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晴れ!  作者: 夏みかん
第6章
27/52

Love so sweet 1

全国チェーンで展開しているこのコーヒーの店は外資系に負けまいと日本のコーヒー会社が起ち上げたものである。独自の開発技術によって日本人が好む味にしてあるせいか、ここ数年の展開ながらかなりの規模になりつつある。ケーキも有名店と提携していることもあって充実しており、女性を中心に人気を得ていた。だからか、それは日本人のみならず外国人にも受け入れられているのかもしれない。そう思う木戸天都は目の前に座ってアイスコーヒーを飲んでいる金髪の美女を見つめていた。突然コーヒーを奢れと声をかけてきたこの金髪の女性は自らをウラヌスと名乗ったものの、どうして自分を木戸天都だと知っているのかは全く話そうとしない。質問を投げても完全無視の状態であり、時々値踏みをするような目で自分を見つめてくるだけだった。その目が異様に冷たいのもまた印象的だ。


「でも、なんで先輩の名前を?もしかして、先輩って外国じゃ有名人、とか?」


そっと天都にそう耳打ちをする隣に座った瀬尾三葉の言葉に困惑した表情を浮かべ、天都はただ静かに首を横に振るしかなかった。だいたい、外国で有名であったとしても自分ではわからないし有名になるようなことはしていない。妹の天音であればまだわかるものの、それでも何故この美女が自分を知っていたかは見当もつかない状態だった。


「あの・・・」


そっと声をかけること3回目、ウラヌスはストローをくわえたまま上目使いに天都を見やった。すごく美人でドキドキしてしまう。整った顔立ちは幼さを残すものの、それでいて大人の色香も持ち合わせている。隣に座っている三葉もかなり可愛い系だが、それとはまた違った系統の美しさを持っていた。だからか、少し見とれてしまった天都にムッとした表情になった三葉が肘で天都をつつく。ハッとした天都は目だけで三葉を見たが、わざとらしい咳払いをして再度ウラヌスを見やった。


「コーヒー奢ったわけだし、なんで僕を知っていたか教えて欲しいなぁ・・・って」


気弱な言い方にため息をついた三葉だが、冷たい目をジッと天都に向けるウラヌスを見て寒気が走るのを感じる。まるで今から天都を殺そうとしているような目に本能が恐怖を抱いているのだ。そしてそれは天都も感じ取っていた。だが天都は普通にウラヌスを見つめている。怯えもなく、恐怖もない。あるのはただ戸惑いだけ。だからウラヌスはそんな天都に言い知れない何かを感じていた。この気弱そうな優男の奥底に眠る何かに怯えている、そんな自分を自覚しているのだろう。


「キド・アマトを知っている・・・ただそれだけだ」


理由のない返事にもうガクッとなるしかない。きちんとした日本語を知らないからだろうか、まったく話にならない。


「知っているのはどこで知ったんですか?」


ウラヌスからの殺気を受け止めながらそう質問する三葉を凄いと思う。そう、ウラヌスからの殺気はまったく消えていない。じっと三葉を見つめるその視線も突き刺さるような殺気を込めているのがわかるだけに、天都は三葉に対する認識を少しあらためた。気弱な部分もあり、それでいて積極的な部分もある。かといって前には出ず、常に数歩下がった位置で全体を見ることが出来る子だと思っていた。そんな子がこれほどの殺気を前にした相手に質問を投げるとこが出来るのが驚きだ。芯が強い、そう実感させられた。


「私の所属している会社ではキド・シュートは有名だ。だから、その息子のキド・アマトも知っている」


ここでようやく理由が聞けた2人はホッとした顔をしてみせる。あちこちに顔が利く父親の周人は確かに有名人だ。だから今のウラヌスの説明も納得できていた。でも顔まで知っていたのは意外でしかない。


「僕の顔、知ってたんだ?」


頷くだけだが反応があるだけましだと自分を納得させる。とにかく、これで少しすっきりできた天都は氷が解けて少々水っぽくなったコーヒーを一口飲んだ。そんな天都をじっと見つめるウラヌスは目の前の少年の監視対象ランクが間違っていると確信していた。今の天都の監視対象ランクはB、つまり注意して監視せよ、なのだ。対して天音のランクはA、要注意なので監視は怠るなとなっている。ちなみに周人はSランクであり、その動向は逐一監視されている。


