようにすれば、ぐるんと体が水中で一回転した。そして水面から顔をだし、手で水を拭う。


「不思議って?」

「天然なのかと思えば、そうでもないし・・・・僕が家族以外で自然でいられるただ1人の人かもしれない」

「それって、家族みたいってことですか?」

「そうじゃなくって・・・・君になら全部をさらけ出せそうってことかな」

「全部?」

「そう、全部」


そう言って笑う天都に首を傾げる。言いたいことがよくわからなかったからだ。だが天都は違う。三葉には素直に全部を言える気がする。自分の抱えているもの、全てを。それでいて全部を認めて包んでくれそうな気がしていた。漠然とそう思う。


「だから、これからは瀬尾さんにはまっすぐに向き合う」

「今まではまっすぐじゃなかったってことですか?」

「誰に対しても、まっすぐじゃなかった。自分にも」


天都は薄く微笑んで三葉を見つめる。その表情にドキドキしつつ、三葉はそっと天都から視線を外した。恥ずかしいからではない、それは間違っていると思ったからだ。何が間違っているかはわからないが、そう思う。


「僕はね、自分が怖いんだ。でも、その怖い自分と向き合うよ。僕の全部を受け止めてくれそうな人がいる、それがわかったから」


それは決意であり、そして想いだ。瀬尾三葉という人間だけが自分の全てを肯定してくれる、そう信じられるから。


「よく、わかりません」


困った顔をする三葉を見て、天都は微笑んだ。三葉を好きだという気持ちはまだわからない。だが信じることは出来る。だから天都は自分と向き合う決意を固めた。1人では怖いことも出来そうな気がする。三葉が傍にいてくれるのならば。



「『R計画』は間もなく発動される」


白髪を掻き上げるアイスキューブ・ゴッドワルドは薄く微笑み、カーテンで覆われた暗い部屋を見渡すようにした。ここにいるのは自分と、そしてもう1人だけ。


「『リ・ジェネシス計画』の発動は日本の全てをひっくり返すでしょう」


『ゴッド』率いる特務機関の責任者である桑田良介は何もない大きなテーブルの上に足を投げ出している状態だ。元々30人で会議をする丸い巨大なテーブルだが、今は2人だけ。問題はない。


「過去、それをしようとした福山は失脚した。だが俺は違う。完璧にそして確実に準備をしてきた」

「アレは『キング』ではなく、木戸百零だぞ?」

「そう、ただ忠実な木戸百零。あの百零ではない」


ゴッドワルドの言葉にそう返し、桑田は不敵に微笑んだ。前任者であった福山耀司が計画したのは木戸百零を中心とした異能力軍団による裏社会の統制であった『プロジェクト・ゼロ』だけではない。伝説の男であり、そして地上最強だった『キング』そのものを復活させる『リジェネレイト計画』の発動だった。現に『キング』の全能力を宿した胎児は一番相性の良かった女の腹の中にいた。彼が再誕すれば、それこそ福山自身が神となって絶対的権力を手にすることができたはずだ。そう、その昔、『キング』を飼うことで圧倒的なまでの地位を手に入れた猪狩惣一郎いかりそういちろうのように。だれもが彼に憧れ、そうなりたいと思った。表でも裏でも権力を有し、誰も逆らえないほどのバックボーンを持つ存在になりたいと願った。だが福山は木戸百零にその野望を打ち砕かれた。だから自分は下手を打たない。木戸百零のクローンを作り、遺伝子を改良して疑似的な『キング』を作り出したのだ。ただ自分に、任務に忠実な最強無敵の番犬を手に入れた。あとは自分の権力を絶対的にするのみだ。そのための『R計画』なのだから。


「間もなく、左右千の中の百零が目覚める。過去の記憶と戦いの歴史、そして左右千としての記憶と戦歴が完璧に1つになり、完全無欠のマシーンが生まれる。木戸宗家の血を絶やし、その血を1つにするという欲求が叶ったその時にあいつは完全なる殺人マシーンになる。ただ俺に忠実な、ね」


遺伝子に組み込まれた百零の全てを欲望のままに実行させる。それに満足した結果、百零と左右千は完全に1つとなって完成するのだ。そう、すべては遺伝子が決めたこと。桑田は微笑み、ただ覚醒の時を待つ。伝説の『魔獣』も『ゴッド』には勝てないだろう。天音を残して木戸の血はなくなり、木戸天音を介して新たなる『ゴッド』が誕生するのだ。桑田による日本の統制、それは『ゴッド』と、その子供によって死ぬまで続く至福の時であった。



呼び出された麟は持ってきたノートパソコンからウラヌスが盗んだデータを閲覧していた。細かいデータまでを隅々まで見て、そして顎に手をやる。やはりウラヌスが言うような細胞崩壊を起こすような要素などどこにもなく、調整槽の中の液体も細胞を活性化させて疲れやストレスを取り除くための処置でしかない。つまり、万全の態勢を常に維持するためのもののようだ。遺伝子的に改良されているとはいえ、それが原因で細胞の崩壊はありえない。失敗作となった天空ですら、実力以上のものを発揮しようとすれば細胞が過剰に分裂して組織崩壊を起こすものであり、普通に生活する分には何ら問題がないレベルだ。ただ、寿命はかなり短いだろう。それはクローニングの際に起こった寿命を司る機能の不全からきたものだ。


