前編
何気に短編を書いていたんですが
異常に長くなってきたので連載となります
前後編で落ち着けると思います。お付き合いください。
あと、他連載作品
「異界で喰われて進化する」と「勇者を殺す勇者」
この二つとは神世界観を共有しております。
故に最初に見知った方が出てきますが。別によく似た人ってわけじゃないんだからね!
「どうもありがとうございました」
一礼する女性を伴い商談室を出る。
絹のような金髪そして主張する双丘をタイトスカートにブラウスというものに暴力的に押し込めた女性。
どう見ても西洋人ではあるが流暢な日本語であいさつした女性は玄関を出るときにもう一度会釈し颯爽と出ていった。
俺、三条平蔵は去っていく美しいヒップラインを眺め終わりじぶんの席へと変える
「さんぞーさん、あーいうのが趣味なんだ」
戻ってきたところに向かいの席の社員、弁野沙羅がニヤニヤしながら言ってくる。
因みにさんぞーとは自分のことである。昔からこの名前短縮されるんだよねぇ。
「まあね、ベンちゃんとちがってどこのセレブかってくらいだったし清楚っぽいし、ああいうのが彼女になってほしいよなぁ」
「ベンちゃん言うな!」
ティッシュケースを投げつけられる。
彼女は中高と水泳の選手だったらしく可愛い顔の割には高身長、そしてスレンダーと少しアンバランスである。そして体育会系にありがちなことに口より先に手が出るという悪癖があり大体このやり取りで彼女から口が返ってくることはない。
そして名前はともかく弁野という名字を嫌っている。いつもベンちゃんと呼ばれてきたのが理由らしいが
だからこそ早く結婚したいのよ、とは新入社員歓迎会の時の彼女の談。
結果はいまだ彼女がベンちゃんなので推して知るべしである。
「こらこら、そこで乳繰り合ってないでさっさと書類もってこい」
離れた席から笑いながら叱られる。
片野東亜。この有限会社 鈴華の社長である。
「それにあのねーちゃんはやめとけ。あんな見た目だが今メイン張ってるやり手だぞ」
「ああ、あそこは彼女がNo.2でしたっけ?」
社長の言葉に沙羅の隣の女性社員がいう。淡路恵美子。アラフィフの古参社員ではあるが息子3人、うち二人は大学卒業。あと一人が受験生という某女優も真っ青という美魔女である。
昼休みには沙羅と二人メイク用品お話で盛り上がっていたりする。
「そうだな、あそこはちょっとやばかったんだがナンバーワンに隠居させて今あのねーちゃんで立て直そうと躍起になってる。」
「どこの世界も大変ですねぇ」
「ま抜けなこと言ってないでさっさと書類もってこいっての」
社長に怒られる
「エタナフェイアねぇ。今回は3人処理!?いや内二つは代理申請なのか?どれだけ必要なんだか」
「500人も転生させるってよく許可おりますね?これ以上とか大丈夫なんですかね?」
「問題ねぇえよ、一度か1000年単位かって違いはあるが大体どこの世界もこんなもんさ。」
(有)鈴華、人材派遣を業務としている。ただし派遣先は異世界。取引相手は神様である。世の中にあふれる異世界召喚、異世界転生。それぞれの世界の神が勝手に行うことなどできはしない。持って行く先にお伺いを立て、承認の手続きが必要なのである。でないとただの人さらい、神である以上厳格な処理が必要なのであった。
そしてこの世界は実は引く手あまたの人材の宝庫。宇宙には珍しくマナのゼロ地帯での生命文化圏。その割にはアニメ、特撮、ゲームと魔法への知識が豊富。教育水準が高く特に文明の開拓者としても使える。日本人は絶好の獲物であった。
それゆえに地球の魂管理は多忙を極め管理局への申請窓口という態で鈴華のような会社があるのであった。
因みにうちの社長はもと管理局のお偉いさん。いわゆる天下りである。といっても個人開設の見た目零細企業なのだが当時の部下二人を引き抜き独立したという経緯がある。
RRRRR
「はい。毎度ありがとうございます。有限会社鈴華でございます」
さっきまでの気の抜けた声から一変、できる女の声で沙羅が電話を受ける。
ずっとそのままなら沙羅ちゃんでも似合うのねぇ。
「三条でございますね。少々お待ちくださいませ」
保留しこちらを見る。
「さんぞーさん、管理局よりお電話です」
社長ににらまれる。今度は何やらかしたんだ?
