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まぶしい。
顔に陽が当たる感覚で目が覚める。
ん?
なんか、ベッド広い?
シーツの感触、違う?
枕、硬い?
壁、柔らかい?
「うわぁっっっ!!!」
壁かと思ったのは、徹!
硬いと思った枕は徹の腕!
なにこれ?なにこれ?
私、昨日焼鳥屋で徹と呑んで……。
覚えてない。
一昨日も呑んだし、昨日は一日遊園地で疲れてたし、それでカパカパ呑んだらそりゃ潰れるよね。
とりあえず、服は着てる!彼氏持ちとしての、操は守った!
このまま、徹が起きる前にタクシーで帰ろう!
後は、知らない!
そうっとベッドから抜け出して、よしっ!って思った瞬間。
「起きたのか?由夏は早い時間に寝たもんなぁ」
まだ眠たそうな徹の声。
眠いなら、ぜひそのまま寝てていただければ。
そう言おうとして振り向けば、目の前に徹の顔があった。
「うわぁっ!!!」
思わず徹の顔を押した。
私のうろたえぶりをクツクツと笑いながら見ている徹。
「腹減ったなぁ。何食う?」
「へ?」
間抜けな返事をした私の横を通り抜けてキッチンに。
チョット。
私、食べるなんて言ってない。
「あ、私、いらないよ?すぐに帰るし。
昨日は、迷惑かけてごめん、ね?」
無視?
徹さぁん?と呼びかけても全く振り向く事はない。
どうしよう、と思っている間にコーヒーのいい香り。
可愛らしいペアのマグカップにコーヒーを入れて、座れよ?なんて笑う。
ああ、なんかちょっと、懐かしい。
変わってないなぁ。
でも。
「それ、彼女のマグじゃないの?私が使ったら、彼女嫌だとおもうよ?」
こんな女子力の低い私でも、彼氏の家にある私のものを、他の女が使うのは嫌。
見たこともない徹の彼女の恨みを買うのはごめんだ。
そういえば徹はクツクツと笑った。
「元カノの、な。出かけた時にせがまれて、俺が買った。だから気にすんな。」
イヤ、なんか、違う。
そう思っていても、どう違うのか説明もできずにいれば、
あっという間に私の前にはトーストとハムエッグ。
さすが、です。徹さん。
え~と、と言いながらモグモグと食べはじめてしまう私。
久々の再開、お出かけ、ご飯、それに一緒の朝食。
幼馴染は文句なしにイケメンで。
これって、ドラマだよね。
これから恋愛始まっても全然不思議じゃないくらいの、素敵な感じ。
遠距離の彼氏とイケメンの幼馴染との間で揺れる、なんて少女漫画みたいな憧れのシュチュエーション。
なのに……。
私の頭の中は、卑屈な感情で一杯。
寝起きのくせに綺麗な顔、とか、女連れ込むのなれてるんだろうなぁ、とか。
我ながら嫌になる。
子供の頃はあんなに仲が良かったのに。
頼りにしてた、大好きだった幼なじみなのに。
徹は今でもあのころのまま私に接してくれるのに。
どうしたら、あのころみたいに素直に徹を見れるんだろう?
恋愛なんて始まらなくっていいから、ちゃんと徹に向き合いたい。
昔みたいに。
「……ご馳走様。これ昨日の分。私払ってないよね?ここ、置いとくね」
「俺が誘ったんだから、いらねぇ」
テーブルに置いたお金は、あっさりとバックの中に戻された。
でも、さぁ。
「男に奢ってもらうと、彼氏怒るから。私、態度にでるし」
「ふぅん」
再度、テーブルにお金を置く。
昨日、私一度も財布開いてないけど、1万で、足りるかな?
痛いけど、仕方ない。
空高く上った太陽に見つめられながら、徹のマンションをでる。
「おはよう、由夏!」
月曜の朝だっていうのに、愛衣が元気いっぱいに声をかけてくる。
私は、といえば若干寝不足気味。
「おはよう」
「あれ?元気ないねぇ。
お休み、徹さんとどこか行かなかったの?」
「……」
やっぱり、徹に私の携帯教えたのは。
ま、仕方ないよね。
知り合いって言ったし、武人さんに聞かれたんだろうなぁ
かなり、べったりくっつかれてたもんなあ。
私のため息に気付いたのか、少し申し訳なさそうな顔をする。
「迷惑、だった?なんか徹さんが連絡取りたがっているって言ってたから、つい。
ごめんね。彼氏に悪かったかな? 」
とたんにシュンとなる愛衣。
ああ、やっぱり可愛いなぁ。
「ううん、違うの、迷惑とかじゃなくって。
徹は幼なじみで、愛衣のおかげでちょっと話せるようになって、嬉しかったよ?
