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晴れ!  作者: 夏みかん
第7章
33/52

何度でも 2

夜中の雨が嘘のような快晴が気持ちいい。そのため暑いが、何故かそれも気にならなかった。駅で待ち合わせをしたのは三葉だけで、あとは現地集合になっている。先に電車に乗ってくる三葉が乗っている車両の場所をラインし、天都がそこで電車の到着を待った。ウキウキしている自分を自覚せず、ただ何の返事もしなかった明斗のことが気になっているのは理解していた。何かあったのかと思うが、家の事情で部活も辞めたのだ、聞くのも勇気が必要になる。今夜にでも電話すればいいとし、今はプールを楽しむことだけに集中した。そうしていると電車が到着する。ドアのすぐ前にいた三葉が笑顔で手を振る姿にドキッとしてしまう。いつもと同じ髪形で、薄い黄色のワンピース姿だ。昨日が特別だったというような格好に天都は嬉しい自分をちゃんと自覚していた。


「おはようございます」

「おはよう。雨でどうかなるかと思ったけど、晴れたね」

「普段の行いですかね?」


そう言って笑う三葉は普段と変わりがない。昨日は2人きりで小旅行したというのに、変化は微塵もなかった。そういう三葉にも好感を得る。


「お母さんがありがとうって伝えて欲しいって」

「どういたしまして」

「あと、また何かあればよろしく、だそうです」


その言葉に笑みが浮かぶ。その言いようからしてまた何かしらのイベントを計画しそうだと思ったからだ。だがそういう京子を嫌いにはなれない。むしろ好きなぐらいだ。


「今日は大人しい格好だね」


そう言われた三葉は目をパチクリさせて自分を見るが、そのあとで首を捻る。そんな三葉を見た天都が不思議に思ってその疑問を口にした。


「だって昨日は凄くなんか露出が多かったし、髪形も・・・」


そこまで聞いた三葉がクスリと笑った。どうやら天都の言いたいことが理解できたようだ。


「昔、今日みたいな格好であそこに行って、暑くて仕方がなかったんです。なのでああいう格好にしました。髪形はそのぉ・・・今日はプールで濡れちゃいますし」


今度は天都が納得する番だ。確かに昨日の格好であれば暑くてもすぐに汗は拭えるし人目も気にならない。髪形にしたって言われればそうだ。濡れればどんなな髪形も同じになる。


「納得した」

「先輩はどっちの格好の私が好きですか?」


そう聞く三葉にドキッとするが、三葉にとっては単純な質問でしかない。そこに深い意味も何もなく、あくまで純粋な感想を聞きたいだけなのだ。それでも困った顔をする天都はしげしげと三葉を見つめる。今日のような女の子らしいワンピース姿も似合っているが、昨日のような普段の三葉にはない露出の多い服装もいいと思っていた。何より、昨日の格好は髪形とも合っていたと思う。


「僕は昨日のかな・・・髪形も似合ってたし、それになんか思い出補正が利いてる感じかも」

「そうですか。昨日の格好は滅多にしませんからね、レアですよ」


そう言って屈託なく笑う三葉に天都も微笑んだ。こういう会話も気持ちがいいし、意識しなくても楽しく話ができている。だからこそ知りたいと思う。三葉の本心を。助けられた恩を返すためにその人の恋を応援する、本気でそう言った三葉の本心を。



雨の影響を受けていないのか、プールの水は綺麗だった。もうすぐ夏休みも終わるというのに相変わらずの人でにぎわっているここは以前に来たG―DOMEである。ワンパターンだと言われそうだが、地元でもここぐらいしかプールはなく、大きさの規模からいけば何度でも楽しめるために飽きはこない。天都は今日も行列を作っている長い滑り台へと目を向ける。七星と滑ったことがもう随分と前の事のように感じている。あの時は楽しかった、そう思っている自分が情けない。もう友達にも戻れないかもしれない、その現実が天都の気持ちを揺さぶっているが、思ったよりも少ない揺さぶりだ。