************
「あんなのわかんねぇよ!」
仕事終わりの居酒屋。ベンちゃんと並んで座ってビールを一気飲みしている
「はいはい、しゃちょーも問題ないって言ってたんだしいいじゃないの」
枝豆食べながら、おざなりに慰めてくる。いやあしらわれてるって感じだ。
「はは!、さんぞーくんも最近大物扱いが多すぎたからね。管理局に目でもつけられてたんじゃないの?」
向かいの席で笑いながら言うのは住吉大記さん。先輩社員である。結構なイケメンで物腰もよく白スーツにメイクで立派に歌舞伎町でやっていけそうなひとだ。実際に会社設立からのメンバーで男神は淡路さん、女神は住吉さん二人の顔で引っ張ったのでは?というやっかみがあったらしい(とは淡路さんの談)
「いや、うちは営業なんてしないんですから睨まれる理由がないですよ。全部飛込じゃないですか」
「昔は、ぼくも淡路さんも、そして社長もいろいろ走り回ってたよ。同業者もそんなに多くなかったしね。まあ今くらい落ち着いてくれる方がありがたいね。」
「社長は有名ですもんねぇ」
住吉さんの言葉にベンちゃんが答える。
いろんな伝説(の一端)を知るものとしては苦笑いで頷くしかないが
「住吉!相席いいか?」
声をかけられ三人が振り向く。
「八幡か。おっともう一人いるんだな。親父!奥の座敷に移ってもいいかい?」
店主の了承と共に席を移る。今は4人席だったので流石に五人目は入らない。
「すまないな、さんぞーくん。どうしてもこいつが話をしたいっていうから」
八幡が言う。彼は住吉と前の職場で同期ということもあり。すっかり飲み仲間となっていた。
「稲倉です。顔を合わせるのは初めまして、ですね」
声を聴き、沙羅と二人納得の顔になる。
稲倉美琴、名だけはよく知っている。取引先、管理局の担当者。
そう昼間に電話をかけてきた本人である。うりざね顔の和風美人。少したれ目で優しい雰囲気だが
仕事においてはシビアで有名である。同業者の新人はトラウマになるものも多いという女傑だと思っていたのだが・・・
「ほんっと美人には弱いのよねぇ」
ジト目で沙羅がつぶやく。いや、可愛いのもいけるんですよ。でもからかうのが面白いだけで
「すいません無理言って八幡さんに連れてきてもらいました。」
稲倉が頭を下げる。
「昼間の件でぜひ直接お謝りしたくて」
やはりその件か。でもそれは
「いいですよ、それはもう終わった話なんですから」
「でも・・」
何か言いかけたところで八幡が遮る
「はいはい、終わりだ。お前は謝ってさんぞー君は受け入れてくれた。あとは楽しく飲むだけだろ」
そういうとビールの入ったグラスを差し出してくる。
「ですね。稲倉さんももういいですよ。それでこの一件は終わってますから」
こちらもグラスを掲げる。にこりとした住吉さんも合わせグラスがキンといい音を出す。
その後は和気あいあいと仕事の話近況になっている。彼女は呑兵衛らしくいつの間にか酒が日本酒になっていた。あては揚げ出し豆腐だけという何とも変わった飲み方である。
沙羅も知らぬ間にそっちを飲みだし楽しそうによくわからん話をしている。
「でもね、確かに異常な確率だよ?」
八幡が切り出した。
「異世界転生はうちの方針としては大歓迎なんだ。なんせこっちはマナ不足なんだからな」
そう、それこそが異世界転生の本当の目的。地球はあまりにもマナ不足そして文明が進みすぎたことにより信仰も激減した今獲得を増やすためと打ち出した施策が異世界転生である。
マナ過剰地帯は魔法という文化が原因となり。文明は進んでも中世世界どまり。そこで文化起爆剤としての人間を転生させ文明レベルを上げる。こちらはその進歩分に応じマナ譲渡を受ける。というシステムが出来上がっているのだ。
「それにしても英雄魂の転生の扱い確率が異常なんだよ。さんぞー君の扱った魂のほぼ7割が英雄として向うに定着している。統計とった稲倉さんがいぶかしんでそっちに連絡入れるのも分かるだろ?」
「そんなこと言われましても、持ち込まれるものを審査して通してるだけなんですけどねぇ」
本当に困惑して答える。
人の魂というものは通常は死ねば輪廻の輪に入る。それは半ば自動で行われるものであり魂はそれに逆らわない。汚れた魂もその際洗浄されるのでいわゆる地獄というものはない。稀にはぐれる魂もあるがそれは別に回収部署が存在するので問題はない。
異世界転生はその輪廻の輪に入る前に魂を抜き出す作業である。
異世界転移はもう少しおおざっぱに生きた人間を攫って行く行為ではあるのだが
こちらは当然世界の修繕分も含めかなりマナが割高に設定されており、いわゆる一クラス異世界転移みたいな話だとうちみたいな零細企業10年分くらいの売上分が必要である。