「先輩のお父さんって有名人なんですか?」


三葉がストローでくるくるとコーヒーをかき混ぜながらそう質問を投げ、天都は三葉の方に顔を向けつつ頷いた。大企業カムイモータースの常務取締役であり、池谷工場長でもある周人はアメリカの大企業であるクロスフォード社と私的な関係もあり、また日本有数の家電会社であるブラッケイプとも交流がある。アメリカやフランス、ドイツにも友達や知り合いがたくさんいるし、政財界にも顔が利くほどの人間でもあった。だが、それ以上に有名なのはその昔、『魔獣』と呼ばれていた過去にある数々の武勇伝だろう。天都も知っているその過去は凄絶であり、また憧れでもある。


「まぁ、大きな会社に勤めていて、そこの常務兼工場長なんだ、だから」

「へぇ・・・大きな会社って?」

「カムイだよ」

「・・・凄い」


やはりそのネームバリューは相当のようだ。三葉は感心したような顔をしつつコーヒーを一口飲んだ。するとその時、携帯が軽快な音楽を奏でてラインの受信を告げる。あわてた三葉はすぐにそれを消し、じっと自分を見つめているウラヌスに小さく謝ると携帯を操作していった。


「先輩、明日、みんなでお祭りに行きましょうって来てます。プールに行ったメンバーみたいです」


そう言われた天都もまたスマホを確認すれば、確かにメールが届いていた。発信元は三葉の友達である小野メロディからだ。マナーモードにしたままだったために気付かなかった天都が内容を確認している中でも既に何件かの返事が飛んできている。


「どうしますか?」

「祭は行きたいね」


そう言って微笑んだ時だった。


「私も連れてけ」


感情のない声に2人がそっちを向けば、じっと天都を見つめるウラヌスがいた。


「え・・・と・・・君も?」


その言葉にコクリと頷き、ウラヌスはコーヒーがなくなったために水を飲んだ。天都と三葉は顔を見合わせて複雑な表情を浮かべるしかない。


「僕たち、池谷の神社のお祭りに行くんだけど、来れる場所に住んでるの?」


池谷の神社は結構な大きさを持っており、毎年この時期と春先の年2回のお祭りがあるのだ。かといってそう有名でもなく、ただの地元のお祭りでしかない。ウラヌスがどこに住んでいるのかも知らない状態ですぐにOK出来るはずもなかった。


「問題ない」

「・・・こっちは問題ありだけど」

「何故だ?」

「何故って・・・・」

「人種差別だな」


それは大げさだと思う天都がため息をつく中、三葉は苦笑しつつも頷いてウラヌスを見やった。


「じゃぁ、行きましょうか。携帯持ってますか?」


驚く天都をよそににこやかにそう言う三葉に対し、ウラヌスはスマホにしては少し大きいパッドのようなものを取り出した。そしてそれを操作してアドレスを表示させると、どうやったのか画面をスライドさせただけで三葉の画面にそれが表示される。


「それだ」


唖然とする三葉だが、我に返るとそれを登録する。そしてそのアドレスに返信をしてアドレスの交換は終了した。もっとも、この行為で三葉の個人情報、そして携帯に登録された友人たちの個人情報もウラヌスの端末にすべて登録されたのだが。


「時間が決まったら連絡をくれ」


そうとだけ言い、ウラヌスはおもむろに立ち上がると天都を見て、それからさっさと店を出て行った。もうただ呆然とするしかない2人はウラヌスの背中を見送ることしか出来ず、そのあと顔を見合わせて複雑な表情を浮かべるのみだった。



電車に乗っても話題はウラヌスのことばかりだ。謎が多いというか、謎しかない美女の出現はあまりに衝撃的過ぎた。結局、ただ本当にコーヒーが飲みたかったとしか思えず、それすらも意味不明なのだから。それでも明日の祭には参加するので、そこで何かしらの謎が解ければとは思う。天都にしてみれば、まるで自分を調査するかのようなあの目が気になって仕方がない。そしてあの殺気。不可解というよりはおかしいことだらけだ。


