例題.6
結局、日が水平線に付く前に朝出航した桟橋に戻った。
出て行った船が戻ってきたので少々の騒ぎに成ったが。
ケガ人と銃撃された内火艇を見ると直に連絡を受けた海軍の自動貨車もやって来た。
軍曹は一等兵を連れて指令部に出かけてしまった。
ケガ人の収容も終わると、日が完全に落ちてしまった。
今晩の寝床どうするんだろ…。
そんな不安が頭を過ぎると一等兵ダケが戻って来た。
飯と寝床が割り当てられたらしい。
出発は明日の日の出と共に出発だ。
正直助かった。
炊き立ての麦飯、沢庵、味噌汁を流し込みそのまま眠る。
夜が明けると雲が多い。
コリャ海が荒れるかもしれない。
軍曹が桟橋にやって来た。
「船頭、異常は無いか?」
「船体機関共に異常は無いです。今日は海が時化そうです、天気図の確認をお願いします。」
途端に嫌な顔をする軍曹。
「そうか…。今日中に本隊に帰還したい。」
「はい、了解しました。」
後から解ったが軍曹は空襲を避ける為に曇天の内に出航したかったらしい。
海は空襲より嵐の方が怖いのだが…。
出航直前の慌ただしい桟橋に海軍の自動貨車がやってきた。
出迎えた軍曹は乗ってきた将校と水兵と和やかに会話をしている、何かを受け取る軍曹。
書類だろうか?
帽子触れで出航を行なう。
水兵も帽子を振っている。
上の方は仲が悪いが、現地の兵はそうでも無い。
下っ端同士の連帯感が在る。
このようなコトは頻繁に出くわした。
出航した後は風が出てきた。
積荷は無いので足は速い。
「おい、早いが昼にするぞ。交代で休憩。」
「未だ10:00ですよ?」
「海軍サンから差し入れの弁当がある。人数分在るからな。」
軍曹が受け取っていたブツを出す。
手の平に収まる小箱だ。
「お。こりゃスゲエ。」
「細巻きに稲荷、中身は干瓢巻きだな。」
「こんな所まで来て干瓢巻きたぁ海軍さまさまだ。」
交代で、食事を取る。
うん、甘い。
稲荷か。郷里の父母は大丈夫だろうか?
後、職場のフネ。
打ち寄せる波は艦首で飛沫を上げる。
元々河川船底の平底フネには波を切る能力は無い。
未だ船舷を越える波は無いが揺れる船体。
お茶を溢し、文句を言う軍曹。
「随分とゆれるじゃないか?」
いや、アンタが出ろと言ったんだろ?
「元々、河川艇です、波を乗り越える能力はありません。船底も平らで低い。」
「このフネで外洋はいけないのか?」
「無理ですね。波の穏やかな日を選んで海岸線を伝って行くしかないです、今でさえ潮の流れを利用して進んでいるんです。」
「そうか…。」
「ココは海峡でも波が穏やかですからね?普通の海なら出られませよ?」
普通の海峡は潮の流れが速い場所が多い、このフネの行き足では流されるだけだろう。
しかし、この会話は後で自分の運命を変える物だったと知ったのは、もう、随分と後の話だった。