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例題.2

その日からボクの仕事はこのおかしなフネの面倒を見ることだった。

先ずは主機械。

ドコかで見たことが有ると思ったらフォードAAのエンジンだった。

エンジン自体には学校で何度も触ったコトがある。

変速装置はトラクターの物だった。

ムリヤリ付けた外輪は何とか芯が出ているので安心した。


問題は多い。

船体に対して馬力が足りなさ過ぎる。

水の抵抗を減らすしか無い。

困った時は上官に相談だ。

「は?船体を木で覆う?」

「はい、小野寺軍曹。船体が鋼鉄製で単殻です。捨て碇に引っかかると穴が開きます。水密区画は在りますが穴を塞ぐにはドックか陸に上げるしかありません。船体保護の覆いです。」

「必要なのか?」

「まあ。それなりに。もう既に艦首部の一部に穴が開いています。」

疑わしげな軍曹。

「接岸する度に船底をコスって居るようです。」

「そうだな…。」

「まあそういうフネです。仕方ないのですが、穴は木栓で塞いで水は排水しました。応急です。」

「うん?どうやった?」

「海に潜って下から触りました。漏水は在りますが一時間で10L以下です。」

「そうか…。発動機の方はどうなった?」

「発動機は気化器を分解整備しました試運転では問題ありません。暖気運転を多めにして下さい。」

「なんだと?こんなに暑いのにか?」

「暖気に気温の暑さは関係ありません。水温と油温が全てです。後は…。エンジン冷却水の水量が足りない様子です。」

「水は毎回確認している。」

「いえ、冷却能力が悪いんです。水温が上がりすぎます。水温計を手に入れるか。冷却水タンクを追加するかしないと。」

「解かった。お前。今度パレンバンへ行く時について来い。」

「はい、了解しました。」

ボクを船に乗せない心算だったのは不明だったが、ボクは辞令どうりにフネを操縦するコトに成った。

フネの修繕が一段落着くと夕食前に小隊長に呼ばれた。

軍曹と伍長も居る。

「おい。二等兵。船体の改修について説明しろ。」

いきなり言われた。

何も用意していない。

「現状の形状は…。恐らく浮き桟橋の一部であった物を船体にして推進器を付けた物です。前に進むには推進力も発動機の力も足りません。水温が上がり気味になります。船体も単殻で何かに当たると直に穴が開きます。」

「そうだな。」

頷く髭の少尉。

「発動機は簡単に変更できません。そのためには水の抵抗を減らす為に単殻船体に木を貼り付け艦首に水切り板をつけます。まあ、ボートの形に近づけます。」

「ソレでは砂浜に上がれないのでは?」

伍長の言葉だ。

そうか…考えて無かった、どうするか…。

「艦首の、船体の防水区画をバラストにする方法が在ります。」

「何だと?」

「艦首の一部に排水用のバルブが付いていました。使っていないようですが。恐らく昔、水平を取る為に使っていた様子です。コレで重心が後ろ気味のフネを水平にします。離岸する時は水を排水して前を軽くして離岸します。」