「ところで、今日は結城先輩とデート、だったんですか?」


唐突に変わった話題にドキッとするが、三葉の態度や口調に変化がないために頷いてみせる。どこか罰の悪さを感じるのは何故だろうか、天都の方が若干の動揺を見せていた。


「まぁ、いろいろあって・・・七星ちゃんの気分転換に付き合ったっていうか、なんていうか」


素直にデートだったと言えばいいのに、何故こんなにも言い訳じみた言い方しかできないのかと自分を嫌いになる。相手が好意を示してくれている相手だからかと思うが、それだけではない何かがそうさせているような気もしていた。


「そうなんですか」


納得したのか、小さく微笑んでいる三葉を見れず、天都は地下鉄ゆえに窓に映る自分の暗い顔を見つめていた。結局、自分勝手な性格だとわかっている。七星が好きでいながら告白もせず、好意を寄せられている三葉を断る勇気もないのだから。


「長野の件は月曜日になりました。構いませんか?」


明日が金曜日で祭り。それ以降は完全に空いている。盆休みは周人も休みとはいえ、田舎にはもう帰省しているので母親の由衣の実家に行く程度だろう。天都は頷き、そして三葉から告げられた朝7時に駅でと言う言葉に再度頷く。


「すみません、母の勝手な提案で」

「いいよ、暇だし。軽井沢には一度行ってみたかったからね」


そう言って微笑む天都に少し頬を赤くし、三葉は微笑んだ。その顔にドキッとし、そして何かしらの熱さが体の中を駆け巡る。


「明日は、みんな浴衣なのかな?」


ポツリとそう呟く三葉に視線を戻し、天都は揺れる電車に逆らうように体を扉にくっつけた。


「天音は着るかも。去年も着てたし」

「んんー・・・・そうですかぁ」


困ったような表情と口調から、三葉が浴衣を持っていないと判断できた。


「別に絶対に着なくちゃいけないってわけじゃないし、いいんじゃない?」


その言葉に顔を上げる三葉の表情が緩んだ。


「友達もみんな着てくるとは限らないしさ」

「でも、男の人はそういう姿も見たいでしょ?」

「まぁ、多少は」

「先輩も?」


恐る恐るそう聞く三葉に天都は返事をためらった。だが、すぐに素直な自分の意見を口にする。まっすぐな三葉の目に応えるために。


「本音を言えば見たいと思うよ。普段から見られるものじゃないからね」

「特に結城先輩のを、でしょ?」


悪戯な感じで微笑む三葉に苦笑し、素直に頷いた。心が少し痛むものの、それは想定内なので笑顔は崩さない三葉だった。そんな三葉の心情は読み取れた天都は淡い微笑を浮かべてガラスに映る自分へと顔を向ける。


「七星ちゃんの浴衣姿は何度か見てるけどね。でも、まぁ、そういう年に一度の姿は新鮮だし、魅力的だと思う。でも、僕は似合っていない浴衣の女の子は見たくないなぁ。金髪に浴衣とか、それこそウラヌスさんみたいな外人なら魅力もあるんだろうけどね」


それはフォローではなく本音だ。変なメイクをした浴衣の女性は見ていてげんなりするほどだった。


「だから、特別だとは思わないよ。瀬尾さんの浴衣姿は見たいけど、明日、どうしてもってわけじゃないし」

「うん」


小さく頷く三葉はそっと天都の袖を掴んだ。浴衣を持っていない三葉の心情を考えての言葉なのか、本当に本音なのかはわからない。それでも、その優しさは十分三葉に届いていた。お祭は今年だけではない、友達関係もすぐに終わるものではない、そう言われた気がしたからだ。


「浴衣に屋台の食べ物のシミつけたら、大変だろうしね」


最後にそう言い、笑みをそのままに三葉を見つめる。その淡い微笑に見とれてしまった三葉は掴んでいた袖をさらにぎゅっと力をこめて握るとピタリと天都に寄り添うようにした。


