例題.1
(´・ω・`)ゞ間に合った!!(間に合っていない。)
フネを降りろと言う命令を受けたのは晴天の霹靂であった、この四千屯を越えるフネは陸軍の管轄で大発を少々積んでいる。
その内の一隻がボクの配置であった。
司令部が移動になったので一部のフネを残し移動するとは聞いていた。
その為に増員も有った。
しかし、まさかボクが居残り組みだとは夢にも思わなかった。
手早くフネの私物を纏め方々のお世話になった方に挨拶に出向く。
皆出航の為忙しいがこの業界では別れはよく在るコトだ。
又思わぬ所で会う事もある。
名残を惜しむが、地面で手を振りボクのフネと分かれる。
陸式では船舶だがボクの娑婆の職場では全て”フネ”だった。
ボクは故郷の工業学校機械科を出た後、地元の内海。
内航船の貨客船船員で機関の仕事をしていたのだ。
小さなフェリー会社の小さな船だったので、手の空いている時は全ての仕事を行なった。
やっていない仕事は船長ぐらいだ。
その為大発の操縦を覚えるのは簡単だった。
部下の指導や発動機の整備も行なっていた。
まさかそのフネを下ろされるとは思わなかった。
昭南島の港から西埠頭、船舶輸送司令部へ向かう。
白い英国式の船舶司令部の建物で辞令を受け取る。
”暁第3752船への転属を命じる。”後は名前、ソレだけだった。
問題はそのフネがドコに有るのか?だ。
船舶部で訪ねる。
「いま、パレンバンに向かって居る筈だ。」
ドコだ?それ?
「はい?何時戻りますか?」
「さあなあ。」
「帰着する桟橋はドコですか?」
「いや、スンサンが拠点だ。ソコで待て。」
「向かう方法は在りますか?」
「ああ、ちょっと待て。スンサンへは明後日に出る船がある、民間船だ。旅券を出そう。」
指令部で英語と漢文、日本語交じりの旅券が出される。
軍票の様なモノだ。
おかしな話だが船員はフネに乗るまでが大変だ。
特にフネが絶えず移動している場合は。
結局、指令部を出て桟橋で乗る船を確認すると。
最短で明後日出るスンサンへの船が有るらしい。
夕方にフネが居るか確認して朝には出発らしい。
えらい事だ。
取り合えず桟橋近くの宿を取る。
軍票での払いだ。
部屋に入り確認する。
後はやる事が無い。
桟橋を散歩しても良いが、売り子が多い。
”バナナが安いのでつい買ってしまうと後が大変だ”一等工兵殿の話を思い出す。
異国の町をぶらついても良いが単独では心もとない。
士官が居れば物見遊山が出来るのだが…。
陸軍工兵の碇付きが陸を歩くのも可笑しな話だ。
いや、陸軍がフネに乗るコト自体が可笑しいのだが。
地上には川も湖有る、海峡を挿んでいることも有る。
だからこそ必要なのだ。星と碇が。
さて、それから遅れて三日後の夕方に待望のフネが桟橋に接岸した。
何度も聞きに行ったので顔を覚えたオフィサーが「明日の八時に出航です。」と教えてくれた。
今日で陸ともオサラバだ。
荷物は何時でも出発できるように、もう既に纏めてある。
馴染みになってしまった宿のマダムにも明日のお別れを告げ最後の陸での晩餐と朝食を食べ桟橋に向かう。
南洋の海は穏やかだ。
この小さな船はボクを運んでくれる。
付いた港は到底港に見えない様な漁村であった。
嘗てボクの娑婆の母港もココまで酷くない。
思わず何度も船員に聞いてしまった。
間違いなく、スンサンらしい。
船体の網梯子を下り伝間船の小船に乗って接岸すると…。
何も無い。
民家が20件ほど有るだけだ。
本当に拠点が有るのか?
しかし、木と蔓で出来た桟橋の元に日の丸が翩翻と翻る高床式の椰子で葺いた建物が見える。
取り合えず向かう。
「失礼します。第三船舶輸送司令部より暁第3752船への転属を拝命しました、芥子川 真治二等船舶工兵です。」
「おおよく来た。待っておったぞ。ココは第3機動輸送中隊第2小隊だ。小隊長のM少尉だ。宜しく頼む。」
M少尉は随分と年配の髭の少尉だった。
扇子を振るのを止めない。
恐らく予備役動員だろう。
返礼は無い。
「はっ失礼します。」
拳骨でも飛んでくるかと思ったが随分と気の抜けた職場だ。
「もうすぐ、所属の機動船が帰ってくる。その船舶に搭乗してもらう。よいか?」
「はい、少尉殿。」
「ああ、ココではそう言うの良いから…。でも、他の小隊が来たときはしっかりやってくれ。」
「はあ?」
「まあ、ココの水に馴染むには時間が掛るかも知れんが…。艇が着くまでは待機していろ。伍長、宿舎を案内してやれ。」
「ハッ、二等工兵コチラに来い。」
「失礼しました。」
司令室?を退出する。
「おう、こっちに来い。先ずは便所と食堂。お前の寝床を案内する。」
随分と横柄な態度だが偉ぶった態度では無く。
気が抜けた態度だ。
「お前さん、機械は出来るのか?」
「はい、発動機の整備程度なら出来ます。」
「そら、良かった。ココの小隊は応急兵ばかりで生え抜きが居ない。困ってたんだ。」
なるほど…。何となくボクがフネを下ろされた理由が解かった。
「あの、自分も応急です。」
「そうか…。まあ、こんな所だ陸式は仕舞って置いてのんびりやろうや。偶にお偉いさんが来た時にはシッカリするから。忘れんなよ?」
少尉殿はお偉いさんではないのか?