「木戸君」


そう呼ばれて振り返れば、赤いビキニの紅葉がいた。相変わらずずり落ちた眼鏡を指で元の位置に戻しながらそそくさと天都の腕に自分の手を絡めた。


「滑り台、今日は一緒に、ね?」


顔は普通だが、上目使いでそういう風に言われれば可愛くも見える。だが相手はあの紅葉だ。自分を嫌い、蔑み、そして馬鹿にしていた女。なのにいつの頃からかこうして色目を使うようになっている。もうどうしていいかわからない天都が露骨に困った顔をし、紅葉がうふふと笑うという傍目から見ても異様な2人に三葉が近づいて行く。


「どうしたんですか?」


この時の三葉はどこかムッとしている風に見えた。心理的にそう見えたのかもしれない。それでも天都にとっては軽い修羅場のような感じで背筋が冷たくなる。


「どうって・・・今からスライダーに行くの。2人で、ね?」


そう言い、さらに体を密着させた紅葉に引きつった顔をする。そんな天都をジッと見つめる三葉の目には何の感情もなかった。怒りも嫉妬も、軽蔑すら。逆にそれが怖い。


「その後で私ともお願いしますね?」

「それは無理よ小娘。木戸君は今日、私と楽しむの。ね?」


さらに胸を腕に押し付ける紅葉に何も言えずに引きつり笑いしか出来ない。そんな天都にため息をついた三葉はにこやかな笑顔になって2人を見やった。


「私も男の人と滑ってみたかったんですが、里奈の彼氏とはさすがに・・・でも仕方がないですね。笠松先輩にはかなわないし、諦めます。夏の思い出が欲しかっただけなので」


芝居にしてはリアルだし、だからといって本音とも思えない。だがその言い方に紅葉も悪い気はしなかった。自然すぎたせいか、少しぐらいならいいかと思ったし、天都を好きでそう言っているとも思えなかったからだ。


「まぁいいわよ。一度くらいは」


紅葉に対して彼女気取りかと思う天都は何も言わず、お礼を言う三葉を見つめる。紅葉はそんな三葉に満足して天都に密着するのみで、一瞬だけ冷たい目を天都に向けた三葉の目に気付いていなかった。天都はその目を受けて顔を引きつらせ、その後にこやかに微笑む三葉を見れずに滑り台の方へとぎこちなく顔を向けるしかなかった。そんな微妙な空気を持つ3人の元に、これまた周囲の目すら気にしないバカップルがやって来た。腕を組み、歩きにくそうにしながらやたら密着した2人は今にもキスしそうなほど顔を寄せ合っている。さすがの紅葉も顔を赤くし、三葉は深いため息をつく。天都はそれを羨ましいと感じつつも顔には出さなかった。


「おうおう、そっちも付き合ったのか?」


時雄が上から目線な感じでそう言うが、頷く紅葉と違って天都は全力で否定した。


「んなわけないじゃん・・・なんでかこうなってるの」

「えぇ?照れちゃって!」

「照れてないけどね」


紅葉の言葉にぼそりとそう言う天都に苦笑し、時雄は滑り台を指差す。


「よぉーし!じゃ、まずはアレだ。俺は里奈と、お前は・・・・笠松と、かな?」


腕を振りほどこうとする天都と、それをさせまいとする紅葉が無言で攻防を続ける中、時雄は里奈と顔を見合わせてから三葉へと顔を向けた。


「瀬尾さん、どうする?」

「私は木戸先輩と滑ります。笠松先輩が戻った後で」

「そういうこと!じゃ、行くわよ!」


そう言われて紅葉に引っ張って行かれる天都を見つめる三葉はため息をつき、スライダーの出口に設置された真四角のプールの縁に腰かけた。


「もうちょっとしっかりしてほしいな」


はっきり言えばいいのにと思うが、それが出来ないのが天都なのだろう。だから仕方がないと諦めた。そんな部分も好きなのだから仕方がない。そう、三葉は天都の全てが好きだった。情けないところも、優しいところも。だから、どこが好きかと聞かれても困ってしまう。全部、そうとしか答えられないからだ。どうしてこんなにも好きになったのかはわからない。助けられ、そして偶然にも再会した。きっと助けられた時にはもう恋をしていたのだろう。だから、天都がどういう人物か知っても嫌いになどならず、ただ純粋に好きの度合いが増していくだけだ。だがそれは表に出さない。そう決めていた。そう、天都が七星を好きだと知ったから。それも本気で好きだと気付いたから。だから自分は天都を応援しようと決めた。恩を返すために、あの時にありがとうすら満足に言えなかったその償いのために。自分でも馬鹿だと思う。七星に振られた今がチャンスだというのに。なのに告白はありえない。ただ天都の応援をする、そう決めているから。天都が幸せになってくれれば、それで自分の恋はすっきりできるのだから。何より、天都は自分をそういう目で見ていないのだから。そんなことを考えている三葉を滑り台に続く階段の上から見ているのは天都だ。紅葉は相変わらず天都に密着して幸せそうな顔しているのみでその視線に気づいてはいない。プールサイドに腰かけて水面を見つめている小さな姿の三葉を見つめる天都は小さなため息をついた。