「いつかは見せたいです、先輩に、私の浴衣姿」

「うん、いつか、ね」


そう言って微笑む天都に寄り添いつつ、三葉は困ったような表情をしている自分を見られたくなくて顔を伏せた。いつか、そんな日が来たとき、自分と天都の関係はどうなっているのだろう。今のままか、恋人同士か、それとも、もう切れてしまっているのか。不意に七星と寄り添う天都の姿を想像してぎゅっと目を閉じた。どう考えても自分と天都との未来は悪い方にしかいかない。現に今日、天都は七星とデートをしていたのだから。


「月曜日、晴れるといいなぁ」


そう呟く天都の方を見た三葉は思ったよりも近いその距離に思わず赤面してしまう。


「夏休みの遠出って天音の応援で大阪に行ったぐらいだから、楽しみなんだ」

「私も、です」


天都と2人で小旅行なのだ、楽しみすぎる。だから、三葉は暗い未来を想像しないように心掛けた。そうしなければ全てが終わってしまう、そう考えながら。でもそれは自分で望んだ未来でもある。天都の恋を応援し、自分の気持ちはしまいこんでいるのだから。



機械で埋め尽くされたそこが自分のいる空間だと認識しているせいか、ウラヌスはここでも表情1つ変えずに目の前にある巨大な筒状の水槽を見上げていた。3日に1度はここで細胞の調整を行わない限り、自分に未来はない。人間として欠陥品だが、人間以上の能力を手にしている代償だとして気にもしていなかったが。ただ、時々感情が揺さぶられる。人間として生きられない自分を呪うような、そんな感情に。3つ並んだ調整槽の真ん中以外には既に人が中ににる。機械の前でせわしなく動き回る職員を見ず、全裸のウラヌスは背後に立った不穏な気を発する存在へと顔を少し傾けた。


「木戸天都との接触は禁止だったはずだけど」


軽い口調が毎度のことながら勘に触る。いや、感情を全て排除されたウラヌスにとって、それは気のせいだ。だがこの男、木戸天空はどうにも好きになれそうもない。


「あいつのランクはB・・・必要最低限の接触なら可能だ」

「どんな必要があったんだ?」


ニヤニヤしつつウラヌスを追い越し、調整槽に片手をついてもたれかかるようにし、それからウラヌスの裸身をしげしげと眺めて見せる。彼女のプロポーションは遺伝子配合で決定づけられているために抜群で、張りのある大きな胸もまた女性的だ。くびれた腰にほどよい大きさのお尻など、男にしてはたまらないものがあった。


「木戸天都の監視対象ランク、及び強さのランクをSにすべきだ」

「あいつがS?」

「S以上が妥当だが、今はSまでしかないから」


その言葉を聞いた天空は職員たちが手を止めるほどの大笑いをしてみせる。だがウラヌスは表情を崩すことなくただじっと天空を見つめていた。


「あいつに関して調べつくした。何年か前に女を助けようと戦ったところも見たが、凡人に毛が生えた程度だったよ。殺気も中途半端、潜在能力も皆無だ。俺はそういうことを見破る目があるが、ありゃ雑魚だぜ?強さのランクなんか凡人のEでのいいぐらいだ。木戸だからDにしたってのに」


笑いを含みつつそう言う天空を見つめるウラヌスは天都のことを思い出していた。たまたま出会って、興味本位で接触をした。しかしその際に感じたモノは恐怖、それも圧倒的な恐怖だった。勘でも、本能でもそう告げていた。木戸天都は危険だと。


「妹の方はまだ伸びるかもしれんが、あっちは雑魚」

「なら再度調査を」

「あのな、『ゴッド』流に言えば、俺がジャッジメントした。その結果は揺るがないし、再調査もない」

「そうか」

「そうだ」


そう言い、天空は小馬鹿にした笑みを浮かべてその場を立ち去り、ウラヌスは担当技師に促されて調整槽に向かう。


「キド・アマトは『ゴッド』を超える存在だ・・・私たちの能力も、あの恐怖の中では満足に機能しないというのに」


過去、能力者は木戸周人や佐々木哲生から恐怖を感じてその能力を満足に扱えずに敗北した。その結果を受けてウラヌスたちはそういった感情を一切排除されて作り出された人造人間だ。クローン技術と遺伝子技術を掛け合わせたハイブリッドな人間なのだから。しかし、そのウラヌスが天都の中の何かに恐怖した。もし、その恐怖の元が発現した場合、感じた恐怖がどれほどのものになるのか見当もつかない。初めての感情に自分も、セイタンもプルートも戸惑って能力を十分に発揮できないと予測される。