と心に思うが、とにかく前線でも後方でも無い場所に来てしまったらしい。
付いた兵舎は内陸に木を伐採した森の中に在る。
井戸もあり水瓶に水を入れるのが当番の二等兵の仕事らしい。
「E二等兵。新任の芥子川 真治二等船舶工兵だ、後は教えてやってくれ。」
「はっ、了解しました。」
そのまま立ち去る伍長。
「じゃあ、芥子川、ココでのやるコトを覚えてもらう。」
「はい、」
どうやらココでは飯炊きまで兵の仕事らしい。
「どうやら今日は。艇が戻らないな…。」
米を用意するE二等兵の呟き。
暑さで日持ちがしないので人数分しか食事を用意しないのだ。
そうなるとかなり寂しい人数だ。
「良くあるのですか?」
「あ?ああ艇がな。発動機の機嫌が悪いんだ。その他、色々機嫌の悪い所が多いが。海軍サンの魚雷艇に引っ張って貰って帰って来たことも有る。」
魚雷艇では無いと思うが陸兵のフネの認識はその程度だ。
結局その日は戻ってこなかった。
朝の日課を覚える為先任に付きながら作業を行なう。
朝飯は蒸したパンの木の実とバナナ入り乾燥味噌の味噌汁という、よく解からない朝食であった。
バナナの食感は青臭い里芋だ。
日課が終わると先任が魚を捕っているらしい。
先任の手作りの魚篭が仕掛けてあるらしい。
凡そ軍隊らしくない。
「ココは喰う物には困らないからな…。兵舎を増設する心算で森を切ったが、ソレも無くなった。ソコは畑になってる。」
「そうですか…。」
本当に戦争しているのか?
昼前にバナナの収穫に出る。
「ココはバナナの木は全て持ち主が居るから、取って良い木は決まっている。横着すると原住民と諍いになるから必ず守るように。」
先任がキツク言う。
バナナの籠を背に森を進む、木に目印が書いてある。
重いバナナを担いで道を戻る。
汗が噴出す。
森を抜けると海風が心地よい。
砂浜の桟橋には艇が停泊している。
「お、戻ってきているぞ?」
「あれが、え~。」
思わず声を上げてしまった。
近づくと艇の兵が桟橋の上で物資の積み下ろしを行なっている。
「おう、留守中ご苦労。ソイツは誰だ?」
先任と共に桟橋に上がると低い声で誰何された。
下士官殿なので同時に敬礼する。
「新たに配属された補充兵です。機械に詳しいそうです。」
「ソイツは良かった。俺は小野寺軍曹だ。分隊を指揮している。」
軽い敬礼で返す無精ひげの軍曹。
日に焼けていかにも古参のふてぶてしい態度だ。
「はっ、暁第3752船への転属を拝命しました、芥子川 真治二等船舶工兵です。」
「そうか…なら俺の部下だな。コレが3752艇だ。」
凄く気になっていた。まさか…。
「そうでしたか…。しかし、コレは…。」
「ああ、外輪船だ。」
「船尾…。外輪船ですね。船体は艀か方舟ですか?」
「おお、よく知っているな。二等兵。元々は昭南島の造船所で転がっていた廃材で現地製造したものだ。発動機と変速装置は自動貨車の物らしい。」
「そうですか…。」
正直、外輪船なんて教科書の絵でしか見たことは無い。
「コイツは大発のを参考に作った物だ。」
恐らく元は箱型の艀だったのだろう。
乾舷が拡張されて艦首に平らな歩板が付いている。
倒して。歩兵や車両が搭載できるのだろう。
「大発を操船していました。整備もです。」
「そりゃ心強いコイツの発動機は直に機嫌が悪くなる。指令部に詳しい者を寄越す様に頼んでいた。すまんが今すぐに掛ってくれ。」
「はい、解かりました…。工具を取りに行ってきます。」
「昨日も機嫌が悪くなって日没になった。今朝は何とか良くなって帰ってこれたが。何とかしてくれ。」
今更。外輪船なんて。
そうか…。ボクが呼ばれた理由が解かった。
どうやらこのおかしなフネを何とかするのがボクの使命らしい。
(´・ω・`)ゞ急いで作ったので設定が甘いですが、頑張って終わらせます!!