「ちゃんと本心、聞き出さないと、な」


心の中でそう呟く。三葉の本心、それを聞き出すのが今日の目標だ。今の自分はまだ三葉とは付き合えない。心の中に七星の存在が残っているから。けれどそれはもう随分と薄れてきている。しかも急速に。昨日の小旅行で知った自分の気持ち。三葉といると自然でいられる。変な妄想も期待もなく、ただ一緒にいて楽しいとだけ思えた。七星の時とはまるで違う自分に気付いている。だから知りたいのだ。三葉の本当の気持ちを。それを知って三葉と正面から向き合いたいと思う。そう、気付き始めている三葉への気持ち。それが本物なのかを確かめるために。そしてもう一度、三葉とちゃんとデートをしようと考えていた。三葉が自分を好きで、自分も三葉に惹かれ始めている。そんな状態でデートをして、そしてそれでもいつもと変わらないのであれば、きっと自分は三葉を選ぶ。天都は小さく微笑んだ。何故微笑んだかもわからずに。


「ささ、到着だよぉ!」


その紅葉の言葉に我に返る。考え事をしていたせいか気が付けば次が順番になっていた。隣のレーンでは時雄と里奈のカップルが相変わらずいちゃいちゃしていた。


「僕が前でいいかな?」

「うん」


自分から密着したくなかったこともあってそう言うと、あっさり了承した紅葉は天都にこれ以上ないぐらい密着しようと考えていた。自慢のボディで悩殺する、それが今日の目的だったこともあって、準備に入った天都が座るとすぐに背中に胸を押し付けるようにして天都のお腹の上で手を組んだ。


「怖いかもぉ」


わざと耳元でそう言うが、天都は無視だ。そのまま係員の合図で2人は滑り、そうして勢いよくプールに突入する。水面から顔を出す天都の横で紅葉も顔を出すが、眼鏡がないことに気付いてあわてて潜っていく。無事眼鏡を見つけた紅葉を見届けてからプールを出ると座ったまま微笑んでいる三葉の横に立った。水に濡れた髪形のせいか、いつもと違ったその顔にドキッとしてしまう。そんな天都が髪を掻き上げてからそっと右手を差し出した。


「行こう」


驚きつつもはにかんだ笑みを見せた三葉がそっとその手を掴む。


「はい!」


とびきりの笑顔を見せた三葉を引き揚げながら、天都も口元に淡い微笑が浮かぶのだった。



「あれから、結城先輩とは何も?」

「ないよ」


昨日の今日で何かあるわけでもなく、さっきよりも増えた行列に並びながらそんな会話をする。七星からはラインも何も来ず、かといって天都からするはずもなかった。きっとこのまま新学期まで何もなく、学校で会ったら会ったで気まずいのだろうと覚悟はしていた。しかし、何故か悲壮感はない。


「連絡、しないんですか?」


言いにくそうにそう聞く三葉に苦笑を返し、天都は日陰のせいかひんやりした手すりにもたれるようにしてみせた。


「してどうなるでもないし・・・それに、もう振られたことで心の整理は出来てる」

「本当に?」

「何度告白しても、きっと同じだと思う。それに・・・・」


そこで言葉を切った。それから強い決意をし、三葉の目を見つめる。


「振られた直後なのに、今は、気になる人がいるから」


その目を見た三葉が目を見開いて顔を赤くする。


「正直、ショックなはずなのに・・・なのにあまりそう感じない。そうなるってわかってたからかもしれないけど・・・僕は、最低かもしれないけど、気になるんだ、君が」


はっきりそう言われたせいか、ますます赤くなった三葉は水着以外の部分が朱に染まっていた。この反応からしても、自分を好きでいることは間違いない。


「君を知りたいって思ってる。君という人がどういう人なのか、知りたい。だから、夏休みの間にもう1度どこかに遊びに行かない?」

「で、でも・・・」


その申し出は嬉しい。けれど、自分は天都の幸せのために頑張ると決めている。自分と天都が付き合うとこはそれこそ妄想の中でだけで、現実にしようなどとは微塵も考えていなかった。だから戸惑う。