つまり 異世界転移>異世界転生>異世界転生(チート能力無し)という感じでコストが変わっていると思ってもらっていい。
そしてその中でも英雄魂はまたコストが高い。
過去の偉業という意味ではなく偉業を成す(可能性がある)という魂である。
魂が比較的解脱直前まで輪廻を巡っており内包される力がかなり強いとお得な魂である。
実はこの魂は世界管理ではその存在を見ることはできない。
最終的に決済処理の段階で分かるというレア魂である。
そのため選んで転生などできないはずなのだが。
「まあ僕の記録でも年度取り扱いの二割だったかな」
住吉さんが言う。
「そうだな、あの時の住吉の記録なんて誰も破れないと思ってたんだよな。あれは経験者なら絶対届かないと思う数字だったんだよな」
笑いながら八幡が言う。どうやらその記録の時は二人は同じ仕事だったようだ。
「たまたまですよ、社長や住吉さんのネームバリューのあるうちの会社だからこそ偶然いい物件に当たっただけだと思うんですけどね」
「たまたまね、自覚のないのが末恐ろしいな」
「そりゃそうさ、なんといってもうちのエースだしな。社長に一から仕事仕込まれてるんだよ。これくらいできるのはむしろ当然かもしれない」
「確かにだ、片野さん仕込みか。それが一番納得できる答えだな」
八幡は住吉の言葉に得心がいったように笑い出した。
************
その後酔いつぶれた稲倉さんは迎えに来た八幡氏の奥さんと共に帰っていった。
どうやら奥さんの妹らしくそのまま八幡邸で泊って帰るらしい。
「じゃあ任せたよ。」
居酒屋を出て住吉はこちらとは反対方向に歩き出す。帰宅方面が違うので、もう一人の酔っ払いは自然こちらが引き受ける形になる。
「ほらほら、足元気を付けて」
「きゃーさんぞーさんのえっちー」
ふらついてるのを支えている。そういや普段飲むときはいつもビールなのに急に日本酒にしたもんだから加減がわかってないのかもしれないな。
結局彼女を部屋に連れ帰るまで泥酔状態であった。
「ほら、鍵出して」
「むー、ばっぐのなかぁ」
酔っ払いを玄関に放り込み帰ろうとするが。こいつそのままここで寝てそうだな。
女性の部屋というのは少し抵抗があるが。人命救助的なものと思い直してベッドまで持って行く。
「おみず、もってきてぇ」
酔っ払いめ、今の状況解ってるのかね?
冷蔵庫を開けコップに水を注いで持って行ってやる。
「ほら、持ってきてやっ・・ぶっ!」
何でわずかそれだけの間に服脱ぎ散らかして上がブラだけになってるんだ?こいつ
「おみずありがとー」
酔っ払いはコクコクとおいしそうに水を飲む。
逃げ出したい。今ここで正気にでも戻られたらえらいことになる。
「ねえ、さんぞーさん。あたしじゃだめ?」
顔をそむけている側の腕に抱き着いてくる。見ないように顔を背けるが神経は腕にまとわりつく柔らかさに集中してしまう。
「おっぱいおおきいのがすきなのはしってるんだけど、あたしもそれなりにおおきいんだよ?あたしじゃだめなの?」
理性のブレーキはほぼ限界である。確かに可愛い。気立てもいいし、押し倒したい。でもまて。彼女は同僚。酒の上での合意はみなされない。ましてや泥酔状態だ。いま盛り上がっても逆に記憶がなくてあとで強盗レイプ犯といわれるかもしれない。ここは落ち着いて素面になってから・・
「すきなの・・」
ぷち、理性が切れました。
************
翌朝、目覚めると彼の顔が目の前にあった。
一瞬で夕べの失態を思い出す。私は昔から酒癖のわりに記憶をなくさないという悪癖を持つ。
普段彼と飲むときはビールとかで理性をなくさない程度にとどめていたのに、昨日は失敗だった。
あの女、稲倉の目的が彼だったことは明白だ。思えば昨日の言いがかりも会うための作戦だったのだろう。
女同士話せば気づくというもの。そして向こうも気づいたからこそ酔わせる作戦に来たのだろう。
邪魔者排除は結局ドローだったけれど、おそらくそれが酔ったうえでの告白なんてみっともない手に走らせてしまった。どうしよう?体で誘惑するはしたない女って思われたら。
そんなことを思いながら彼を見ていると目が合う。
しばしの沈黙の後
「あ、この状況はね、実は・・」
「だ、大丈夫。全部覚えてるから・・」
言いにくそうな彼にかぶせるように言う。あたしだってあんな恥ずかしい状況をもう一度説明されるのはごめんだ。彼はあたしをベッドに座らせ、自分はベッドの下に正座する
「沙羅さん。僕とまじめなお付き合いをお願いします」
土下座をする。それを見てあたしは笑い出す。
「すっぽんぽんで土下座なんて」
笑うのが止まらない。今度はそばに寄ってきてそっと抱きしめる
「返事は?」
もう一度問いかけられる
きかなくてもいいんじゃないかな?
止まらない涙に彼は優しく口づけをした。