「でも、私はそれを見たい・・・キド・アマトの真の力を」


機械的なベッドの上に寝かされたウラヌスの意識は急速に失われていく。それでも、そこに残っている恐怖は意識の奥底で滞留し続けるのだった。



祭の独特な空気が好きだった。だからか、既に朝から浮かれている自分がいる。小さい頃は神輿を担いだりして少々のお小遣いをもらっていたが、今はもう違う。ただ、少し天気が良くないのが心配だったものの、それ以外はただ夜になるのが待ち遠しかった。そんな天都が窓から顔を出していると藍色のTシャツに膝丈までのジーンズを来た佐々木進が歩いているのを目撃する。普段はわざと崩したような着方をしている進にしては珍しくきちっとしているのが気になった。まるで雰囲気はデートに行く際のようだ。速足で行ってしまった進を気にしつつ、それでも気分はお祭りなせいか、天都はそのまま部屋に入ると時間をつぶすためにゲームをするのだった。一方でその進はいそいそと電車の駅へと向かっていた。とはいえ、電車に乗るわけではない。駅の裏通りを少し行けば、そこは人通りが極端に少なくなっている通りに出る。裏通りであり、通勤時間をずらせばここはもう車すらろくに通らない場所と化すのだ。だからそこを待ち合わせ場所にしていた。進がそこに行けば、もうそこに目当ての車が停車している。日焼け対策をし、やや大きめのサングラスをかけた大崎心が軽く手を振っているのを見た進は満面の笑みを浮かべて素早く助手席に乗り込んだ。そうして進も車内に置いてあるサングラスをかける。


「おはよう」

「おう、おはよう。天気が微妙だけどな」

「目的地は晴れの予報だよ」


そう言いながら車を出すこころ。大通りを迂回して進むのは2人の関係がばれないようにとの配慮だった。そうしてしばらく行けば高速の入り口に差し掛かった。そのまま高速をひた走れば目的地までは2時間ほどで到着する。そこは避暑地であり、山のふもとに大きな川が多くの支流を伴う公園のような場所だった。地元の人間はあまり行かず、観光客や親子連れが多いこともあってそこを選んでいたのだった。人目を気にしなくてはならない2人にとって、そこは知り合いに見つかりにくく、また見つかっても言い訳のし易い場所でもあったからだ。見つかった場合のシュミレーションも完ぺきで、今はただドライブを楽しんでいる状態にあった。


「でもよかったの?今夜お祭りなんでしょ?」


運転しながらも自分の方に顔を向けたこころに小さく微笑むと、進は少しシートを倒してくつろいだ姿勢になった。


「別に・・・先生と遠出した方が楽しそうだし」

「うんうん、楽しいよ、そりゃ」


嬉しそうに、それでいてどこか照れたような口調に進の表情もニヤけてしまう。もう自分の気持ちはこころにあるせいか、それを自覚してからはこの時間が楽しくて仕方がない。だが、壊れやすいのも理解しているため、こういう車内でもないと落ち着いていられないのが実情だ。そしてそれはこころも同じだった。


「で、向こうで何するのさ?」

「美味しいかき氷屋さんがあるんだよね」

「・・・・・かき氷食うためだけにわざわざ行くの?」

「そんなわけないでしょ!」

「だよな」

「そう」


お互いにいちゃいちゃしたい、そう考えているが口にはしないし実行もしない。いや、出来ない。それをしてしまうと全てが破滅に向かうからだ。おそらく歯止めが利かなくなる。若い進もそうだが、恋愛経験が圧倒的に不足しているこころにしても公私の線を引けなくなるのが目に見えている。だからこういう曖昧な関係を続けるしかないのだ。お互いに両想いであることもにも気づかないまま。

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