「わ、私を知って・・・・それで、どうするんですか?」

「好きになったら告白するし、そうならなくても友達ではいたい」

「う・・・」


紅葉に対する煮え切らない態度とは裏腹に、しっかりと答える天都にドキドキしてしまう。物凄く嬉しいが、自分と付き合うことが天都の幸せになるのかがわからない。恋愛に疎いのか、鈍いのか、どうしても自分よりも天都の気持ちを優先してしまっている。


「だから、もう一度デートしよう?」

「は、はい」


そう返事をするしかなかった。変に意識して変な風にならないかが心配だが、正直言って嬉しかった。天都から誘ってもらえるとは思っていなかっただけに。けれど、七星に振られて間もない天都の変化に戸惑ってもいた。あっちに振られたからこっち、とは思えない。少なくとも自分の知る天都はそういう人間ではないはずだから。


「でも、なんで私を?」


『気になったのか』、そう聞こうとしたが、自分を見つめる天都の瞳のせいでそこまで言うのが精一杯だった。天都はそんな三葉に苦笑し、そして自分の本音を口にした。三葉には言える、そう思う自分に後押しされて。


「僕の全部を見ても、瀬尾さんはきっと笑ってくれるって思えた。七星ちゃんは、きっと耐えられない」


その言葉の意味がわからなかったが、以前の話を思い出す。天都の中に棲んでいる獣の話。本性を見せた際、誰もがドン引きをするといったあの話を。


「もちろん、気を使って笑ってくれるってことだけど」

「わからないですけど、そうかもしれません」

「以前、父さんから聞かされた話がある。遠い遠い親戚にあたる人に再会した時に聞いたんだって・・・その人は人殺しの技で悪い人を倒した。殺す気で、本気で、でも大事な人を守るために仕方なく。結果、相手は死ななかったけど、親友には恐怖の目で見られたそうだよ。でも、その人の彼女だけは笑ってお礼を言ってくれたって。本当に純粋に、ただ助けられたことに対してお礼を言ってくれたって・・・だからその人しかいないって思ったんだって。その話を聞いて、七星ちゃんどころか、他の誰でも僕の本性にドン引きするんだろうなって」


確かにそう思った。現にそうなった場合、それは事実になるだろう。そう三葉を除いて。そんな気がする。


「私は一度先輩に助けられて、先輩を怖いって思いましたからね、耐性ついてます」

「あの時の僕とは比較にならないと思う。けど、もしかしたらってね・・・そう思った自分の根拠を知りたいし、だから君を知りたいって思う」

「そういうことなら、お付き合いします。行き先は先輩が決めてくれていいですから」


そう言い、微笑む三葉に天都も微笑んだ。三葉にすれば品定めでもされるのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。ただ、自分の気持ちと三葉の内面を知りたい、その想いだけを感じ取ることができたから了承したのだ。その結果がどうなっても後悔はない。今までと同じか、さらに進んだ関係になるかだけのことだ。そんなことを考えていると順番が近づいてくる。あと3組待てば自分たちの番だった。


「どっちが前?」

「えーと、私でもいいですか?」

「いいよ」


そう言い、順番が来たところで三葉が先に座った。その後ろに天都が座って三葉の肩に手を乗せる。その温もりにドキドキするが、三葉は勇気を振り絞って天都の手を取るとそのまま自分のお腹の上に持ってきた。


「しっかり掴まっていてください」

「わかった」


苦笑交じりの声に頷き、三葉が赤い顔を正面に向けた。天都は三葉の腹の前で手を組んだ。そのまま少しだけ体を密着させる。そうして係員の合図で2人は滑り出した。結構なスピードに思わず声が出る三葉とは違い、天都は笑っている。そうして水中に突入した2人は水の中でお互いに微笑み合った。心地がいい、そう思う天都は三葉に惹かれている自分を自覚するのだった。

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