「やはり君は普通の人間と変わりない。その能力以外はね」

「そうか」


感情がないのも遺伝子改良のせいかと思うが、そうではないらしい。ずっと抑制された結果だと、環境のせいだと推測された。それよりも気になるデータがある。


「『ザ・ワン』に施された処置・・・これはなんだ?」


ウラヌスのデータにあった『ザ・ワン』こと左右千の項目にある見たことのない言葉が並んでいる。そのデータを深く見て、そして嫌な予感が全身を走る。そんな燐を見るウラヌスは何も言わずに向こうから言葉を発するのを待った。


「何か細工をしたのか?でもどうやって・・・」


遺伝子工学的にありえない処理を施したと考えるのが妥当だろう。どちらかといえば脳科学の部門だろうか。詳細はわからないが、左右千だけに何か特殊な処置がされているのは間違いない。


「君は普段通りに行動してほしい。ただ組織内部で不穏な動きがあった場合、すみやかに逃亡を」

「わかった」

「多分、近いうちに動くだろう・・・いい方向か、悪い方向か、どちらかに」


嫌な予感は膨れるが、だがこれで証明された。明斗の中にある木戸天音への恋心は遺伝子の、木戸百零の亡霊のせいではない、あくまで明斗の感情だ。だがどう言えばそれをわかってくれるのかが問題だ。昨日からずっと塞ぎ込んでいてまともに話も出来ていない。何故自分が生み出されたのか、何故今の生活があるのか、ちゃんと説明したいが今の状態では無理だと思う。


「とにかく、お互いに慎重に」


そう言い、2人は頷きあった。



買い物らしい買い物もせず、2人はフードコートにいた。といってもテーブルの上に並んだドーナツを食べているだけの状態である。話は弾んでいた。学校でのこと、仕事のこと。そしてお互いの流派のことも。翔は何度も天都や天音たちと対戦し、全てにおいて不敗を誇っている。それこそ、周人にも勝利したその腕前はまさに最強といえる。柳生十夜も敗北したこともあって、この世代では敵なしの状態だ。だから天音の目標は翔だった。翔に勝つために腕を磨き、身体を鍛えている。


「翔さんに勝つのが目標だけど、正直しんどいや」

「おいおい、木戸の血が泣くぞ?」


苦笑交じりにそう言う翔は戦いとなると人が変わる。鬼だと、天都がそう例えたほどに。


「翔さんに勝てる人間なんていないでしょう?」

「いるさ」

「・・・・・嘘だ」


じとっとねめつける天音に苦笑を濃くし、翔はオレンジジュースに突き刺さったストローを指で挟む。


「いる。俺はそいつが怖い。そいつの全てが覚醒するのが怖いんだ」


その言葉にその対象が誰を差すのか理解できた。だからか、天音もアップルジュースに刺さったストローに口を付けてそれを飲みながら上目使いで翔を見やる。


「親父が言ってた・・・俺は完成型の人間・・・十夜君は覚醒型だって。確かに十夜君の腕前は凄かったし、敗北したことで覚醒してさらなる強さを手に入れた。負けた自分ときちんと向き合って、そして高みに辿り着いた」


翔の言葉に頷く。確かにそうだ。十夜はその頃、まだ怖くなかった。ただ強いだけで天音でも五分以上に戦えたのだから。だが翔に殺されそうになり、敗北して覚醒した。鬼神のような強さを発揮しだしたのはそれからだった。


「天音ちゃんは発展型だろうね。徐々に強さを増し、発展することでさらなる高みに向かう」

「そうかも」


だから空手をし、陸上をしている。他のスポーツをすることで違う筋肉や瞬発力を身に着けようとしているのも自分を発展させるための手段にすぎないのだから。


「じゃぁ、あいつは?」


そっとそう質問する。翔は一口ジュースを飲み、それからテーブルの上で手を組んだ。指を絡ませ、そこに力をこめるのがわかる。


「彼は、覚醒発展型とでもいうのかなぁ」

「覚醒発展型?」

「まぁ、覚醒したところを見たことないけど、そんな気がする」


その言葉に納得できた。そうかもしれない。何故ならば、あいつはまだその本性を見せてはいないのだから。過去に一度、その本性をわずかにだけ見せただけだ。自分に対して、たった1度だけ。


「覚醒し、発展した彼に勝てる気がしなかった・・・だからそうなる前に決着をつけていたんだ。もっとも、彼はその本性を抑え込みながら戦っている。どこか馬鹿にされた気分なのに、それでもホッとしているんだ」


複雑な心境だ。本性を暴きたいと思いながらもそれが出来ずにいる。その恐怖に負けていつもすぐに決着をつけるのだから。


「でも、彼の本性を見た時、俺は普段通り接することができるか不安だよ」


そう言って笑う翔を見れずに天音は顔を伏せた。多分、そうなった時に彼をフォローできるのは自分だけだと思う。周囲が彼を避けても自分はそうしない。血を分けた双子の妹なのだから。


「でもいつか、いつかは戦いたいと思ってる」


翔は微笑んでいた。だから天音も微笑んだ。自然ではなく、無理矢理に。

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