「出来るのか?」

「ええ、あの…。排水は手動ポンプでかなり大変だと思います。」

「何時でも離岸できるのか?」

「何時でも、とは行きませんが…。」

「まあ、良いだろう、次の満潮を待つより楽だ。」

頷きあう上官たち。

「よし、芥子川二等兵、改修の為に図面を製作するコトを許可する。しばらく艇に乗れ。現地での上陸、資材の調達を許可する。」

次の日朝からフネを出すコトになった。

パレンバンから油と食料をムントクに輸送する仕事らしい。

発動機の機嫌を見る。昨日の昼に気化器を分解清掃してある。

燃料が落ちるのを待ちセルクランクをゆっくり回し油を循環させる。

クランクシャフトの感触は良い。

手を挙げ合図する。

「おい、発動せよ。」

「了解。」

一気に回すと反動でセルクランク棒が外れて発動機が咳き込むが直に安定する。

急いでチョークを絞り音が高いままでしばらく暖気だ。

「ははは、今日は機嫌が良いな。」

一等兵が笑う、手巻き式の手動ポンプで垢水を排水している。

「二等兵、暖気にドレだけ時間が掛る?」

「えーっと、水温と油温が上がるまでです、恐らく20分掛りません。」

「了解した。20分後に出発する、用意せよ。」

号令で艇に乗り込む船舶兵達、総勢6名だ。

「出航!舫いを外せ!!」

陸の兵が舫いを外すとソレを3人で巻き上げる。

ボクは発動機の守に任命された。

ハンドルを握る。

アクセルと、点火タイミングレバーそれと”変速操作に専念しろ。”との小野寺軍曹の命令だ。

舵は別の一等兵が操作している。

このハンドルは舵に繋がっていない。

自動車の物そのまま付いている。

只の手置き台だ。

ゆっくり川を登る。

排気ガスが白くなってきた。

「軍曹殿。液温が上がって来ました。低速に落したいのですが。」

「ああ?コレから川を横断するんだぞ?流されるぞ?」

そう言う事は早く言ってほしい。

目の前に川の合流点と中洲が迫って来る。

「流れの緩やかな所を選んで進みましょう。」

「出来るのか?」

できるワケが無い。

「ええ、たぶん。」

河上に向かってジグザグに進む。

浅い所が有るので注意する、

外輪が巻き上げる川底の泥の色で判断するしかない。

思ったより流されたが何とか目的の川に入るコトが出来た。

「おお。お前上手いな。」

「はい。娑婆では内航船の船員でした。」

「なんで海軍に入らなかった?」

「ええ、そうですね。入って置けば良かったですが、結局フネに乗っているので変わりないです。」

「はははは、おかしなヤツだ。」

機嫌が良い軍曹。

兵もにこやかだ。

晴天に緑の水面に反射する眩しい光り。

密林の緑色。

極彩色の大きな鳥もいる。

「時間より早いな。おい、二等兵、ソコの砂浜に突撃しろ。」

「はあ?」

「上陸準備だ。大発乗ってたんだろ?命令だ突撃しろ。」

「え?は、はい。了解しました。」

アクセルを開け回転数を上げてから変速機をHiにする。

回転数を一旦下げアクセルを開け点火タイミングを発動機の音と排煙を見ながら合わせる。

一等兵が舵に繋がったウォームギアハンドルを手早く回している。

砂浜に対して直角になり船底が擦れる感触が突き上げ船体が乗り上げる。

変速機をニュートラルにしてエンジンを停止せずにアクセルを戻し。

点火タイミングと空気を調整する。

「よーし。歩板下ろせ。」

テキパキと動く兵隊達。

そうこうしていると砂浜の奥。森の中からゾロゾロと人が出てきた。

原住民だ。

「カメラード」

「はろう、まーひと。うぇるこん、びねん。」

軍曹が原住民に語りかけている。

「え?小野寺軍曹なんですか?」

「ああっ?宣撫工作だよ、ココの住民には戦争も大日本帝国も米英蘭も関係ねえ。市井の方々の生活に便宜を計るのも軍の仕事の内なんだ。このままパレンバンの入り口で下ろすからな?」

「良いのですか?軍の資材で。」

「あのなあ。おめえもバナナ喰ったし魚も喰ったろ?元はといえば皆コイツ等の物だ。物資を得るには交渉が必要だ。高い安いは関係ないが全部銭は払ってる、安くしてもらうにはこうやって便宜を計るんだョ。」

そうこう言う内に人が乗ってくる。

皆頭の上に籠を載せたり何かを担いだ人ばかりだ。

子供も年寄も若い女性も居る。

「よーし。全員乗ったな出せ二等兵。」

「あの。重すぎます。」

「あ?もっと乗るだろ?」

「いえ、船体バランスが悪いんです。出るときに水平を取りましたが、今は艦首が重い状態です。離岸できません。」

「あ?どうするんだ!!」

「後ろに詰めて下さい。」

「おお。解かった。」

何かを叫ぶ軍曹。

原住民が船尾に集りだした。

後ろに詰めてギュウギュウ詰めだ。

お嬢さんと密着してだらしない顔の軍曹を尻目に後進一杯をかける。

水飛沫が飛び驚く原住民の叫び声が響くが船底が擦れる音がして離岸に成功した。

歓声を上げる住民達。

「船体のバランスが悪いので前に移動してください。」

「あ?ああそうかい。残念だ。」

「ふう、今回は早く離岸できたな…。一晩過ごすのかと思ったぜ。」

舵を操作する一等兵がぼやく。

まさかな…。フネの遅延は発動機不調のダケでは無いのでは?

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