久々に一緒にちょっと遊んだんだけど、疲れちゃって。」
年だよね~、と笑ってごまかす。
ごまかせて、ないかも知れないけど、これでごまかされて下さい。
「そっかぁ。
由夏の昔の友達の話、あんまり聞かないから、ちょっと嬉しかったんだぁ
一緒に遊びに行ったんだ?良かったねぇ。彼氏とも遠距離だし、たまには遊び行くぐらい、いいよね?」
素直に喜んでくれる愛衣。
う~ん。
そういや、すっかり忘れてたけど、この週末は、電話一本なかった。
まぁ、私もしなかったけどさ。
付き合いも長くなると、優先順位が下がるのは仕方ないけどいくらなんでもこれはなくない?
あ、ちょっと腹立ってきた。
イラついた顔に気づいた愛衣が、困った顔でフォローを入れる。
忙しいんだよ、って。わかってますよぉ。
こっちだって、忙しいですよ?
イケメンの幼なじみと遊園地。
私が悪いけど、ばれたら絶対怒られるけど、でも、誰かにばらしてほしい気持ちがむくむくと起き上がる。
ああ、ちょっとヤキモチとか心配とか、されたい。
ちょうど良く、始業時間となってそのまま話は流れ、そこからは普段の月曜日。
お昼休みまでは、そのままお互い黙って仕事を続ける。
お昼のベルが鳴ると同じに私の横にきた愛衣。
ニコニコとしながら私を誘って会社の側にある公園へ。
お弁当派の私達は、歩いて5分のこの公園のベンチでお昼を食べる。
いつも笑顔の愛衣だけど、今日はまた特別にニコニコしている。
何かいいこと、あったのかなぁ。
「昨日、武人さんからメールが来てね」
少し照れたように笑う愛衣。
あれ?これは、もしかして?
うんうん、と興味深々に耳を傾ける私にはにかむように笑う。
「また、みんなでご飯にいけたらいいね!」
「……そうだね」
これは、なかなか進展しないかもなぁ。武人さん、いい人そうだけど。
徹と遊園地に行ってから2回目の週末。
その間、武人さんか毎日愛衣にメールを送っている。
最初こそちょっと困惑気味で、「なんて返信しよう」なんて考え込んでいた愛衣も今ではすっかりメールのやりとりを楽しんでいるみたい。
「武人さんから、ご飯のお誘いとかないの?」
からかい交じりに聞いてみれば、困ったように笑う愛衣。
誘われても、なんか用事作って断っちゃうんだろうなぁ。愛衣、軽そうな男性、苦手だもんねぇ。
悪い人ではないみたいなんだけどなぁ。
徹はと言えば、気まぐれに今日はあいてるか? といったメールが来る程度。
あいてるか? と言われれば慌てて予定を入れる。
愛衣とのご飯だったり、マッサージだったり、終いに、単発で料理教室にまで行ってみた。
おかげでこの2週間で私はすっかりお疲れ。
週末は寝るぞ~、なんて思って迎えた金曜日の終業時間。
私と愛衣の携帯が同時になった。
メールの相手は、武人さん。
あれ?間違えてない?
不思議に思ってみれば二人とも文面は一緒
『今日は修お勧めの店に呑みに行くよ~
よかったら二人もどう?』
二人で顔を見合わせていればまたも同時にメール。
『正樹です。
俺も一緒だから、大丈夫(笑)
場所わかる?会社まで迎えに行ってあげようか?』
正樹さんからのメールには、お店のリンクが張られている。
一緒だから大丈夫って。
いやだぁ~
隣に並びたくない~
なんて言って断ろう、と相談しようと前を向けば、顔をほころばせた愛衣の顔。
負け。
あんまりオシャレなお店じゃないといいなぁ。